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35話

 

 挨拶を終えたアルヴィスたちは、1階にあるサロンへと移動した。広い空間には大き目のソファが三つ。アルヴィスの隣にエリナ、そしてオクヴィアスとマグリア、ミント。ヴァレリアとミリアリアがそれぞれ座る。皆が座ったところで、侍女たちがそれぞれ紅茶とお菓子を目の前のテーブルへと用意していく。


「みんな、ありがとう。ここは下がっていいわ」

「はい、承知いたしました。では、私どもは失礼いたします。御用がありましたら、お呼びくださいませ」


 オクヴィアスの指示に、侍女たちは頭を下げてサロンから出ていく。家族だけとなったところで、マグリアがその場で立った。


「兄上?」

「さすがにこの時間から酒を飲むわけにはいかないからカップにはなってしまうが……折角お前が帰って来たんだ。祝いくらいさせてくれ」


 マグリアはその手にティーカップを持つと、それに合わせてアルヴィスとエリナを除く全員が立ち上がる。もちろん、手にはティーカップを持って。


「少し行儀は悪いけれど、今だけ、ね」

「はい」


 アルヴィスも立つと、横にいるエリナも立ち上がった。


「では、少し遅くなってしまったが二人の結婚を祝して、乾杯といこうか。アルヴィス、それにエリナ嬢結婚おめでとう」

「「おめでとうございます」」

「おめでとう」


 実際に乾杯をするわけではなく、カップを掲げただけのもの。だが声を合わせて「おめでとう」といわれるだけで嬉しいものだ。


「ありがとうございます」


 アルヴィスがお礼と共に頭を下げると、エリナもそれに倣うように頭を下げる。頭を上げれば、マグリアたちから拍手をされ、アルヴィスはエリナと顔を見合わせて笑った。




 和やかに始まった家族との時間。アルヴィスとエリナへ声をかけたかと思うと、オクヴィアスは早々にサロンを出て行った。あとは子どもたちだけで、ということだろう。

 エリナは、アルヴィスから離れてラナリスとミリアリアとで話をしている。学園の後輩であるラナリスは、学園内でも親しくしており、この中ではアルヴィスを除いてエリナが話しやすい相手だろう。一方、初対面となるミリアリアだが……。


「エリナお義姉さま、あのねあのね」

「はい、何でしょうか。ミリアリア様」


 思いの外、エリナになついているようで頻りに声をかけている。エリナが受け入れられているようで、アルヴィスも口元が緩む。すると、隣に誰かが座る気配を感じてアルヴィスは横を向いた。そこにいたのは、マグリアだ。


「あれでもミリアリアは、当初随分と寂しがっていたんだ。お前が結婚してしまうことをね」

「そうですか」


 ミリアリアは異母兄とはいえ、アルヴィスを兄として慕ってくれている。学園卒業後に、滅多に領地に帰らなくなった時も「帰ってきてほしい」と何度も手紙をもらっていたが、結局帰ることはなかった。予期せぬ事態で王太子となり、帰ることもできないままとなったことをアルヴィスは少し後悔している。だからこそ、こうして時間を設けることが出来て良かったと思うのだ。


「ミリーには悪いことをしたと思っています。それに、ヴァレリアにも」

「あ……」


 ニコリと顔を前へと向けると、一人座っていたヴァレリアが驚いたように目を見開いた。隣に座っていたミリアリアはラナリスの方へ行ったが、女性同士の場所へ行くわけにもいかない。おとなしい性格のヴァレリアからすれば、自分からアルヴィスの下へは行きにくかったのであろう。こちらへ来いと手招きをすれば、ゆっくりと立ち上がってアルヴィスの隣へと座る。ちょうどマグリアとは反対側だ。


「すまなかったな、ヴァレリア」

「いいえ。アルヴィス兄上もお忙しいのですから。僕はこうして帰ってきてくれただけで十分です」

「そうか。式にもよく来てくれた」

「僕も参加させていただけて嬉しかったです。衣装もとてもよくお似合いでした」


 参加出来るとは思っていなかったとヴァレリアは話す。嫡男扱いのマグリアとは違い、ヴァレリアは三男。さらに第二夫人の息子だ。そこをきちんと認識しているヴァレリアにとって、正妻の息子であるアルヴィスとは立場が違うと考えているところがある。恐らくは母であるレオナからそう言われているのだろう。


「ありがとう、ヴァレリア。レオナ殿にも来てもらいたかったが」

「母は、行くべきではないと言ってました。オクヴィアス様は共に行こうと仰ってくださったのですが、申し訳ありません」

「ヴァレリアが謝ることじゃないよ。レオナ殿は、今はどうしている? 出来れば挨拶をさせてほしい」


 エリナも連れていきたいが、レオナの性格からしてやんわりと断られてしまうだろう。今は、ラナリスたちと話をしている最中だ。行くならば今がいい。

 アルヴィスがそう告げると、ヴァレリアは困ったように頬を掻いた。


「実は、アルヴィス兄上がそう仰るのではないかとオクヴィアス様から言われておりました。母も、そのつもりで構えていると思います」

「そうか。わかった。兄上、俺はレオナ殿の下へ行っています」

「あぁ、行ってきなさい。俺とヴァレリアはここで待っているよ」

「お願いします」



 ★☆★☆★



 その場を立つと、アルヴィスはサロンを出て行った。バタンと扉が閉じる音に反応したのか、ラナリスたちは扉の方へと顔を向ける。次に、マグリアたちを見る。出て行ったのがアルヴィスだとわかっただろう。


「マグリアお兄様、アルお兄様はどちらへ行ってしまわれたのですか?」

「レオナ殿のところだ」

「レオナ様の?」


 レオナという名前を聞いて、エリナが顔色を変える。その名が、ベルフィアス公爵ラクウェルの第二夫人だと気付いたのだろう。すぐにでも後を追おうとするエリナをマグリアが静止した。


「すみませんが、エリナ嬢はここで待っていてください」

「ですが、挨拶ならば私も——」

「……レオナ殿はご自分が表に出ることを嫌う方なのです。あくまで自分は第二夫人だからと。なので、今はここで待っていてもらえますか?」

「そうなのですか。わかりました」


 納得はしたが、少しだけ寂しそうな顔をしたエリナ。すると、パンとラナリスが両手を合わせた。


「そうですわ。エリナ様、アルヴィス兄様がいらっしゃらない間に、兄様のお話をいっぱいしましょう! 私たちも、ここ一年ほどの兄様のお話をお聞きしたいです!」

「ミリーも‼」

「ラナリス様……はい、私もお聞きしたいです」


 ラナリスの言葉がエリナを気遣ったものだと気付かない者はここにはいない。それでも乗せられてくれるエリナは優しい女性だと、マグリアは思う。


「わが弟は果報者だな」



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