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第二章 生誕祭 1話

 

 それから数ヵ月後。

 城内で王太子としての書類仕事を行うことにも慣れてきたアルヴィス。当初は、書類内容に対する知識が足りず有識者を集めたり、根拠資料を探したりするなどして中々すんなりとはいかなかった。ユスフォス老からの助言もあったが、アルヴィスは己が納得する形でなければ署名も出来ないとして、ただ言葉を鵜呑みにはしなかったのも理由のひとつだが。

 そんな風に忙しい毎日を過ごしていたある日、一つの知らせがアルヴィスへ届いた。


「生誕パーティー? 誰の?」

「……アルヴィス様のです。お忘れですか?」

「忘れてはいないが……その様なものは別にいらない。祝ってもらうような年齢でもないだろうが」


 エドワルドは呆れているが、アルヴィスとて自分の生まれた日くらいは覚えている。だが、学園に入った時からそのように祝われることはなくなったので、特別意識することはなかっただけで。

 学園は全寮制。長期の休みと重なるわけでもない誕生日など、わざわざ帰るものでもなく、親しい友人に祝いの言葉をもらう程度だ。学園を卒業してからは、家族から手紙をもらうだけとなり、更に特別なものではなくなっていった。10代ならまだしも、既に20歳を過ぎているのだから、わざわざパーティーなどを開く必要などない。


「国王陛下の生誕パーティーは毎年やっていますよ。それに、昨年まではジラルド殿のもやってました。王女殿下のも盛大ではありませんが、パーティーはやっているでしょう」

「ジラルドも皆10代だろう? キアラに至ってはまだ10歳になったばかり。やっていても不思議はない。それに、伯父上は国主なのだから当然だろう」


 キアラは第2王女で従妹の一人。今年、10歳になったまだまだ子ども。それと比べられても困ると言うものだ。


「貴方様は、王太子ですよ。国王の次に敬われる立場です」

「…………伯父上が引退した後にやればいい話だろうが」


 王太子になってからアルヴィスはまだパーティーへ参加していない。一番近い行事となると、建国祭だ。時期は3か月後となる。意識は完全にそちらに向いていたので、己の誕生日など予定にさえいれていない。


「アルヴィス様……既に陛下がその予定で動き始めております。却下はできません」

「まだ1ヶ月以上も先になる。それに、その頃には建国祭の準備も迫ってくる時期だ。優先するのはそっちじゃないのか……?」


 頭を抱えるアルヴィス。しかし、エドワルドの口振りから止めることは出来なさそうだということは理解した。直談判することもできるが、王族の誕生日を祝うのが恒例行事であるのはアルヴィスもわかっているので、折れるのはアルヴィスの方なのだ。それでも、生誕パーティーなど実家に居たとき以来で、気恥ずかしいという思いがある。キアラのような子どもなら嬉しいのだろうが、生憎とアルヴィスは成人している大人なのだから。

 スッと立ち上がると、アルヴィスは脱いでいた上着を羽織る。


「アルヴィス様?」

「気を紛らわしたい」

「近衛隊に?」

「あぁ」

「……わかりました」


 ラクウェルに近衛隊訓練場へ強引に連れていかれて以来、アルヴィスは気分転換にと何度も足を運んでいた。

 今回は少し違うが、行き詰った時やもやもやした時などは剣を振っていると、頭がスッキリして気分も晴れる。今日のそれは、己の生誕パーティーが行われるという事実への現実逃避だ。逃げだとわかっていても、考えたくない。そんな感情を少しでも納得させるため、アルヴィスは訓練場へ向かうのだった。



 王太子が訓練場に来るのは、最早当たり前とされているので申請などの手続きは不要となっていた。慣れた道を進むと、場内への出入り口の前にハーヴィが立っている。訓練場にいる部下の様子を窺っているようだ。


「ハーヴィ?」

「? ……これは、アルヴィス殿下。今日も来られたのですね」

「……あぁ、ちょっとな」


 通っているのは事実だが、ハーヴィの言い方は少し呆れているようでもあった。


「何かあったのですか?」

「いや―――」

「アルヴィス様は、ただ誕生日を祝われることが嫌だそうです」


 アルヴィスは何でもないと告げようとしたのだが、後ろに控えていたエドワルドがあっさりと伝えてしまう。


「おい、エド」

「近衛隊もその予定が組まれていると思いますが?」

「そうですね。現在、隊長が打ち合わせに出ておりますし」

「ということなので、諦めた方が良いですよ、アルヴィス様」

「……」


 エドワルドはアルヴィスに対して容赦をしない。それが、自分の役割だと考えているらしい。

 幼少期からアルヴィスの側におり、長い付き合いの中で友人に近い存在でありながらも、決して主従関係を崩してこなかった。エドワルドが学園に入った頃は、離れていたがその後はアルヴィスが学園を卒業するまで侍従として尽くしていたのだ。

 エドワルドを侍従としたのは、アルヴィスの父。伯爵家の遠縁でもあるエドワルドは、侍従となりながらも将来は実家の領地代官となりたいとアルヴィスに話していた。侍従となったのも、当初は不本意だったのかあまり好ましい態度ではなかったが、その将来を聞き納得したものだ。

 何だかんだと学園まで付いてきたが、騎士団への入隊を期に実家へ戻して関係は終わったはずだった。しかし、王太子となってしまったアルヴィスへ、また仕えるために王都に来たという。今度はラクウェルからの指示ではなく、己で志願したというがアルヴィスには全く理由がわからない。今のアルヴィスの侍従になった時点で、領地代官への道が閉ざされる。何故、その道を捨ててしまったのか。未だに、エドワルドはその理由を明かしてくれてはいない。アルヴィスにエドワルドが仕えるのは当然だと言っているだけで。

 妙に気が合っている風のハーヴィとエドワルド。反論する気もなくなり、アルヴィスは上着を脱いでエドワルドへと放ると場内へと歩いていくのだった。

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