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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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閑話 友人と妹の考察

活動報告やTwitterでも報告しましたが、

いよいよ今月に第4巻が発売します!!!

コミカライズ版2巻との同時刊行です(*^^*)

皆様、いつも応援ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

 

 シオディランにエスコートされていたラナリスだが、その視線は兄であるアルヴィスを追っていた。王妃の下へ着いたアルヴィスは、そのまま王妃と国王と話をしているようだ。すぐ傍には、別の貴族男性の姿もあった。あの姿は、確かヴィズダム侯爵だ。国王からの信頼もあり、忠臣の一人だと父であるラクウェルからも聞かされている。だが、その姿にラナリスの機嫌が降下していく。なぜならば、そのヴィズダム侯爵の傍には一人の令嬢がいたからだ。


「……伯父様も酷い。よりにも寄ってエリナお義姉様が体調を悪くしていらっしゃる時に」


 ここから見ても、アルヴィスは仮面の笑みを張り付けていることがわかる。反対に嬉々としている令嬢。国王たちからの紹介ということもあれば、断りにくいということなのだろう。


「それが、アルヴィスの役目の一つでもあるからです」

「ランセル様」


 呟きのような小さな声だったが、傍にいたシオディランは拾ってしまったらしい。どこか義務的な言い方に、ほんの少しムッとしてしまった。だが、シオディランはそんなラナリスの様子など気にしていないようで表情を一切変えずに続ける。


「この国の直系王族は多くありません。そもそもあいつが王太子となったのも、そういう理由があったからです。ならば、今後同じような事態を招かない為にも直系王族、それもあいつの血を受け継ぐ男児が必要なんです」

「それは、わかっています。でも……アルお兄様はそのようなこと望んではいないというのに」


 シオディランのいう事は正しい。恐らくあの令嬢はアルヴィスの側妃候補の一人。それも有力な一人なのだろう。だからこそ、こういう場でアルヴィスに引き合わせた。もしかすると、アルヴィスが避けられない場だからこそだったのかもしれない。


「まぁ、個人的に言わせてもらえば、あの手の令嬢はあいつの苦手なタイプだからあり得んだろうな」

「え?」


 突然口調が変わったシオディランを思わず見上げると、その顏はアルヴィスの方へと向けられていた。そこにあったのは無表情ではなく、ほんの少しだけだが痛みを覚えているようなものに見える。

 だが、ラナリスからの視線に気づくと再び無表情に戻ってしまった。


「あいつが手を出すことなどあり得ないということです。なので、ラナリス嬢が気になさる必要はありません」

「……ランセル様は、アルお兄様の事をよくご存じなのですね」

「私よりも、ラナリス嬢の方が良くご存じでいらっしゃるでしょう」

「いえ、アルお兄様はご自分のことをお話してくれる人ではありませんでしたので、私はそれほど多くのことを知らないのです」

「……」


 兄と妹として過ごした時間は確かにある。けれど、ラナリスが知っているアルヴィスは既に子どもではなくなっていた。微笑んでラナリスの話を聞いてくれるけれど、自分の話をすることなどほとんどなかったように思う。ラナリスが我儘を言っても、困ったような顔をしながら許してくれる。そんな兄だった。異母弟妹が出来てからは、ラナリスもアルヴィスを手本にしながら接してきた。


「お兄様は、子どもの頃から大人のような人でした。私はお兄様が泣いているところも、怒ったところも見たことがありません。何を言われても、黙って受け入れる。そんな人なのです」


 だから心配になる。王太子となった時も、アルヴィスにはどうしようもなかったこと。マグリアでもラクウェルでも駄目だった。アルヴィスでなければいけなかった。何度も言われたことだ。その中で、アルヴィスは生き方を諦めた。きっとそれも仕方のないことだと、黙って受け入れたのだろう。ラナリスが知るアルヴィスはそういう人だったから。

 側妃という存在を求められれば、アルヴィスは今回も黙って受け入れてしまう気がする。ましてや国王からの紹介ともなれば、実質決定ではないのか。そんな不安が胸を過るのだ。あの優しいエリナも、きっと受け入れることだろう。二人ともがそう思っているならば、誰が拒否できるというのだろうか。

