13話
向かったのは国王の執務室だ。中に入れば、国王と王妃、ラクウェルが待っていた。
「……お待たせして申し訳ありません」
「いや、構わぬ。だがアルヴィス、体は大丈夫か?」
「はい。不甲斐ないところをお見せしました」
儀式の途中で倒れてしまったのだ。その場には貴族当主らもいたというのに、儀式の主役であるアルヴィスが倒れては意味がない。
「ことがことゆえ致し方ないことだ。気にするな。……現代において、女神の祝福を受けた王太子がいることは喜ばしいことなのだから」
「……」
「さて、アルヴィスも来たことだ。これ以上待たせるわけにもいかん。御披露目といこう」
「はい」
時間は遅れる事を公表したが、既に人々は姿を見ることのできる広場に集まっていた。この日は特別に城内の庭園が国民に開放されているのだ。謁見の間から続くバルコニーから望むことのできる庭園は、人で一杯になっている。あとは、姿を見せるだけだ。
まずはカーテンを開き、国王がその姿を現す。次に国王の招きに従うように、アルヴィスが前に出た。途端に拍手と歓声が沸き上がる。その声に応じるように手を振り笑みを見せた。学園でもパーティーなどでも、笑顔を振り撒く機会は多いので慣れている。
終わりの時間が来るまでの間、アルヴィスは顔に笑みを張り付けていた。
国王の挨拶が終わり、正式にアルヴィスが王太子の地位に就いた報告を国民にしたところで、御披露目は終了だ。中に引き返す。それでもまだ人々の声は止んでいなかった。
今日の予定はこれで全て終わり。疲れもあるということで、アルヴィスは自室に戻った。戻り次第、儀礼服を脱ぎラフな私服に着替える。漸く落ち着くと、アルヴィスは目を閉じて背を預けるように深く座り込んだ。
「アルヴィス様」
名を呼ばれ、アルヴィスは目を開ける。呼んだのはエドワルドだ。その横にいるのは、ナリス。更に、他の侍女たちも控えていた。
「少しお休みになられますか?」
「いや……まだいい」
「……では、我々が挨拶をしても宜しいでしょうか?」
「……あぁ」
少しだけ身体を起こすと、アルヴィスは懐かしい面々を改めて確認する。
新しく加わった侍女は全部で四人。全員が公爵家で侍女をしていた者たちだ。最年長がナリス。そして、幼い頃からアルヴィスの侍女として側にいたルーシー、ナリスの娘で乳姉弟でもあるキリカ、エドワルドの姉で幼なじみでもあるイースラだ。
筆頭侍女はティレアとなるが、アルヴィスとの付き合いの長さで言えば、ナリスらの方が上だ。あくまで王妃の顔を立てるための配置だろう。とは言え、ナリスは年長者でもあるが城内での侍女経験もあるため、ティレアら三人との連携については任せるつもりだが。
「ティレア」
「は、はい」
「やりにくいかもしれないが、頼む」
「……お任せ下さい!」
ティレアらは昨日ラクウェルから指摘されたばかりだ。その上、公爵家からの侍女がやって来た。心情は穏やかではないはずだ。
「ナリス」
「何でしょうか?」
「……ここは公爵家ではないんだ。ほどほどにしてほしい」
「ここに来た時点で、既に私たちの主はアルヴィス様です。わかっておりますよ」
加えてナリスにも釘を刺しておく。まだ聞きたいことはあったが、そろそろ本格的に疲労を感じてきた。マナはまだ完全に戻っていないため、今日はもう休んだ方がいいだろう。
「……すまないが、今日はもう休む」
「お供します」
「いらない……エド、お前は明日だ」
「……承知しました」
「ティレア、後は頼んだ」
「はい」
頭痛も感じ始め、アルヴィスは顔がしかめそうになるのを堪えて、寝室に入った。誰もいない部屋で、ベッドに倒れ込む。
「……疲れた、な」
疲労が休めと訴えている。それに抗うことなく、アルヴィスは眠りにつくのだった。
寝室へと入っていったアルヴィスを見送り、一同は下げていた頭を上げた。
「……エドワルド」
「大丈夫ですよ、ナリスさん。今度は、何があってもアルヴィス様から離れませんから」
「そうね……」




