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閑話 妃の義務との葛藤

今回は、エリナ視点での閑話となります!



 翌日の朝、アルヴィスを見送ったエリナはサロンへやってきた。そうしてソファーに座ると、最近の日課になりつつある編み物を始める。エリナが編み物を始めたのは、つい最近だった。体調が安定していない内は、王太子宮から出るのは控えた方がいいと特師医から言われたため、その時間を有効に使いたくて始めたものである。


「妃殿下は、本当に手際がよろしゅうございます」

「ありがとうございます。きっとナリスさんの教え方がとても分かりやすいからです」


 侍女たちの中で一番編み物が得意だというナリスがエリナの先生だ。ナリス自身の娘であるキリカが幼い頃には、手編みのものをいくつも作っていたという。ベルフィアス公爵家でも侍女たちに教えるのはナリスの役割だったようで、ナリスの教え方はとても丁寧なものだった。

 始めは小さな形の物から始めたが、熱中してしまえばこれが楽しい。何の形もないただの毛糸から、自らの手で作り上げていく。一から作ることが出来るというのがこれほどまでに楽しいものだとエリナは初めて知った。まだ不格好な完成品ばかりではあるが、子どもが生まれるまでにはその子の為の物を作れるようになっていたい。そんな思いでエリナは手を動かす。

 集中していると時間が経つのが早いものだ。気が付けば1時間近くが経過していた。エリナの手には、小さな手のような形が出来上がっている。キリがいいところまできたので、少し休憩を取ることになった。

 いつものようにサラがエリナの飲み物を用意してくれる。エリナの今の状態では、今までの様に紅茶を飲むことは出来ない。それでも少しでも紅茶を楽しめるようにと、リティーヌがエリナが飲んでも影響がないという茶葉を分けてくれた。

 リティーヌから分けてもらっている理由は、ただ一つ。エリナの妊娠を外に広められるわけにはいかないからだ。リティーヌ曰く、こういうことは慎重になりすぎても困ることはないということだった。


「本当に、リティーヌ様には感謝してもしきれないわ。何かお返しが出来ればいいのだけれど」

「そうでございますね」


 今日も、この後でリティーヌが訪問してくれることになっている。何かエリナと大切な話をしたいということだった。何の話なのかは気になるが、それ以上にリティーヌと話が出来るだけで楽しみというものだ。それに、エリナからも相談したいこともある。


『俺は側妃は持たない』


 昨夜アルヴィスから告げられた言葉だ。エリナの目を見て、アルヴィスが言い切った。思わず嬉しさで高ぶる感情を抑えきれずに涙してしまったが、それだけエリナにとって嬉しい言葉だった。涙が止まらないエリナをアルヴィスはずっと抱きしめてくれて……昨夜はそのまま抱きしめられて眠ってしまったらしい。目が覚めると直ぐ近くにアルヴィスの顔があって、とても幸せな気持ちで朝を迎えることが出来た。そんなことを思い出していると、視線を感じて後ろを振り返る。その視線はサラからだった。


「今日のエリナ様はとてもご機嫌ですね」

「そうかしら?」

「はい。王女殿下のお越しが待ち遠しい、というだけではなさそうです。もしかして、王太子殿下でしょうか?」

「っ」


 機嫌がいいという自覚はなかったのだが、どうやらいつも傍にいるサラからすれば丸わかりだったらしい。その理由がアルヴィスだということも。


「……サラには隠し事は出来ないわね」

「大切なお嬢様のことですから」


 ここで敢えて昔の呼び方をするのはズルい。そのような呼ばれ方をされれば、甘えたくなってしまうではないか。


「昨日、とても嬉しいお言葉を頂いたの」

「王太子殿下から、ですよね?」

「えぇ。でもね……嬉しいし、夢みたいだって思うと同時に……本当にそれでいいのかと、そう思う私もいるの」


 確かに、アルヴィスから妃はエリナ一人でいいのだと言われて嬉しかった。これまで王族や貴族たちにとって当たり前だった存在を不要だと彼ははっきりと言ったのだ。そのことで、エリナに負担を掛けるのを申し訳ないと逆に謝ってきた。

 しかし、アルヴィスは次期国王となる身である。側妃を持たないともなれば、周囲が黙っていないことだろう。エリナへ圧力をかけて来る貴族もいるかもしれない。アルヴィスを説得するように、側妃を認めるように。現時点でもアルヴィスにはそういう話が来ている。それでアルヴィスが駄目ならば、エリナへと矛先が向けられるはずだ。その時はエリナからアルヴィスに話を持ち掛けなければならなくなる。


「お嬢様……」

「そうあるべきだとわかっているの。それでも今を嬉しいと思っている私は、いずれ自分の事ばかり考えている愚かな妃になってしまいそうで……それがとても怖い。それはいけないことだと、お伝えしなければいけない。それが()()()()なのだから私のことは気にしないでと。そう言わなくてはいけないと」


 このままアルヴィスの言葉を喜んで、それを享受するだけで本当にいいのだろうか。そのようなことが本当に実現するのだろうか。多方面からアルヴィスが責められる可能性もある。昨夜の言い方だと、全てアルヴィスが望んでいるからだと周囲を説得するつもりなのだろう。エリナが、ではなくアルヴィスの意志だと広める。そうすれば、その責めはアルヴィスに集中するのだから。


「それでも嬉しいの。どうしようもなく嬉しくて……」


 だから悩んでしまう。どうするのが最善なのかがわからない。ただ言えることがあるとすれば、一つだ。アルヴィスが望んでいるのならば、エリナも彼が望む通りにしたい。アルヴィスがエリナを唯一としてくれるのなら、エリナもそれに応えたい。そのためにも、このお腹の子が男児であってほしい。神のみぞ知る領域ではあるものの、そう願わずにはいられなかった。

 そんな葛藤の中にいるエリナに対し、サラはエリナの足元に膝を突くとエリナの手を両手で包み込んだ。


「私には、エリナ様や王太子殿下が背負っていらっしゃるものを理解できるなどということは言えません」

「サラ?」

「それでも敢えて申し上げるとすれば、エリナ様も王太子殿下も十分にご自身のお立場をお考えだと思います。ですからエリナ様が愚かな妃になどなるはずがございません。それだけは断言できます」


 真剣な目が大丈夫だと訴えて来る。他の誰でもない、エリナをずっと傍で見てきたサラの言葉は、今のエリナにとって何よりも信用できるものだ。


「ですから大丈夫です。今のエリナ様のお傍には、王太子殿下も王女殿下もいらっしゃいます。それに私もずっとお傍におります。エリナ様が道に迷われた時には、ちゃんとお叱りいたしますから」

「サラったら。でも……ありがとう。心強いわ」




感想への返信が滞っておりごめんなさい。。。


誤字脱字報告、いつもありがとうございます!

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