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31話

先週の金曜日からコミックガルドにて連載が開始されました。

お祝いのコメントありがとうございます。

これからも本作を宜しくお願いします!

 

 フィラリータとの摸擬戦を終えると、そのままアルヴィスはミューゼを呼ぶ。ミューゼは代わりの摸擬剣を持ってアルヴィスの前に立った。


「王太子殿下、休憩を入れずとも宜しいのですか?」

「あぁ、大丈夫だ」


 その答えを聞いたミューゼは少しばかり面白くなさそうな顔をする。どうやらミューゼもフィラリータと同様、負けず嫌いのようだ。ミューゼから摸擬剣を受け取ると、アルヴィスはヘクターに頷いた。


「わかりました。アービー、準備はいいか?」

「はい」

「では……始め!」


 ヘクターの合図とともに、ミューゼが地を蹴る。その速さは、フィラリータを上回るものだ。アルヴィスは剣を構えることなく、向かってくるミューゼを横に避ける。そしてミューゼが剣を薙ぎ払うのに合わせて、剣で防いだ。


「中々重い斬撃だ」

「ありがとうございますっ!」


 フィラリータのそれよりも重心がかかったそれは、見た目以上の力を感じさせるものだった。ミューゼの剣を押し返して距離を取る。だが、ミューゼも間を置かずに動いた。その剣先がアルヴィスの左耳の横を通り過ぎていく。どうやら余裕を持って相手をするわけにはいかないらしい。アルヴィスは笑みを浮かべながら、後ろに跳びのいた。

 剣を下げると、アルヴィスがミューゼへと迫る。一瞬で距離を詰めるものの、ミューゼはその場で跳び上がり身体を回転させながら避けた。だが、アルヴィスもそのまま剣を上へと突き上げる。剣を受けざるを得ない状況になったミューゼ。空中では身体を動かせないと思ったが、ミューゼはアルヴィスの剣の反動を利用して移動距離を稼ぎながら着地する。と同時に、ミューゼの剣がアルヴィスへと襲い掛かった。まだ体勢を整え切れていないアルヴィスへと剣先が迫る。アルヴィスはその刃を右手で掴むと、左手で握っていた剣をミューゼへと向けた。顔色をなくしたミューゼは姿勢を低くして避け、アルヴィスから離れる。


「はぁはぁ……なるほど、確かにお強いですね殿下」

「……君もな」


 そうして再び二人は地を蹴った。

 その二人の攻防を様子を少し遠くから見ていた騎士団員たち。その中で、ヘクターはやれやれと呆れたように首を振った。


「団長、どうかしました?」

「いや。アービーが殿下に傷を付けないかが心配だったが、この様子では問題はなさそうだな」

「アービーには我々でも相当頑張らないと勝てませんからね」


 実を言えば、ミューゼの実力は騎士団員の中でも上位だった。それこそフィラリータよりも上だ。女性団員では随一の力。戦闘センスが高い。

 摸擬剣同士とはいえ、アルヴィスがミューゼと試合することにヘクターは反対だった。アルヴィスが弱いとは思っていない。だが、ミューゼはその上を行くのだと。


「思っていた以上に、殿下も成長されていたということだ」

「いや、あいつは元々それなりでしたけど……」

「あいつ?」


 団員が思わずアルヴィスをそう呼ぶと、ヘクターがジロリと睨む。焦った団員が逃げるように立ち去った。その様子に、ヘクターは頭が痛くなる。

 学園卒業後、アルヴィスは騎士団へと入団した。当初は公爵子息、しかも王弟の息子ということで腫れもの扱いだったが、その実力を知るや否や後輩として可愛がられていたように思う。王太子となってからアルヴィスが騎士団へと顔を出したのはこれが初めてだった。騎士団時代に親しくしていた団員もいることだろう。多少は大目に見なくてはならないが、けじめは必要だ。

 ヘクター自身も騎士団時代には、何度か手合わせをしたことがあるものの、今目の前にいるアルヴィスには遠く及ばなかった。近衛隊で培われたということだろう。王太子となった今では、鍛錬する時間も然程取れない。訓練所で剣を振っているとは聞いているが、その目的は身体を動かすことであり、剣の腕を磨くためではないのだから。

 そんなことを考えている間にも二人の模擬戦闘は続いていた。連戦のアルヴィスは元より、女性であるミューゼもそろそろ体力が限界にきていることだろう。頃合いを見て試合を止めなければならない。ヘクターは今一度試合へと集中した。



 ミューゼの剣は、アルヴィスとよく似ている。速さを重視していることもそうだが、重心の移動の仕方が同じだ。そして、速さはミューゼに分がある。アルヴィスが勝るのは力。そろそろアルヴィスも限界が近い。あまり無理をすれば、不要な心配をかけるだけ。試合を終わらせる必要がある。


「考え事とは余裕ですね、殿下!」

「っ⁉」


 剣が眼前に迫ってくる。アルヴィスは反射的に身体を動かすと、思わず剣にマナを込めてしまった。力がこめられた剣は、そのまま脆く崩れ去る。二人はその場で動きを止めた。


「……悪い」

「いえ」


 不完全燃焼。まさにそれが相応しい幕切れだった。だが、摸擬剣が使えなくなっては続行は出来ない。これで試合は終わりだ。ミューゼは、呼吸を整えてからアルヴィスの前に立つ。


「王太子殿下の強さはわかりました。お手合わせありがとうございます。正直、見くびっておりました」

「こちらこそ。感謝するよ」


 アルヴィスが手を差し出すと、ミューゼもそれを握り返す。周囲からは拍手が送られた。


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