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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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2話

本日の10時にも投稿しております。ご注意ください。

 

 忙しい日々の中、ある日アルヴィスは王妃に呼ばれた。王太子と言えども、王妃の子どもではないアルヴィスが後宮へ出入りするのは好ましいことではない。だが、今回は国王からも是非にと言われて、仕方なくアルヴィスは随分と久しぶりに後宮へと入ることになった。

 後宮へはエドワルドを伴うことが出来ない。許されているのは、後宮で働く侍女と近衛隊だけだ。現在、後宮を守る近衛隊は全員が女性。男性で後宮に足を運べるのは、国王やその子息のみ。そのため、アルヴィスを案内するのは女性の近衛隊だった。元同僚でも、後宮勤務の者たちとは関わりが少ないため、知らぬ人も多い。何を話すこともなく、王妃が待っているという中庭へと案内された。


「アルヴィス殿下、お待ちしておりました。どうぞ、王妃様がお待ちでございます」

「……あぁ」


 出迎えてくれた侍女と共に中に入る。庭の中央には、テーブルが置かれている。そこに女性が二人座っており、給仕のための侍女が側に控えていた。

 王妃がアルヴィスの到着に気が付き、立ち上がる。合わせて隣にいた女性も立ち上がった。


「まぁ、良く来てくれましたアルヴィス」

「……本日はお招きありがとうございます、伯母上。それと……お久しぶりです、エリナ嬢」


 王妃と共にいたのは、エリナだった。完全に予想外ではあったが、王妃と未来の王太子妃となるエリナの仲が良いことは知られていることである。時折、二人は会っていることを聞いていたので不思議ではなかった。

 エリナは、相変わらず綺麗な所作で淑女らしく頭を下げる。


「ご無沙汰をしておりました、アルヴィス殿下」

「うふふ。さぁ、アルヴィスも座って。貴方が少し働きすぎだと、陛下からも聞いていますからね」

「いえ、それほどでは」

「まぁまぁ。レナ、アルヴィスにお茶を。アルヴィスは甘いのが得意ではないから、少し苦いのをお願いね」

「かしこまりました」


 王妃にレナと呼ばれた侍女が、直ぐに動き席へ座ったアルヴィスの前に紅茶を用意する。食事は毎日共にしているからか、王妃はアルヴィスの好みを把握しているようで、最近は食後のティータイムでもアルヴィス好みのものが用意されることが増えてきていた。それは、アルヴィス専属となったティレアらも同様だ。

 手に取ったカップから漂う香りを味わいながら、口をつける。


「ねぇ、アルヴィス?」

「はい、何でしょうか?」

「エリナとはあまり会っていないと聞いたけれど……どうしてかしら?」

「……」


 その質問で納得した。どうしてこの場にアルヴィスを呼んだのか。婚約者と会う時間を作らないアルヴィスへ事実を確認したかったのだろう。ジラルドの時の様な不和を起こさないように危惧したとも言える。

 エリナとアルヴィスは、初顔合わせ以来一度も会っていない。数回ほどの儀礼的な手紙のやり取りはあったが、それだけだ。それも全てエリナ側から送られたもの。返信はしたが、自ら進んでやり取りはしていない。アルヴィス自身は、慣れない仕事に四苦八苦していてそれどころではなかった。今は落ち着いているものの、無理に時間を作ろうと考えたことはない。

 エリナは学園に復帰しており、通常は寮で生活をしている。外出には理由が必要であり、王太子妃教育の一環である王妃とのお茶会はともかく、アルヴィスと会うためという理由で外出など学園も認めないだろう。


「私が忙しかったのもありますが……エリナ嬢はまだ学生ですから、学業を優先すべきでしょう。只でさえ、妃教育があるのですから」

「学生を謳歌した方が、ということなのね」

「そうですね」


 アルヴィスの言い分に、王妃は一応は納得したように頷いていた。だが、まだ納得はしていないようだ。


「でもね、アルヴィス。それが、貴方の気遣いだとしても……女性の方はそう思わないものよ?」

「はぁ……」

「これはまぁ、ジラルドが悪いのだけれど……あの子はエリナとの時間はほとんど持たなかったみたいなの。だから周囲は貴方の様な考えはしていないのよ」

「……要するに、私に公然とエリナ嬢と会えと言うことですか?」


 貴族が何か勘繰りを入れることはあり得る話だ。確かに、アルヴィスが全くエリナと関わりを持っていないことに、ジラルドと同様に上手くいっていないと取られても無理はない。そこはアルヴィスが至らなかったせいだろう。

 既に公表もされている事実なので、二人で出歩くことは問題ない。誰に疑われることもなく、堂々と居られるのだがアルヴィスはこれまでその様な考えには及ばなかった。


「率直に言えばそうなるかしらね……ごめんなさい、あの子の不始末というのに。エリナにも、アルヴィスにも迷惑を」

「そ、そんな王妃様。お顔を上げてくださいっ!」

「いいのよ、エリナ。これは事実なのだから……」

「王妃様……」


 最近は少なくなってきたが、王妃はジラルドの事になると酷く低姿勢になる。もう過ぎ去ったことなのだからと、アルヴィスは割り切っている。しかし、王妃はまだジラルドへの想いを捨てきれないのだろう。アルヴィスはため息を吐いた。


「ジラルドのことは、もう良いと何度もお伝えしています。伯母上、ジラルドの罪はジラルドだけのもの。終わったことです」

「アルヴィス……」

「それで、話を戻しますが……私とエリナ嬢の関係が良好であることを見せられれば良いと言うのですよね?」

「えぇ……」


 繰り返しになるが、言い方を変えて王妃へ確認する。王妃は顔色を悪くしていた。これ以上は止めた方がいいのではないかと、侍女に目配せをする。アルヴィスの意図を理解した侍女が王妃へ駆け寄った。


「シルヴィ様、お下がりになられましょう……」

「……いえ、私が主催したのだから下がるわけには」


 シルヴィは王妃の名前だ。その名を呼ぶ事のできるということは、王妃専属なのだろう。侍女が説得するも、譲らない様子だ。仕方なく、とアルヴィスが後押しをする。


「……伯母上、ここはいいですから。少し休まれた方がいいです」

「アルヴィス……そう、ね……ごめんなさい、エリナも」

「い、いえ……」


 そうして侍女に支えられながら、王妃は下がっていった。ジラルドの件を思い出す度に、王妃は罪の意識から一気に体調を崩す。ここ最近では当たり前となっているので、アルヴィスからしてみれば珍しいことでもない。そこまで想われていたジラルドが、何故あのようになってしまったのか。それだけが、どうしても腑に落ちなかった。


沢山のブックマーク、評価ありがとうございます!

また、誤字報告もしていただき、ありがとうございます。

今後とも、本作を宜しくお願いします。

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