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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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122/380

26話

12月25日に小説、第一巻が発売しました!!

お手に取ってもらえたなら嬉しい限りです!!


 

 フィラリータとミューゼをエドワルドに任せ、アルヴィスは王太子宮へと戻ってきた。エリナと違ってアルヴィスには特に準備をすることなどない。だが、王都外に出るならば念のため帯剣はしておいた方がいいだろう。一旦自室へと戻り、衣装部屋へと置いてあった愛剣を持ってくる。

 一度は手放したそれを再び握ることが出来るとは、思ってもみなかった。とはいっても、アルヴィスが帯剣することが許されるのは、王都外に出た場合のみ。その目的は自衛だ。これまでアルヴィスは誰かを守るために、剣の腕を磨いてきた。だが、これからは己の身を守るために使う。率先して先陣を切ってきた騎士団や近衛隊時代からは逆のことをしなければならない。自身を一番に考えてこなかったアルヴィスには、これが一番の難題だった。それでも随分と慣れてきたものだと思う。アルヴィスは以前の自分を思い出して、苦笑しながら剣を腰に差す。


「これからも宜しく頼む、相棒」


 柄に触れながらそう告げて、アルヴィスは部屋を後にした。

 その足でエリナの部屋へと向かえば、ちょうど準備が出来たところだったらしい。ノックをしてからアルヴィスはエリナの部屋へと足を踏み入れる。部屋の内装は、エリナの母と王妃、そしてエリナ自身が相談をして決めたらしい。リトアード公爵家にあるエリナの部屋と雰囲気も似ているそうだ。

 アルヴィスが初めて入ったエリナの部屋を見回した。落ち着いた色合いが多く使われているが、小物は可愛らしいものが置かれている。エリナは可愛らしいものが好きなのだろう。


「……」

「アルヴィス様、お待たせしました」

「あ、あぁ」

「どうかされました?」


 部屋を見ていた所為で、エリナへの返答が遅れてしまう。何事かと首を傾げるエリナに、アルヴィスは頬を掻いた。


「……大したことじゃないんだ。ただ、令嬢の部屋に入ったのはラナの部屋以外ではなかったからな。リトアード公爵家のエリナの部屋もここの部屋のような雰囲気だったのかと、思って」

「ラナリス様を除けば、私が初めて、なのですか?」

「あぁ。そうだな」


 近い身内という意味だと、リティーヌやキアラもいる。しかし、彼女たちは王女であり後宮で暮らしているので、部屋に向かうことはない。アルヴィスにはラナリスの他に腹違いの妹がもう一人いるが、彼女と会うのはもっぱら本邸のサロンや庭だったので、別邸で暮らす妹の部屋は見たことがない。

 エリナとアルヴィスが婚約者だった期間は一年少々。王城で多忙を極めていたアルヴィスと、学園で寮生活を受けていたエリナ。リトアード公爵邸に出向いたのは、一回きりだった。夜遅くにエリナを送った一回だけ。リトアード公爵邸の中に入ったこともないというのは、婚約者としては異例のことだろう。それだけ、時間がなかったとも言えるが。そのため、エリナの部屋を見るのはこれが初めてだ。


「エリナは、そういった小物が気に入っているのか?」

「は、はい。その……似合わないかもしれませんが、可愛らしいものが好きで」


 可愛らしいものが似合わないと話すエリナの表情は優れない。チラリとサラに視線を向ければ、頷きが返ってくる。エリナに対し、「似合わない」と言った人物がいるということだ。そして、それは間違いなくジラルドだということ。当人に自覚はないかもしれないが、幼い頃から婚約を結んでいたことで彼の言葉が無意識に刻まれているのかもしれない。

 アルヴィスはエリナに近づくと、そっと髪に触れる。


「俺は似合っていると思う。可愛らしいものも、君に」

「っ……ありがとう、ございます。アルヴィス様にそう言っていただけると、嬉しいです」


 頬を赤く染めながらもエリナは照れ臭そうに微笑んだ。まだまだエリナには、言葉で刻まれた傷があるのかもしれない。それを治していくのは、アルヴィスの役目だ。それに、ジラルドにより刻まれた傷跡があるというのは、アルヴィス自身あまり面白いことではない。これがどういう感情かわからないほど、無知ではないつもりだ。と同時に、このような感情を抱けることをアルヴィスは嬉しく思う。


