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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第二部

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第一章 過去との遭遇 1話

ここから新章開始します。

引き続きアルヴィスたちを宜しくお願いします!

 

 アルヴィスとエリナが結婚式を挙げてから二か月が経った頃、アルヴィスは公務としてルベリア王国の南に位置する交易都市であるリュングベルを訪れていた。ここはルベリア王国内においても、重要な都市のひとつ。アルヴィスが視察として訪れるにあたって、リュングベル地方を治めているフォルボード侯爵家へと滞在することとなったのだ。



 フォルボード侯爵家とは、現リトアード公爵の正妻であるユリーナ・フォン・リトアードの実家である。そのため、エリナにとっても所縁の地ということだ。そのこともあって、今回の視察にはエリナも同行していた。現フォルボード侯爵の当主は、エリナにとって伯父に当たる人物。このことに、アルヴィスは心の中で安堵していた。それは先代のフォルボード侯爵に対して、アルヴィスはよい思い出がなかったからである。

 アルヴィスがベルフィアス公爵家の複雑な事情を知るに至った原因を作った人物。それが先代のフォルボード侯爵だった。マグリアを庶子と教えてくれたのも彼である。両親の前では兄マグリアを称え、その裏では下賤の子だと貶していたのだ。それもアルヴィスの前で。彼にとっては、生母の出自が定かにされていないマグリアが王弟の子であること。嫡男としてあること。さらにはその家を継ぐことが許せなかったらしい。

 滞在中の部屋として通された部屋で、アルヴィスはソファーへと腰を下ろした。


『臣下となったとしてもラクウェル殿下の血筋は正当なもので引き継がれていかなければなりません。それには、貴方様が継ぐのが正しいのです! あのような下賤な血を由緒正しい王家の所縁と認めることなど……』


 マグリアの母がどのような人だったかも知らずに吐かれた言葉。実際には、マグリアの母は貴族令嬢だったらしい。アルヴィスも母であるオクヴィアスから聞いた話だ。それ以上の詳しいことは聞かされていない。それに聞こうが聞くまいがマグリアが兄であることは間違いなく、その関係が変わることもないのだから、聞いたところで意味はないのかもしれないが。


「ふぅ……」

「アルヴィス様?」


 そんなことを思い出していたからか、アルヴィスは思わず深い息を吐く。すると、傍にいたエドワルドが案じるように声を掛けてきた。


「お疲れですか? 少しお休みになられた方が――」

「いや、大丈夫だ」


 言葉を遮る形でそう伝えると、どこか納得がいかないような顔でアルヴィスを見返すエドワルド。エドワルドはアルヴィスと先代フォルボード侯爵との間にあったことを知らない。いや、エドワルドがいない時を狙ってフォルボード侯爵が近づいてきたと言ってもいいだろう。エドワルドが居たならば、確実に父ラクウェルに伝わっていたはずなのだから。

 尤も、ラクウェルらはフォルボード侯爵の腹など既に知っていた可能性の方が高いので、知られたところで大した差はなかったのかもしれない。フォルボード侯爵が近づいてきたとき、アルヴィスが行う対応として正しかったのは、ラクウェルに伝えることだった。うまく取り繕うことが出来なかったという点では、アルヴィスはまだまだ子どもだったということだ。


「夕食まではまだ時間があるだろ?」

「……はい。それまではどう過ごされますか?」


 本格的な視察は明日から。現フォルボード侯爵も同行することになっている。王都から近くない距離を移動したこともあって、エリナも疲れていることだろう。エリナの滞在する部屋はもちろんアルヴィスと同じ部屋。夫婦なのだから当然だ。

 アルヴィスがフォルボード侯爵と話をしている間、フォルボード侯爵夫人と話が合ったようで庭でまだ話をしていた。アルヴィスも誘われたが、女性同士のお茶会に顔を出せばどうなるかは身に染みている。とりわけ、アルヴィスとエリナは婚姻したばかりということで、話題がそちらにいくのは間違いない。話題に上げられることが避けられないのはわかっていても、傍で聞かされるのは居た堪れなかった。


「少し街を見て回ろうと思う」


 この街へ来たのは初めてだ。どのような街なのか。少しでもいい。街の表情を見ておきたい。実はフォルボード侯爵へも事前にそれを伝えたところ、反対された。仮にも王太子が安易に街に向かうなどと。

 フォルボード侯爵の言うことは正しいだろう。だが、この地位にいるからこそ見て回らなければならないこともある。もちろん、服装は貴族子息程度に見られるようにするし、護衛たちにも似たような服装で共に同行させるつもりだ。そう説得すれば、フォルボード侯爵も短時間ならばと納得してもらえた。アルヴィスが命令をすれば、フォルボード侯爵には反対することは出来ない。だが、ここはフォルボード侯爵が治める領地。彼の意向を無下にすることは出来ない。それが王族であろうともだ。

 外出することを告げれば、エドワルドは呆れたように肩を落とす。


「全く、本当に行かれるのですね」

「あぁ。すまないが、エドは留守を頼む」


 アルヴィスが外に出ている間、エリナのことを頼めばエドワルドは首肯する。万が一何かが起これば、エドワルドの力量だとアルヴィスに守られる側となってしまう可能性が高い。それはアルヴィスもエドワルド自身もよくわかっていること。それほど人数を連れてもいけないのでディンとレックス、それとリュングベル出身の隊士を連れていくこととなった。他にも離れた場所から護衛をする隊士もいるので、厳密にはそれ以上を連れ歩くことにはなるのだが。


「治安については悪くないと聞いてはおりますが、十分にご注意ください」

「わかっているよ」


 アルヴィスは立ち上がり軽い旅装となるように服を着替えると、持ってきていた愛剣を腰に差した。


「では、行ってくる」

「お気を付けて」



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