7話
無事4巻の発売日を迎えることが出来ました!
購入してくださった皆様、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
その翌日、アルヴィスは国王の執務室へと出向いていた。人払いがされているのか、いつもは傍に控えている宰相もいない。
「朝早くから呼び出してすまないな」
「いえ、私としてもその方が良かったので」
アルヴィスの方から面会を求める予定だったので、国王から呼び出しがあったのであれば手間が省けていい。ただ気がかりなことがあるとすれば、朝早くから宮を出てしまったことでエリナが起きる前に出てきてしまったということだけで。
簡単な挨拶を済ませると、国王は早速本題に入った。
「昨日の……ヴィズダム侯爵令嬢のことだが、事前にお前やエリナに相談しておくべきだった。その点については余にも非がある。ただ――」
「陛下としてのお考えに対して、まだ未熟者でしかない私が否やをいうことは不相応なことかもしれません」
「アルヴィス?」
国王の言葉を遮る形でアルヴィスは声を重ねる。この件については言いたいことがあるからだ。この際、ヴィズダム侯爵家の件は後回し。まず第一に国王へ言わなくてはいけないこと。それはただ一つ。
「ですが、時期をお考え下さい。陛下がエリナに対して、少なからず申し訳なさを感じているというのであれば」
国王からすれば、次へつなぐために良かれと行ったことかもしれない。しかし、エリナが不在であろうとなかろうと、アルヴィスとヴィズダム侯爵令嬢を引き合わせるのはあの場である必要はなかったはずだ。昨日は、生誕祭ということもあって多くの貴族たちが参加していた。叙勲された騎士たちもだ。アルヴィスとティエリアがダンスを踊ったことは、周知の事実となってしまっている。しかも、国王とティエリアの父であるヴィズダム侯爵が一緒だったことから、公認であると思われていることだろう。それが何を意味するか。噂としてエリナの耳に入ってしまえば、彼女がどう思うか。想像できないはずがない。
「陛下が命令として私に下したならば、それに従うのが役目だということは理解しております。それでも……あのようなことはお断りしていたはずです」
「お前、怒っているのか?」
口調も勿論だが、普段ならば伯父上と呼ぶところを陛下と呼んでいる。気が付いた様子の国王に、アルヴィスは溜息を吐いた。
「ここにいるのがリティだったら間違いなく拳が飛んでくる、という程度には」
あれは完全に不意打ちだった。アルヴィスに選択肢は存在せず、それでいて王妃と国王の両方の言があったのだ。あれを見ていた人たちはティエリアが側妃候補の一人だと判断しただろう。そしてアルヴィスもそれに応じたのだと。
「この際、私のことは置いておいて構いません。ですが、エリナに対しては別です」
「アルヴィス……」
「今のエリナの様子は報告しているはずです。特師医からも、精神的負荷をかけるのはよくないと言われているという状況で、エリナの不安を煽る様な真似をしないでください」
恐らくはエリナ自身は何でもないというだろうが、当人が感じている以上に身体は敏感に反応するらしい。体調が悪い状態が続いているため、気持ちの上でも無理をさせるのはよくない。そういう意味では周囲が常に気を配る必要がある。
そう伝えると、国王は腕を組み考える素振りを見せた。だがその表情は納得していない様子が見て取れる。
「……いや、だがエリナは王妃教育の中で重々承知のはずだ」
「そうあるべきだという事は無論エリナもわかっています。わかっているからこそ、エリナは我慢をするでしょう。そうすることにエリナは慣れ過ぎているのですから」
そう、慣れ過ぎているのだ。しかし、今の状態で万が一にでもお腹の子どもにもしものことがあれば、それは更にエリナを追い詰めることになりかねない。
「確かに、アルヴィスの言う通りかもしれん。今はそれが大事なのは間違いない。だがだからこそ、その重責をエリナ一人に背負わせる必要はないのではないか? それがエリナの為でもある」
「エリナの為、ですか」
「そうだ」
「であるならば、それを決めるのはエリナであるべきでしょう。私でも陛下でもありません」
エリナの為になると言われれば、アルヴィスも反論しにくい部分があるのは確かだ。男児を産まなければならないという重責は、間違いなく負担だろう。だとしてもそれを考える時間は与えられてしかるべきだ。まだエリナは十八歳なのだから。
「しかし――」
その時、バンと大きな音を立てて扉が開かれる。アルヴィスが振り返ると、そこに立っていたのはご立腹な様子を隠さないでリティーヌが立っていた。
「アルヴィス兄様、この人のいう事に流されちゃだめよ」
「リティ」
人払いをしていたというのに、いつから聞いていたのか。それともいつかのように聞き耳を立てていたことは間違いない。リティーヌはアルヴィスの方へ鋭い視線を向けて来る。
「昨日のことに文句を言いに行ったら、呼び出されたって言われて来てみたの」
「……近衛に誰も入れるなと言っておったはずだが」
「なら扉の前で見張りでもさせておけば?」
「今度からそうしよう」
呆れたように肩を落として息を吐く国王。この時ばかりは少し共感したくなった。タタタタとアルヴィスの下へ駆けてきたかと思うと、その腕を取る。
「おい、リティ⁉」
「これ以上話をしても無駄。どうせ、エリナの為だの国の為だの言われたんでしょ? そういえば、アルヴィス兄様が黙るのをこの人はわかっているのよ」
「それは……」
「リティーヌ、お前が口を出すことではない。それにお前とて――っ」
国王が言葉を続けようとした時、リティーヌが何かを国王へ向かって投げつけた。当たって落ちたそれは、花束。恐らくはリティーヌが育てていたものだ。
「余計な事言わないで。アルヴィス兄様、行こう」
「リティっ」
「いいの!」
問答無用に腕を引っ張るリティーヌ。力強いとはいえ、リティーヌの動きを止めることは出来なくはない。チラリと国王へ顔だけを向けると、国王は首を横に振った。ひとまずここまでということのようだ。アルヴィスは頷いて国王へ是の意を示すと、リティーヌに促されるまま執務室を後にするのだった。