「エドたちを待たせているから、そろそろ向かおう」

「わかりました」


 スッと手を差し出せば、エリナは直ぐに手を重ねてくる。手を繋いで歩くことに照れることはもうない。それだけ、アルヴィスの隣が馴染んできたという証だ。アルヴィスも、こうしてエリナと歩くことが当たり前になりつつある。変わるものだと笑っていると、そんなアルヴィスを見てエリナが怪訝そうな顔で見上げていた。


「何でもない。行こうか」


 王太子宮を出て、連れ立って歩くアルヴィスとエリナ。侍女や騎士たちの視線を感じながら到着すると、馬車の前には数人の近衛隊士たちが準備をしていた。先導しているのは、ハーヴィだ。アルヴィスたちが来たことに気付いたハーヴィは礼を執って、駆け寄ってくる。


「王太子殿下、妃殿下。準備、直に完了します」

「わかった。突然、すまないな」

「一人で出かけられるよりは大分マシですから」


 それが、あの時一回だけだったアルヴィスの行動を指しているのは想像するに難くない。当時は少し反抗的な行動だったという自覚はある。アルヴィスが苦笑すると、ハーヴィも合わせて笑った。


「それと、同行する騎士団員ですが――」

「あぁ、わかっている」


 ハーヴィの言葉を遮って制止させると、エリナへと身体を向ける。


「アルヴィス様?」

「近衛と話をするから、エリナは先に馬車へ乗っていてもらえないか?」

「はい、わかりました」


 手を引いて馬車へとエリナを乗せると、アルヴィスはハーヴィの元へと戻る。そこには、エドワルドとフィラリータ、ミューゼも来ていた。


「アルヴィス様」

「ご苦労だった、エド。アムール、アービー殿、彼が近衛隊副隊長のハーヴィ・フォン・フォークアイだ。今回は、彼の指示に従ってほしい。副隊長、彼女たちは隊の同行者として扱うように頼む」


 護衛の戦力としてではないということを暗に伝えたのだが、それだけでハーヴィはアルヴィスが何を言いたいのかを理解したらしい。顎に手を当てて考え込む仕草をすると、首を縦に振った。


「なるほど……承知しました。宜しくお願いしますね、お二方」


 いつもの笑みを浮かべながら二人に挨拶をするハーヴィ。緊張しているように見えるミューゼと、困惑したような顔を見せるフィラリータ。平民出身であるミューゼが緊張するのはわかるが、貴族であるフィラリータが困惑しているのは、恐らくハーヴィと面識があるからだろう。


「お願いいたします、フォークアイ副隊長」

「……お願いします、フォークアイ様」

「それにしてもお久しぶりですね、アムール嬢。騎士団へ入団したとは聞いていましたが」

「令嬢扱いは止めてください。ここでの私は、一人の騎士団員でしかありません」

「では、私のことも近衛隊副隊長として呼んでください」


 微笑んではいるが、フィラリータの挨拶に対する意趣返しのようなものなのだろう。ハーヴィは怒るようなことは滅多にないが、礼儀には厳しい人物だ。騎士団員として扱ってほしいならば、まずは己から団員としての態度を取れということ。


「……申し訳ありません、フォークアイ副隊長」

「はい、宜しいです。アムール、アービーの二人には、馬で同行してもらいます。その都度指示は伝えます」

「「はい」」


 今度ははっきりと返事が揃う二人。満足そうにしているハーヴィは、二人に準備をするように指示を出す。二人が離れたところで、ハーヴィがアルヴィスへと近づいてきた。


「妃殿下へはどう対応されますか?」

「相性を見たいのもあるが……どこかで二人と話が出来る場面を作りたいと思っている」

「妃殿下とアムールたちと、ですか……なるほど、それは殿下がいない場所で、ということですか?」

「俺がいたら、やりにくいだろうからな。特にアムールは」


 肩を竦めるアルヴィスに、ハーヴィは納得顔で頷いた。


「確かアムール嬢とは同級生でしたか。剣を扱う殿下とならば、対峙することも多かったでしょうね」

「あぁ。学園時代では一番剣を交えた相手ではあるな」


 特に建国祭の折に開かれた大会では、決勝カードは毎回アルヴィスとフィラリータの二人だった。それもあってフィラリータからはいつも厳しい視線を受けていた気がする。


「ライバル、ですか」

「相手がどう思っていたかはわからないけどな」


 準備を進めるフィラリータたちを眺めながら、ハーヴィと顔を見合わせて苦笑するアルヴィスだった。


今年一年、本作品を読んでいただきありがとうございました。

これが今年最後の更新になるかと思います。


来年はコミカライズも始まるので、小説と同様に楽しみにしていてくださいね!

引き続き、来年も宜しくお願いします。


皆様、良い年末をお過ごしくださいm(__)m


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