10話
暑い日と寒い日と交互に気温差が激しい日が続き、風邪気味です(;^ω^)
皆様もどうかお気をつけて、楽しいGWをお過ごしください!
それから数日後のある日、アルヴィスの姿は王城内にあるサロンの一つにあった。その正面に向かいあって座っているのは、アルヴィスの友人であるシオディランである。
「先日以来だな、シオ。あの時はラナリスのエスコートをしてもらって助かった」
「お前の大事な妹君だからな。あの容姿に加えて、王太子殿下の実妹であり公爵令嬢だ。ちらほらと視線は感じたから、お前の心配は正しかったのだろう」
「そうか」
ベルフィアス公爵家から、即ち父であるラクウェルから今年中にラナリスの婚約者を決めると言われていた。その情報は、社交界へも伝わっている。繋がりを得たいと考える家があるのは当然だ。
「シオ、お前はどのくらい王都にいるんだ?」
「とりあえず一月半はこっちにいる予定だ。その後も今年は何度か往復することになりそうだが、それがどうかしたか?」
アルヴィスはシオディランへ事情を説明する。アルヴィスが側妃を持つつもりがないということ。そして、そのことで国王と意見の相違があるということや、ヴィズダム侯爵令嬢のことも。
「想像通りだな」
「シオ?」
「ヴィズダム侯爵令嬢のことは見ていたから知っている。お前がこうも真正直に私に伝えて来るとは思わなかったが、それ以外は概ね想定通りだ」
「想定通りって……お前な」
一切表情を変えず淡々と答えるシオディランに、アルヴィスは肩を落とす。反対されるとは思っていなかった。だが、アルヴィスの行動をある程度予測させられていたとまでは考えていなかったのだ。
「私も、そしてアルスターがこの場にいたとしても、お前がヴィズダム侯爵令嬢を娶ると言えば、気が狂ったかと考えるだろう。お前にそんなことが出来るとは思えん」
「……流石にそれは言い過ぎじゃないか?」
「既に妃殿下が妊娠中なのであれば、急ぐ案件ではないだろう。お前も気負い過ぎだ。何をそんなに頑なに考える必要がある」
「そんなつもりは――」
「ない、とは言えないだろう?」
頑なになっている。そう指摘されてもアルヴィスにはすぐに理解できなかった。シオディランは溜息をつきながら言葉を続ける。
「万が一のことがあったとしても、お前には弟がいる。彼とて立場的にはお前と同じだ」
「ヴァレリアにまで背負わせるわけにはいかない」
「何故だ? 王弟の息子という立場で言えば変わらんだろう?」
「だとしても、ヴァレリアは……」
ヴァレリアの母はレオナだ。だが、ラクウェルの息子である。アルヴィスとの違いは、ただ正妻と第二夫人という母の立場の差。血筋が途絶えるわけではない。単純にアルヴィスがヴァレリアに負担を掛けさせたくない、背負わせたくないというそれだけの話なのだ。
「お前が兄として弟のことを考えているのはわかる。だが、それも今考える必要はないと私は思うがな」
「全て、今決める必要はないということか」
「まだ何も決まっていない。お前の未来も含めて。違うか?」
「いや、シオの言う通りだ」
「そういう意味では、お前が側妃を迎えようが迎えまいがさほど気にしない。気にしているのは、直系や女神の契約者であるお前の血に拘っている方々だけだろう」
視線を右手に落とす。手袋の下に隠されている紋章。これに拘っている人がいることは間違いない。そして無意識にアルヴィスもそうであるべきだと考えていた。恐らくはエリナもどこかでそう考えているのだろう。
「俺もその一人、ということだな」
「そうだ」
「お前の言葉は取り繕うことをしないよな」
「してどうする? 意図した通りに伝わらなければ言葉など意味がない」
確かに一理ある。伝わらなければ意味がない。しかし、あまりに遠慮がなさすぎる言葉は人を傷つけることにもなりかねない。彼が嘘を言うような人間でないことを知っているから猶更だ。世辞を言われ慣れている人間からすれば、シオディランのような言い方は到底受け入れられないらしい。憤慨されることもあったが、それでも大した問題にならなかったのはシオディラン自身がランセル侯爵家の嫡男だからか。
「それで、お前は俺に何を頼みたいんだ?」
「それでって……まぁいい」
何を言ったところでシオディランには響かない。長い付き合いで、それは十分にわかっている。アルヴィスはあらかじめ用意していた資料をシオディランへ渡す。シオディランは直ぐにそれに目を通し始めた。
「エリナたちがお茶会をする予定でいる。その辺りはハーバラ嬢も絡んでいるらしいから、お前の耳にも入るだろう」
「あぁ、聞いている」
「その場に令嬢たちを集めるとは言ったが、名目は学園の同窓会とするらしい」
「そこに呼ぶ令嬢たちがこれ、か」
「あくまで俺の予想だがな」
最終的に誰を呼ぶのか。それを決めるのはエリナだろう。誰が来たところでアルヴィスがすべきことは変わらない。それでも牽制出来るのならば、しておきたい。それがシオディランの存在だ。
「となれば、私も参加してほしいということだな。これらの令嬢たちは私を苦手としている」
そう、シオディランはランセル侯爵家次期当主。だというのに、令嬢たちからは怖がられている。学園の同窓生であれば、シオディランのことを知っている者も多い。おいそれと近づいてはこないだろう。
「お前を苦手としない令嬢の方が珍しいだろ?」
「そうだな……そう言われると、ラナリス嬢は珍しい令嬢だったか……」
「シオ?」
小さな声で呟かれた言葉は、アルヴィスには届かなかった。その時のシオディランがいつになく呆けたような顔をしていたことに、怪訝そうな表情で名を呼ぶ。すると一瞬ハッとしたように目を見開いたが直ぐに元に戻った。
「何でもない。こちらの話だ」
「そう、か」
珍しいシオディランの態度に疑問を抱いたが、彼が言わないと決めたらそれが覆ることはない。それを良く知っていたアルヴィスは、敢えてそれを問いただすことはしなかった。




