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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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閑話 学園からの祝福

 

 白塗りの馬車が遠ざかっていくのを見送ったアネットは、ふぅと深く息を吐いた。王家所有の馬車がこの学園前を通ったのはいつぶりだろうか。勿論、今のような豪華なものではない。あくまで移動用のものではあったが。


「漸くこの日を迎えることが出来ましたのう、アネット先生」

「はい……ほんとうに」

「王太子殿下が学園にいた頃を思えば、このような日が来るとは失礼ながら考えてもいませんでしたが」

「うふふ、そうですね」


 そう話すヴォーゲンは目元の皺を一層濃くした。今、ヴォーゲンの頭の中には学園在籍時のアルヴィスの姿があることだろう。アルヴィスは常に友人たちと共にいた。そこに女子学生の姿があることはほとんどない。ここまで女の姿がない貴族学生は珍しかったとヴォーゲンが語る。

 女性と二人でいるアルヴィスは、同級生であったアネットにも珍しく映っていた。今でこそ貴族社会から遠ざかっているアネットだが、学園在籍時は子爵令嬢としてそれなりにパーティーへ参加していたものだ。それは公爵子息だったアルヴィスも同じだろう。アネットより参加回数は多くなかったが、それなりに姿を見かけていたのだから。だが、アルヴィスが誰かを伴って参加したのはほとんどない。どうしてもパートナーが必要な場合、アルヴィスが伴うのは従妹リティーヌ王女。それ以外の女性を伴う姿を見かけないことから、一時期はリティーヌ王女と恋仲なのかと噂されたこともある。

 第一王女が嫁ぐには、アルヴィスは爵位が足りない。少なくとも伯爵位以上の身分が王女降嫁には必要だろう。だが、アルヴィスは次男である。アルヴィス自身が褒賞をもらえる何かを成したとしても、せいぜいが子爵止まり。たとえ王弟の息子だとしても例外はない。ゆえに、今だけの想い出作りをしているのではないかというように周囲も見ていた。尤も、この噂はアルヴィスが学園卒業後に騎士団へ入団したことで立ち消えてしまったのだが。

 それ以降、近衛隊所属後に数回パーティーで見かけることはあったが、隊服姿だった。稀にリティーヌ王女に頼まれてダンスをすることはあれど、他の令嬢と関わることは一切ない。そのアルヴィスが誰かと結婚をする。いや、結婚をしたという方が正しい。


「ベルフィアス様、エリナ嬢……とはもう呼べませんね」

「アネット先生?」

「不思議な気分です。当時、少なからず憧れていた方が教え子と結婚したのですから」

「……そうでしたか。まぁ、あの方に懸想していた学生は多いでしょうなぁ」

「はい。それはもう」


 憧れていた。そうもう過去の話だ。騎士だったアルヴィスならともかく、最早遠い存在となってしまった相手を慕うなど許されることではない。それに、アネットは気付いてしまった。エリナを見るアルヴィスの表情に。とても優し気に外へ手を振るエリナを見つめていたそれは、エリナがアルヴィスにとっての特別であることを示している。

 その視線を受けつつ馬車から手を振っていたエリナは、美しいとしか言いようがないほど綺麗だった。ウエディングドレスがというわけではない。無論、ウエディングドレスも素敵なものだったが、それ以上にエリナ自身に目を奪われた。とても良い表情で、それはもう幸せそうな微笑みをアネットたちに向けてくれていたのだ。


「エリナさん、そしてベルフィアス様も……どうかお幸せに」


 既に去った馬車の方へ向けてアネットは呟く。届いていなくてもいい。言わずにはいられなかった。どうか、これからの二人に幸ありますようにと。


「ふむ。……何か、伝言があれば伝えましょうかな?」

「え?」


 ヴォーゲンとて学園教師の一人でしかない。何を言っているのかと思ったところで、アネットはあることを思い出した。今宵の晩餐会のことだ。

 今夜は王城で披露宴が開かれる。参加するのは主に国内の貴族たちだが、中には来賓として国外からの人たちも来ていた。その中に呼ばれるというのは、名誉あることだ。そこへ、アルヴィスとエリナの恩師としてヴォーゲンが呼ばれていた。


「そうでした。今宵の晩餐会には、先生も呼ばれているのですよね?」

「この身では些か分不相応なようにも思えますが……両殿下にお会いできるのも最後となるかもしれんので、お呼びに応じようかと思った次第ですじゃ」


 学園関係者では、他に学園長も出席する。貴族出である学園長とは違い、ヴォーゲンは平民出身者。気後れしてしまうのも無理はないだろう。参加者はほぼ全員が貴族位を持つ人たち。その中に加わることは、かなりの重圧となる。


「挨拶程度にはなりますじゃろうが、一言くらいなら」

「それでは先生が何もお伝え出来ませんよ。それに……私なら大丈夫です。エリナさんの……いえ、妃殿下のご友人たちとともに祝電をお届けするつもりですから」


 一個人としては祝いの手紙を送るのも難しい学生もいる。ならば、学園名義で一緒に届けようと考えたのだ。このような話が出るのも、エリナの人柄によるものなのだろう。エリナが学園で築き上げてきた力、その結果でもある。この人望という力は、これからもエリナの力となるはずだ。


「それはそれは、とても頼もしいことですな」

「はい」




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