8話
前回は、国王へのヘイトの貯まりっぷりがすさまじかったです(汗
この話題が終わるまできっと貯まり続けるのでしょう……
お、お手柔らかにお願いします;;
黙ったままのリティーヌがアルヴィスを連れてきたのは、アルヴィスの執務室だった。そこには準備をしていたエドワルドがおり、突然のリティーヌの訪問とアルヴィスの帰りに驚きを隠せないでいるようだ。
「アルヴィス様? それにリティーヌ殿下も。お二人が一体どうして」
「伯父上のところでちょっと、な」
「国王陛下に何かご指示をいただいた、ということでしょうか?」
「いや……」
言葉を濁してリティーヌを見ると、掴まれていた手が外される。だがリティーヌは俯いたまま顔を上げない。アルヴィスはリティーヌの目の前に立つと、その頭に手を乗せた。すると、リティーヌが顔を上げる。その表情には不満がありありと現れていた。
「リティ」
「……アルヴィス兄様も悪いのよ。あの人のいう事に耳を傾けるから」
「だがそうしなければ、認めてもらえないだろ? 言葉を交わさなければ、こちらの想いが伝わらない」
「余地があればそれでもいいかもしれないわ。でもね、あの人はあのバカの父親なの! 聞く耳があるならば、あのバカだってそれなりになってたわよ」
あのようなことが起きる前に、矯正なりがされていたはずだということだろう。あのジラルドの状況では素直にいう事を聞いたかどうかはわからないが。
「アルヴィス兄様の性格からすれば仕方ないことかもしれないわ。でも本当に納得できないことがあるなら、もっと反抗するべきよ」
「無茶を言うな……相手は国王陛下だ」
「ならあの人のいう事に従うの? 本当にそれでいいの?」
「いや、それだけはしたくない」
あのまま認められなければその指示に従うのか。そう問われれば、答えは否だ。だからこそ国王と話をしたかったのだから。だが、根本的な考え方が揺るがない国王からすれば、アルヴィスの考えなど不思議でしかないのだろう。あの時の国王からは、一体何が不満なのかという考えがにじみ出ていた。
「伯父上は、リティやジラルドが生まれた時のことなど覚えていないのかもしれないな」
いや国王からしてみれば、エリナの今の心境など想像もしてないのかもしれない。エリナが優秀だから受け入れて当然であり、エリナだからこそ出来るという考えが根底にある。更には負担が生む前提となっていることから、そこに至るまでの配慮に欠けているのだ。
特師医からも教えられるはずのことを国王は忘れてしまっているのだろう。絶対、などということはないのだと。命がけのものとなることから、何よりも本人を安心させることが伴侶たる者の責務だと。だからこそ不安にさせるような状況を招くことが、どれだけ危険なことなのかという想像に至らないのだ。
「でしょうね。そんな気遣いが出来る人なら、ちゃんと父親してくれてたはずよ。私からしてみれば、あの人はただの血のつながりがある他人でしかないわ」
「相変わらず辛辣だよな」
「私にとって家族というのはキアラとお母様、アルヴィス兄様たちだけ。それにエリナも加わってくれた。それだけで十分」
「そうか」
アルヴィスとリティーヌは、向かい合う形でソファーへと腰を下ろした。するとエドワルドが紅茶を用意してくれる。
「ありがとう、エドワルド」
「いえ」
「今更だけど、突然押しかけてごめんなさい」
「殿下、私にそのようなことは不要ですから。大体の想像はつきましたので」
「内緒でお願いね」
「無論です。ですが、アルヴィス様この後はどうされるおつもりですか?」
国王との話し合いは実にならなかった。昨日のあの様子だと、ティエリア自身にも何かしら思うところがありそうだ。ヴィズダム侯爵家ならば政略の相手として周囲から不満が出ることもない。だからこそ、ティエリアは断られるとは考えていなかった。しかし、これで終わりではないとすればこちらから手を打った方がいい。
「ヴィズダム侯爵家が諦めるとは思えない。だが、伯父上から断ってもらうのは難しいだろう。ヴィズダム侯爵へ話を持っていっても恐らくは同じ結果だ」
