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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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11話

 

 翌日は、朝から城内がざわざわとしていた。事情を知らぬ者は誰一人いない。前王太子であったジラルドに代わり、王弟の息子であるアルヴィスが王太子としての身分を正式に預かる日だ。

 ジラルドが起こした不祥事とも言える事件は、国全体に広まりつつある。人々は、婚約者がいながらも浮気をして、己を正当化して婚約者を罵倒し冤罪を押し付けた王子を非難した。更にその矛先は王家へと向きつつある。

 王位継承順位通りではなく、王弟の息子を王太子と迎える理由に、不遇を受けた婚約者の名誉を守るためだと謳ってはいるが、未だ不信感を拭えない国民は多いだろう。

 今回のために、王弟のラクウェルとその息子であり長男のマグリアは、王位継承権を昨日付けで放棄をした。故に、現時点で継承権一位はアルヴィスとなった。


 朝食後に、自室にてアルヴィスは堅苦しい儀礼服に身を包んでいた。一人では着ることが敵わない服で、今日に間に合わせるため職人たちは徹夜で作業をしたという。ルベリア王族の正装は、深紅を使用した色合いの服となる。所々に金糸が使われて、神々しさを表現する。


「……本当に、よくお似合いでございます」

「……そう、か」


 似合わないとはアルヴィスも思っていないが、そこまで感激するほどでもないとは思っている。感極まっている様子のティレアには、若干引き気味だ。

 見た目よりは重量も感じないが、気は引き締まる。もう後戻りは出来ないと。今日の予定をアルヴィスは、今一度確認する。

 まず最初は、国の象徴でもある女神への宣誓を行わなければならない。場所は王都の大聖堂。その大聖堂の奥にある女神ルシオラを象った女神像の元へ向かう。宣誓を終えれば御披露目がある。本来ならば、その後は祝賀会なのだが準備期間があまりに少ないことから、別途日を改めることになっていた。

 御披露目さえ終われば、一段落つくことができる。そこへ、コンコンとノックの音が響いた。


「失礼致します。アルヴィス様、ご準備が整いました」

「わかった……今行く」

「行ってらっしゃいませ」

「「行ってらっしゃいませ」」


 ティレアらに見送られながら、アルヴィスは部屋を出た。迎えにきた執事の案内で、城の玄関口である大扉まで来ると近衛隊が整列していた。知っている顔ばかりだ。しかし、皆はアルヴィスに対して一斉に騎士礼――右胸に手を当て頭を下げる。行事は既に始まっているのだ。

 大扉が開かれれば豪華絢爛な馬車が用意されている。こうして馬車で城外に出るのも久しぶりだ。促されるまま乗り込むと、ゆっくりと馬車が走り出す。

 城から数分で大聖堂の前に到着すると、アルヴィスは馬車を降りる。


「あ、あれがアルヴィス様か……」

「ジラルド殿下も綺麗だったけど、やっぱり王族の方は綺麗なのね……はぁ」

「アルヴィス様~~」


 大聖堂は普段誰でも来ることの出来る開放された場所。今日は午前のみ王族で貸しきってはいるものの、大聖堂の周りは別だ。アルヴィスがどの様な人物なのかを間近に見ることのできる最初の機会でもあるからか、多くの人が集まっていた。思わずしかめそうになる顔を抑えて、アルヴィスは大衆へと身体を向けると笑みを浮かべて目礼する。すると、わぁーと声が轟いた。そんな歓声を聞きながら、アルヴィスは大聖堂へと入っていく。


 神官により案内され奥まで行くと、既に国王、王弟の父ラクウェル。そして、大司教や四大公爵家当主などが揃っていた。貴族家当主が立ち並ぶ道を歩き、国王の元を通りすぎ中央に立つ大司教の前まで来るとその場に膝をつく。


「……アルヴィス・ルベリア・ベルフィアス、参上致しました」

「良くおいでになられました、アルヴィス様。ルシオラ様の御前にて、その御名をお告げになり、マナを注いでください」

「はい」


 立ち上がると、女神像の前へ進む。そして女神像の前に手を翳し、目を閉じる。


「我、この身を父たる大地へ注ぐ者なり。この魂を母なる女神に捧げる者なり。その名をここに宣言す……アルヴィス・ルベリア・ベルフィアス」


 宣誓の言葉を述べ、マナを女神像へ注ぐ。

 マナは人体を構成する要素の一つ。誰もが持っているものだ。マナの保有量には個人差があり、貴族や王族は多い傾向にある。寧ろ、学園などではこの扱い方を学ぶ。勿論、アルヴィスもマナを扱える。なので、女神像にマナを注ぐことは難しいことではない。


『……その誓い、受け取った』

「え……」

『我が御子(あこ)よ……』

「な、痛っ!」


 アルヴィスの手の甲に痛みが走る。と同時に女神像が金色に輝いた。


「なっ!」

「め、女神像が……!」

「ひか、った?」


 驚いたのはアルヴィスだけではなかったらしい。大司教も、そして他の者たちも驚きに声をあげる。光はやがて大聖堂全体を包んでいった。

 アルヴィスは膝をつき、女神像へと翳していたその手を押さえている。光が止むと、ラクウェルがアルヴィスへと真っ先に駆け寄ってきた。


「アルヴィスっ!」

「……っ」

「しっかりしろっ!……っておい、これは」


 ラクウェルはアルヴィスの右手を取った。その手の甲には、紋様が描かれている。以前にはなかったものだ。


「どうした、ラクウェル?」

「兄上……アルヴィスの手の甲に」

「手の甲? ……こ、れはルシオラの紋章か」


 国王が慌てて大司教へと意見を求める。女神ルシオラに詳しいのは大司教の方だからだ。


「失礼致します、アルヴィス様」


 ラクウェルの反対側から大司教が手の甲を見つめ、紋様に触れた。


「……間違いありません。陛下、これは女神ルシオラ様の紋章でございます。恐らく、アルヴィス様のマナに反応されたのでしょう」

「マナに?」

「過去において、ルシオラ様はルベリア王家と契約を交わした間柄でございます。親和性が高いお方が稀に契約をされるのは、あり得ないことではございません」

「なんと……では」


 アルヴィスは意識が遠のくのを感じながら、そんな話が聞こえていたが、やがてそのまま意識を失ってしまった。


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