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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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幕間 隣国を探る者

少し時間戻ります(>_<;)

 

 時を少し遡ったマラーナ王国。


 この国では、最近黒い噂が絶えない。発端は、先の隣国で王女が起こした事件。ルベリア王太子毒殺未遂である。ルベリアはこれまで友好国として付き合いがあった。だが、この一件により信用は失ったと言っていいだろう。

 その後、中央貴族の中でも名家であったロックバード伯爵が遠い領地へと封ぜられた。さらに、王太子にも謹慎が言い渡され、近いうちに廃嫡されるという噂だ。もっといえば、この采配に於いて国主である国王陛下が全く出てきていないこともきな臭い。一体この国に何が起きているのか。


「ここまでとは思わなかったな」

「えぇ。ですが、これがこの国の現実ということでしょう。隣接している以上、我が国も無関係ではいられません」

「だな。それにしても国王の姿がここ最近……というかそれ以上前から見ていないというのも気にかかる」


 民衆と同じ服装をし、彼らの中に紛れている二人組の男女。彼らは話をしている内容とは裏腹に、手を握りしめながら笑みを浮かべている。誰もが恋人同士の逢瀬だと思う光景がそこにはあった。


「それで……この手はいつになったら離すんだ?」

「その見た目で、その口調はいただけませんよ、アン?」


 アン、そう呼ばれた女性は鬱陶しいものを見るように相手の男性を睨みつける。灰色の髪に黒い瞳。一見すれば、どこにでもいる平民の様相だ。普段は王城で侍女の姿をしているが、そちらとは見た目も変えているため、こちらの方が儚い印象を与える。アンにしてみればどちらも仮の姿でしかないのだが。


「時と場所はわきまえている。今、ここには私たちしかいないんだから別に構わない」

「はいはい」


 こんなやり取りも見慣れたものだ。お互いのじゃれ合いのようなもの。一定の距離に他人がいないことも確認済みだ。でなければ、流石に令嬢らしい口調に変えている。


「ここでの情報はとりあえずこんなところだ。一旦、持ち帰る」

「私はどうしますか?」

「引き続きここだ。必要ならば増員する」

「……では、ネズミを一匹お貸し願えますか?」


 彼の言葉にアンは目を見開く。ネズミとは隠語だ。それを貸せとは、また無謀でもするのかとアンが溜息を吐いた。


「無茶はするなよ。我らが次期様は、あまり我々がむやみに無謀をすることを良しとしない方のようだからな」

「随分と甘い人なのですね。駒は使ってこそ意味があるというのに」

「……お前も大概な奴だな。まぁいい……ジュド、ここは任せた」

「御意」


 アンがそう言って離れると残された男性、ジュドもその場を離れる。そうして足を向けたのは、城へと続く大通り。そこにはすでに多くの人が集まっている。

 今日は、マラーナ国において美姫と名高い第一王女が修道院へと送還される日だ。誇り高いあのカリアンヌ王女が大人しく言うことを聞くわけもない。さらにこちらが得た情報では、その美姫を乗せた馬車は道中で盗賊に襲われることになっている。その目的が死なのか、それ以外なのかはわからない。だが、どうやらそれを画策した人物は、王女には逃げ道を与えないらしい。向かう先は修道院とはいえ、貴族令嬢が送られる由緒ある教会。さらに王女が来るとなれば、そうそう手荒な扱いは受けないはずだ。とはいえ、王宮との暮らしには雲泥の差があるだろうが。その辺りが王女も荒れている理由なのかもしれない。


「それにしてもマラーナ宰相、シーノルド・セリアン。平民出身で、軍属から宰相まで上り詰めたという傑物か」


 貴族からは疎ましく思われているが、平民出身ということもあり同胞たちからの評価は高い。何よりも、長年マラーナで蔓延っていた悪習である奴隷制度の廃止を訴え、実行した人物なのだ。奴隷という待遇に苦しんでいた人々からすれば、漸く手に入れた自由というものに浮かれていることだろう。その裏で何が起きているかなど知らずに。


「制度が廃止されただけで、実態はなくなっていない。ゆえに、解放されたのは一部の者たちだけで、あとは裏市場で取引されている、ですか。それに気付かないとは滑稽ですね。いや、気付かないようにしているだけなのですか」


 良くも悪くも奴隷市場は、マラーナにとって重要な市場の一つだった。生活が困窮している平民にとっては特に。それに中には、ひどい扱いを受けていなかったという奴隷もいたらしい。要するに制度が問題なのではないということだ。引き取る側、そしてそれを行わなければ生きていけないというこの国自体に問題がある。根本的な解決をしない限り、この国から奴隷が消えることはないのだから。

 今回の件で裏市場を牛耳っていた一人であるロックバード伯爵が左遷された。これが貴族に与える影響は少なくない。息子に引き継がれたとはいえ、彼がどのような人物なのかは測りかねている。父と同じような道を選ぶのか。それとも別の考えを持っているのか。

 そこまで考えてジュドは首を横に振った。そのようなことまで考えるのは己の役割ではない。それにこの問題はマラーナ自身が解決するべきこと。この国で諜報活動をするうちに、情でも湧いたのかもしれないが、ジュドが仕える国はルベリアなのだから。

 ゆっくりと豪華な馬車が見えてきた。ルベリア王太子毒殺未遂。その罪状から見れば、このような馬車で送られることすら遺憾だ。実際には毒物ではなかったとはいえ、そのようなことをマラーナ国民たちは知らない。だからなのか、国民たちは馬車に対して剣呑な表情をしている者たちが多い。中には暴言を吐いているものまで。一度護衛をする兵たちに睨まれれば刃も納めてしまうが、それも仕方ない。


「ルベリアの王子様に毒物を入れたというのに、罪悪感も感じられないなんて……最低」

「流石、王女様よね。自分以外の人なんて飾りか何かだとしか思っていないのよ」

「あちらの王子様は大層美形なのでしょ? ならアクセサリーか何かにしようとでも思ったのではないの?」

「……ほんと、人を何だと思っているのかしら」

「毎日遊び惚けている王太子よりはマシだと思ったけれど、やっぱり王族の人はそういうものなのね」

「しっ、兵士たちに聞かれるわよ」

「聞かれたところでいいわよ。宰相様が理不尽なことをするはずがないもの」

「そうね。もう宰相様が全てをおやりになればいいのに」


 聞き耳を立てていると、届いてくるのは王族への不満。そして宰相への信頼だ。元々王太子についての評価は、最低だった。王女については王太子よりは国政に携わっていたこともあって、まだマシというレベルだ。そもそも国王など話題にさえ出てこない。


「……もしやこれが宰相の目的、か」


 この先に起きる王女の襲撃が宰相の手によるものだとすれば、残る王族は国王とまだまだ小さな王子王女のみ。その間、国政を担うのは間違いなく宰相だ。そのために王女を利用したのだとすればどうか。いや、だがそれだけではルベリアの王太子であるアルヴィスを狙う意味がない。他国で問題を起こさずとも、葬ることなど宰相には可能だろう。では、なぜルベリアに手を出したのか。


「考えすぎならばいいですね。やはり当人を探るしかないようです。頼みますよ、首領」


 アン……否、ジュドの上司であるルベリア王国諜報部隊の影を束ねる首領の一人であるその人にジュドは想いを飛ばした。




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