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閑話 兄弟の会話

 

 場所を国王の執務室へと変えて、向かい合う形でラクウェルと国王は座っていた。


「全く、相変わらずのようだな、ラクウェル」

「この程度は許してもらわないと、息が詰まります。ここは、そういう場所ですよ、兄上」

「確かにな」


 昼食に遅れてきた理由は、ラクウェルから説明してある。これには、苦笑しながら仕方ないと国王も了承していた。

 ラクウェルと国王は四つ違いの兄弟。ラクウェルも結婚をするまでは、城内で過ごしていた。時折、こうして二人だけの時間を持っていたのだ。


「して……話とは、例の件か?」

「侍女は四人、それと侍従。全部で五人。認めてもらえますか?」


 懐からラクウェルが一枚の紙を差し出す。名前と各自のプロフィールが書かれたリストだ。全員がベルフィアス公爵家の使用人だ。更に言うならば、アルヴィスのことも良く知っている面々である。


「侍従のエドワルド・ハスワークというのは?」

「騎士団入隊前まで、アルヴィスの侍従だった者です。学園もアルヴィスの四年前に卒業しており、ギルスウィート伯爵家の遠縁でもあります。最近は私の補佐官の一人として置いていました。本人からの了承も得ています」

「相性も知識も問題ない、ということか」

「はい。何よりも、アルヴィスのことを良く知っており、叱咤できる間柄です。そういう者があの子には必要でしょう」

「……わかった。許可しよう。他の者も同じか?」

「概ねは……」


 アルヴィスの乳母だった者や乳姉弟など、年の近い者から離れた者までいた。何かしら関わりがあった者を選抜している。全員から了承も取れており、既に王都の屋敷で待機しているという。


「いつからでも来させられます。皆、アルヴィスを案じていますから」

「そうか……明日は、立太子の儀式がある。その後の方が良いだろう」

「明日、ですか。わかりました。では、明日の昼過ぎにはつれてきます」

「これは受け取っておく。明日に改めて顔を見せてくれ」

「ええ、構いません」


 これで決めなければならない事項は終わりだ。ラクウェルも許可が下りないことは考えてなかったため、宣言のようなものではあるが。


「しかし、お前がそれほど過保護だとは思わなかった」

「……否定はしません。しかし、どれ程の人物であっても、急に、お前は今日から王です、などと言われたら、直ぐに適応など出来るわけがないでしょう。ましてや、継承順位を飛ばしてしまっているんです。心構えなど出来ていないに等しい」

「そうだな」

「基本的に、アルヴィスは冷静です。取り乱したところは見たことはありません。私も長男を優先することが多かったのもあって、あの子についてはエドワルドに任せていた部分もありましたが……我儘など言ったことは一度もありません。だからこそ、心配なのです」


 貴族当主が跡継ぎである長男を優先するのは、珍しいことではない。次男の立場は、長男の代わり。万が一のスペアだ。同じような教育は施されるし、蔑ろにされるわけではない。両親も無下にしているわけではないし、ラクウェルとしても二人とも同じように接したつもりではある。しかし、アルヴィスは常に兄を立て一歩下がって控えていた。性格もあるだろうが、そんな様子にラクウェルは不安を抱いたのは一度や二度ではない。

 無意識なのか意識的なのかはわからないが、そんな性格であるので、今回のことで何かしら爆発しないかと心配をしていたのである。


「そうか……確かに、余も見たことはないな」

「でしょうね。まぁ、私の考えすぎということもなくはありません。ですから、あの子が快適に過ごせる環境を整えるのが、親としての私の役割でしょう」

「……ラクウェル」

「兄上が王として判断したことに異を唱えることなどしませんが、アルヴィスを巻き込んだことは許せませんよ。……ジラルドも、爵位など与えず生かさず殺さずで十分です。親として、我が子を見殺しにしたくないのはわかりますが」


 ジラルドを始末する案を提示するラクウェルに、国王は目を逸らした。非情な決定をしきれなかったのが、この国王の弱いところでもある。


「兄上……アルヴィスに王位を継がせるというのなら、全ての憂いを断ってからにしてください」

「ラクウェル……だが、王妃にこれ以上の――」

「耐えることの出来ない王妃ならば、去って頂いて結構です。でなければ、いつかジラルドを担ぎ出す連中が現れます。本気で、国を思うなら決断してください。でなければ、兄上……今すぐに王を退いてもらいたいです」

「……ラクウェル。本当に、お前はいつでもそうだ。ふぅ…………わかった。いや、本当は理解していたのだ。だが、どうしても王妃の顔が浮かんでしまう」


 自虐気味に力なく微笑む国王。父親よりも母親の方が息子に対する愛情は深い。迷うのも当然だ。


「ならば、リトアード公爵令嬢を王妃の話し相手として、召還してはどうですか?」

「エリナ嬢をか? ……確かに、王妃の気が紛れるかもしれんな」

「では兄上」

「あぁ。明日の儀式が終わり次第、ジラルドを塔に移送させる」


 国王が言う塔というのは、ルベリア王国の歴史の中でも罪を犯した王族や高位貴族などを幽閉するもの。入れられた者は、一生をそこで過ごす。食事は出るが、外に出ることは二度とない。牢獄のような場所であった。



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