 そんな風に考えていると、シオディランがラナリスの背をポンと軽く叩いた。視線を合わせると、相変わらずの無表情でラナリスを見返している。


「あの、ランセル様?」

「確かに、あいつは自分が我慢すれば済むならばそれを拒否しません。黙って受け入れるでしょう」


 自分一人が我慢すれば丸く収まるならば、それを選ぶ。シオディランの言葉にラナリスも頷いた。それは間違いなく同意出来ることだからだ。


「だが、あくまで自分だけが我慢すればいいという状況ならば、という話です。妹から聞いた話では、妃殿下はあいつのことを慕っていると伺っています。あのお人よしで無駄に頑固な自己犠牲の塊であるあいつを気に入るとは、奇特な令嬢もいるかと思いましたが」

「えっと」


 それはアルヴィスをけなしているのか。それとも褒めているのか。その両方なのか、非常に判断しにくい言葉だった。ラナリスとは違うアルヴィスへの評価だ。少なくとも、ラナリスは頑固だとは思っていない。それ以外については、思うところがないわけでもないにしても。


「身分だけならば、あいつはどこの貴族令息よりも魅力的でした。でも、それはあくまで貴族としてです。元々王族と婚姻が決まっていた妃殿下には当てはまらない。だからこそ、アルヴィス個人を見てもらえたというのは皮肉ですが……それでも妃殿下はあいつを選んでくれた。他の令嬢と、妃殿下の大きな違いはその点にあります」

「お義姉様だけは、アルお兄様を見てくれているということですか?」


 王弟の息子でもなく王太子でもなく、アルヴィスを見て、好いてくれている。それが出来るのは、エリナだけなのだとシオディランは言っているのだ。確かに、他の令嬢には王太子の妃という立場が魅力に映るかもしれないが、元々そうなることが決まっていたエリナにとっては気にするようなことでもない。魅力的な立場ということでもないのだろう。


「そうです。だからこそ、あいつもわかっているはずですよ。そうすれば誰が悲しむのか。誰を我慢させることになるのかを。自分だけならともかくとして、妃殿下までを巻き込むような結果を望むことはないでしょう」

「ですが、そのようなことできると思いますか?」


 先ほどシオディラン自身が言っていたことだ。それが役割だと。最初の発言とは異なる言葉。シオディランは一体何を考えているのか。


「正直に申し上げれば出来ないと思います。どれほど望もうとも、嫌だと叫ぼうとも……それが王族という存在であり権力者には与えられない自由なのですから」

「そう、ですよね……」


 そう、権力と引き換えに王族は自由を失う。自分たちよりも、国を民を考えなければならない。個人の感情など、そこには必要ない。ある意味では犠牲者でもあるのだろう。でも本当にそうでなければいけないのだろうか。アルヴィスやエリナが苦しむ必要があるのだろうか。


「それでも、何かやろうと画策しているらしいですが……妹たちは」

「ハーバラ様が?」

「全く、馬鹿な奴の所為で思考が別のベクトルを向いてしまったようでして、ね」


 深々と溜息をつくシオディラン。シオディランが言う馬鹿な奴とは一体誰の事だろう。思いつくのは、ハーバラの元婚約者。もしくは、ラナリスの従兄でもあったジラルドだろうか。この場合は後者かもしれない。

 実は今学園の中でも、令嬢たちから婚約や男性が優位という考え方に疑問を呈している人たちが増えてきている。貴族令嬢の役割は、本当に子どもを産み家を守ることだけなのだろうかと。愚かな貴族令息に奪われる人生ならば、一人で生きていく方法もあるのではとまで考える令嬢もいるほどだ。

 商売を始めているハーバラは、その先頭を走っているといっても過言ではない。


「あの人が起こした事件は、色々なところに影響を及ぼしているようですね」

「その通りです。ある意味においては大きな人物だったと言えるでしょう」


 令嬢の価値観を変えた。そういう意味では、確かにその存在は大きかったのかもしれない。



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