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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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閑話 父らの想い

 

 アルヴィスへの挨拶を終えたラクウェルたちは、他の貴族たちのため道を空けると軽食が用意されているテーブルまで下がった。オクヴィアスはラナリスを連れて夫人方の元へ向かったため、ここにいるのはラクウェルとマグリアの二人だ。


「長かったような気もするが、あっという間だったような気もするな」

「そうですね。ですが……」

「どうした、マグリア?」


 言いかけて止まったマグリアへ、訝し気な視線をラクウェルは送る。そっと、貴族らからの祝いの言葉を受け取るアルヴィスを見れば、そのやり取りも随分と様になってきているようにマグリアは感じた。ついこの間までは騎士の道を歩んでいたにも関わらず順応出来たのは、アルヴィスの生来の資質なのかもしれない。

 ベルフィアス公爵家の者として、少なからず帝王学に触れてはいた。しかし、それも学園に入る以前の話だ。そこから離れて何年も経っている。幼き頃の教育というものは、どこで役に立つかわかったものではない。だとしても、アルヴィスはどちらかといえば帝王学や貴族としての教育を避けていたはずだったが……。と、そこまで考えてマグリアは首を横に振った。幼き頃のことは、人づてに聞いたものが多い。それもこれもマグリアを兄として立てる為、必要以上にアルヴィスが距離を取っていたからだった。賢いアルヴィスのことだ。自分がマグリアより劣っていると周囲に見せるくらいはしていただろう。


「いえ、こうして人の前に立つようになるならば、アルヴィスも遠慮することなく本来の姿のまま振舞えるのだろうなと思っただけです」

「マグリア……」


 最早、アルヴィスがマグリアに気を遣う必要はない。否、それ以上の能力を求められるだろう。アルヴィスの評価は他国においてはルベリア王家の評価となるが、国内ではベルフィアス公爵家の評価にも繋がるのだから。


「当時は私も必死だったので気付きませんでした。ですが、今にして思えばアルヴィスには相当の我慢を強いていたのではないかと」

「あぁ、恐らくはそうだろう。私も、王女殿下にその点については酷く責められたものだ」


 リティーヌに責められた時のことを思い出したのか、ラクウェルは困ったように笑う。実際、アルヴィスの幼少期についてはリティーヌの方がよく知っているのだから仕方がない。それだけラクウェルはアルヴィスの傍にいなかったのだから。しかし、アルヴィスからそれを責められたことは一度たりともなかった。そうしたのはラクウェルなのだとリティーヌは言っていたが、真実その通りなのだろう。


「あの子には出来れば平穏な幸せを与えてやりたかったのだがな……」

「父上」

「いや、だがこれも悪くはなかったのかもしれん」


 そう話すラクウェルの視線は、アルヴィスとエリナの二人へと向けられている。

 挨拶に出向いてくる貴族らへ微笑む二人。知る人が見ればわかるだろう。それがとても柔らかいものとなっていることに。


「そうですね。生誕祭の時は義務的な様子でしたが、今のアルヴィスからはその様子は見られませんから」

「感謝しなければならないな。エリナ嬢へは」

「それはこちらも同じです、ベルフィアス公爵閣下」


 ラクウェルらの話に入ってきたのは、エリナの父であるナイレン・フォン・リトアード公爵だった。ライアットやルーウェも一緒だ。


「ナイレン殿、お互いめでたいことだな」

「はい、ありがとうございます」


 ラクウェルがグラスを掲げれば、ナイレンも同じようにグラスを掲げる。王弟であり王太子の父のベルフィアス公爵と今回の花嫁の父であるリトアード公爵。二人が揃えば注目されるのも当然だった。だが、おいそれとこの場に近づいてくるような輩はいない。お互いに注目されることには慣れ切っている二人は、気にすることなく会話を進める。


「あのように笑って娘が結婚できたのも、アルヴィス殿下のお蔭です。我がリトアード公爵家一同……アルヴィス殿下がお相手だったことに、本当に感謝しているのです」


 一年ほど前に起きた件で、エリナは酷いショックを受けていた。常に品定めするような視線を受けていたエリナではあったが、その多くは女性たちからのものだ。男性数人で、ましてや衆人環視の中で罵倒されれば、恐怖を感じても仕方がない。その筆頭が婚約者だった。ナイレンはトラウマになることも考えていたらしい。

 されど、エリナはリトアード公爵の令嬢。将来の王太子妃としての注目度も高い。修道院などに入れられれば、世間はエリナに非があると判断してしまうだろう。ともすれば、エリナの名誉も傷ついてしまう。すなわち、エリナの将来が閉ざされるに等しい。それだけは避けなければならない。そこに上がってきたのが、王家からの提案だ。

 王太子を変え、その婚約者としてエリナを据える。エリナは変わらず王太子妃となることが出来る。エリナに非はないという証明にもなるだろう。リトアード公爵家としては、これ以上ない結果だ。強いて言うならば、エリナの心情次第というところ。

 アルヴィスという青年のことは、ナイレンもそれなりに知っていた。学園は主席卒業、騎士団入団後一年ほどで近衛隊へ推薦され、当時は近衛隊の一般隊員だった。一般隊員ではあってもその実力は折り紙付きで、抜きん出た存在だったらしい。恐らくは、将来の隊長職候補だったのだろう。現近衛隊隊長であるルークにも目を掛けられていた。

 人格者としても悪くない。なら、彼に託してみるのもいい。そう決断したナイレン。当時の判断は間違っていなかったのだ。今のエリナの様子が何よりの証拠である。


「……その言葉、是非殿下にも伝えてやってほしい。あの子も喜ぶだろう。そして、エリナ嬢にも伝えてほしい。ありがとう、と」

「承知しました」

「今宵は祝いの席だ。我が子たちの幸せを共に祈るとしよう」

「えぇ」


 カン、とグラスを軽く触れ合わせて二人の父親は、笑い合った。


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