6話
活動報告にも書かせていただきましたが
遂に今週4巻とコミカライズ版2巻が発売となります!
どうかよろしくお願いします。
特典情報については、明日か明後日にでもこちらでご報告させていただきます!
まるで断られることなど考えていなかったように、ティエリアの表情は驚愕に染まっていた。国王自らの推薦のような形で引き合わされたということから、既に決まったも同然だと考えていたのだろう。だが、アルヴィスからすれば不意打ちのようなものでしかない。彼らの中で既定路線だったとしても、受け入れることは出来ないと国王にも伝えていた。こういう場であれば、アルヴィスも流されるとでも思ったのだろう。
「あの、ですが……陛下はそれを望んでおられる、と伺っておりまして」
「陛下には私の方から伝えておく。先の公務では妃にも心労をかけた。だからこそ今は彼女を最優先としたい、それが私の考えだ」
「それは……」
アルヴィスがそう伝えると、ティエリアは目を瞑った。心を落ち着かせているのだろうか。小さく深呼吸をしたかと思うと、再び目を開けてアルヴィスを真っ直ぐと見上げる。
「承知しました。それが王太子殿下のお考えということであれば、この場は退きます」
「そうか」
ちょうどダンスも終わりを迎える。そのまま手を引き、ティエリアをヴィズダム侯爵の下へと送り届けると、ティエリアはアルヴィスから身体を離した。そしてドレスの裾を持ち上げて深々と頭を下げる。
「本日はお相手くださりありがとうございました。また機会がありましたら、どうかよろしくお願いいたします」
「……わかった」
ヴィズダム侯爵へも挨拶をした後、向かったのは国王のところだ。アルヴィスの顔を見ると、ゴホンと咳払いをした。
「伯父上」
「まぁなんだ、華があるわけではないが身を弁えている令嬢だ。エリナともうまくやっていけると思う」
「……伯父上も国主としてのお考えがあることは理解しています。ゆえに、明日にでも一度お時間をいただきたいと思うのですが」
ここでは多くの目がある。アルヴィスとティエリアが踊ったことで、噂好きな人々は色々と話題を振りまくことだろう。これ以上、種をばらまくようなことはしたくない。
「うむ、わかった」
「では私は一旦下がります」
「もう行くのか?」
「この場は、伯父上と叙勲者たちの祝いの場ですから」
「それもそうじゃな。わかった」
国王の許可は得た。王妃と国王、二人に頭を下げてアルヴィスは会場を後にする。その後をエドワルドが駆け足で追いかけて来た。
「アルヴィス様、宮へお戻りになられますか?」
「あぁ」
宮へ戻ったアルヴィスは、ティレアたちの手を借りて堅苦しい衣装を脱ぐ。
「エリナの様子は?」
「まだお目覚めになっておりません」
「そうか」
あれからずっと眠っているらしい。少しマナを注ぎ過ぎたのもしれない。直ぐにでも様子を見に行きたいところだが、侍女たちから湯あみを先にするよう勧められてしまう。言われるがまま湯あみを終えたアルヴィスはラフな服装に着替えて、私室のソファへと腰を下ろした。
「お疲れ様でございました」
「あぁ、漸く終わったな」
ここ最近はずっと叙勲式関係で多忙だったため、漸く肩の荷が下りたような感覚だ。特に叙勲対象者の選定は大変だった。通常は一年間のところを、今回は二年間の功績が対象。これを確認しながらの選定は中々に骨の折れる作業だった。
ふぅっと息を吐いて身体を伸ばすと、アルヴィスは立ち上がる。その視線の先にあるのは、寝室の扉だった。
「エリナの様子を見て来る」
「わかりました。何か軽食でもご用意しておきます」
「頼む」
エドワルドが部屋から出ていくのを見送って、アルヴィスは寝室へと足を踏み入れる。薄暗い部屋の中で、ベッドの枕元だけが明るくなっていた。サラが灯りをつけてくれたのだろう。エリナが眠っている方へ移動し、ベッドへ腰を下ろした。
「エリナ……」
小さく声を掛けてみるが反応はない。そのままエリナの頬へ触れると、熱いというほどではなかった。パーティーに行く前は少しだけ熱があったのだが下がったようだ。表情を見ても苦しそうにはしていない。
「良かった」
「……アル、ヴィスさま?」
するとぼんやりとエリナが目を開ける。起こしてしまったらしい。エリナはゆっくりと身体を起こす。
「すまない、起こしてしまって。気分はどうだ?」
「はい、大丈夫です」
そっと額に手を当てても、アルヴィスが注いだマナの残滓は残っていない。エリナに負担を掛けることがなくて幸いだった。ホッと安堵の息が漏れる。そんなアルヴィスにエリナは怪訝そうに顔を向けてきた。
「まだパーティーは終わっていないのではありませんか?」
「さっき戻ってきた。早く戻ってくると言っただろう? あの場での俺の役割は終わったからな」
「……ありがとうございます、アルヴィス様」
最低限のダンスと挨拶のみで辞した。もっとあの場に居続けても良かったかもしれない。だがティエリアと踊ったことで、他の令嬢たちから視線を向けられていることにも気が付いていた。あの場に留まり続ければ、まだダンスを踊っていたはずだ。王太子として、頼まれれば断ることなど出来ないのだから。
そんなことを考えていると、エリナがアルヴィスの顔を覗き込んできた。
「あの、パーティーで何かあったのですか?」
心配そうな表情のエリナに、アルヴィスは首を横に振って笑みを向ける。
「何でもないさ。ただちょっと疲れただけだ」
「でも……」
納得してないエリナの頭へポンと手を乗せた。かと思うと、下ろされたエリナの髪へと触れる。こうして触れているだけで疲れが幾分飛んでいくようだ。我ながら現金なものだと思う。
「エリナはもう少し休んでいるといい」
「十分休ませていただきましたので、これ以上はどうにかなってしまいそうです」
本当に困ったように言うエリナに、思わず笑ってしまう。確かに休んでいるだけというのもキツイ時はある。アルヴィスも臥せっていた時には何度も思ったものだ。
「ならば、一緒に少しだけ軽い物でも食べるか?」
「はい!」
機嫌のよい返事に、体調がよくなったのだと感じることが出来る。椅子に掛けてあったガウンを羽織らせると、エリナの手を引いてアルヴィスは寝室を出るのだった。
誤字脱字報告、ありがとうございます!!