「えぇ、同感ね。それについてなのだけれど、エリナと相談していたことがあるの」
「エリナと?」
「言ったでしょ? ちょっと考えがあるんだって」
そういえばその様なことも言っていた。二人が一緒にいるところを見かけなかったことから、アルヴィスがこちらにいる間にでも話をしていたのだろうが。
「その考えとは?」
「エリナの状態が安定したら、未婚令嬢を集めてお茶会をしようと思うの」
「未婚令嬢って……どの範囲まで広げるつもりなんだ」
どの年齢までの令嬢を集めるつもりなのか。未婚の貴族令嬢といえば、かなりの人数となるだろう。
「エリナの友人たちも招くつもりよ。あとは、せっかくだからラナリスにもその辺りはお願いしようと思ってる。それと、ランセル侯爵令嬢にもね」
「ハーバラ嬢か。確かに彼女なら色々と通じていそうだが……ってラナにもか?」
「ラナリスだって公爵令嬢なのだし、いい機会になると思うけれど?」
「それはそうだが……となると、学園の休みにぶつけるべきだろうな」
「日程はそうなるわね」
親が駄目なら子どもから。その発想はアルヴィスにはなかった。しかし、そう簡単に開くことが出来るような規模ではないのではないのか。日程は調整できるとしても、王太子妃がお茶会を開くというだけでかなりの令嬢たちが集まりそうだ。そこは招待制にして、以降も定期的に開くようにすればある程度の平等制は保たれるかもしれないが。
「目的はどうする?」
「とりあえず今回は王立学園の同窓会ってことでもすればいいじゃない。私は卒業してないけど、身内枠で参加するから」
エリナの付き添いという形で参加するつもりらしい。それ以上にリティーヌはあまり社交界に顔を出してこなかったので、行くだけで注目を浴びるはずだ。だがそれでも行く価値はあるとリティーヌは話す。
「個別に話をするから変な憶測を生むの。ならまとめて知らしめれば文句を言う人はいないでしょ?」
「まぁ考え方は理解できる」
「主宰はエリナよ。アルヴィス兄様は、合間に顔を出してエリナを構ってくれればいいの。いつも通り、ね」
王太子宮でアルヴィスとエリナがどう過ごしているのかを、誰かから聞いているのだろう。人前で敢えてすることにエリナは恥ずかしがるだろうが、見せつけるためというのならば折れてもらうしかない。
「わかった。費用は俺が用意するから思う存分にやってくれ」
「もちろん、そのつもりよ」
クスクスと笑みを漏らすリティーヌに、ふとアルヴィスは先ほど去る間際に言われたことが浮かんだ。国王が言いかけたこと。それが何なのか。ある種の予感が過って、アルヴィスは口を開く。
「リティ、一つだけ確認をさせて欲しいんだが」
「ん?」
「先程、伯父上が言いかけたこと。リティにも話がいっていたと判断していいのか?」
「……そこには気づいてほしくなかったんだけど……」
「リティ?」
ぶつぶつとつぶやかれた言葉はアルヴィスまで届かなかった。しかし、聞き返してもリティーヌは首を横に振るだけだ。
「お母様が変な気を回しただけ。私もいつまでも後宮にいられるわけじゃないから、それならばってことなんでしょうけど、余計なお世話よ」
「キュリアンヌ妃は、リティを外に出したくないのだと思っていたが」
「お母様が何を考えているかなんて、私もわからないわ。でも……アルヴィス兄様が即位してくれたら、きっと私も解放されるんだと思ってる。そうしたら、私は私だけの人を見つけるから。心配しないで」
王女として優秀過ぎたリティーヌは、理不尽な環境で過ごしてきた。ここから解放されたいと望むのならば、アルヴィスも協力を惜しまない。その日が来るのを想像すると、少しだけ寂しいけれど。
「わかった。その時はちゃんと連れてこい。見定めてやるから」
「アルヴィス兄様、まるで父親みたいよ」
「大事な従妹だからな。下手な奴には渡せないだろう?」
「全く、仕方ないわね」
呆れたように言いながらも嬉しそうにしているリティーヌ。遠くない未来で、この笑みがリティーヌが大切に想う人とあればいい。そんなことを想像しながら、アルヴィスも笑みを浮かべた。
次回は閑話の予定です!




