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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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17話

 

 大聖堂へ到着したアルヴィスは、馬車を降りた途端に届いた声に思わず振り返った。まだパレードまでは時間があるというのに、本当に多くの人たちが集まっている。アルヴィスの姿を認めた彼らから届けられるのは、祝福の言葉たちだ。

 途切れることなく聞こえるそれに対して、アルヴィスは笑みを浮かべて手をあげることで答えた。頭を下げることは王太子の立場では出来ないし、この状況では声も届かないだろう。彼らの声がアルヴィスまで届いているということを示すには、それくらいしかできない。


「アルヴィス様、行きましょう」

「あぁ」


 隣にいたエドワルドに声をかけられ、アルヴィスはその後ろを歩く。大聖堂の扉が開かれ中に入れば、既に準備は整っていた。本番を待つのみなのだが、その前にアルヴィスは控室へと出向く。中に入ると、更にその奥に扉が見えた。だが、その扉の前には侍女らが立っている。


「この先に行ける殿方は、殿下お一人でお願いします」

「エド」

「承知しました」


 視線だけを向けると、エドワルドは下がる。この先の部屋がどういった場所なのか。アルヴィスは勿論、エドワルドも知っている。付き添う必要はない。

 侍女が避けて扉が開かれると、アルヴィスはその中へと足を踏み入れた。


「お嬢様、殿下がいらっしゃいました」

「えぇ」


 部屋の中央にある椅子には、白いウエディングドレスに身を包んだ人物が座っている。アルヴィスからは後ろ姿しか見えないが、サラに声をかけられるとその場でゆっくりと立ち上がった。

 白いレースで作られたベールを被った花嫁姿のエリナ。いつも以上に洗練されたその姿に、アルヴィスは言葉に詰まった。


「おはようございます、アルヴィス様」

「……おはよう」


 いつものように微笑みながら挨拶をしてくるエリナに対して、アルヴィスは普段のように言葉を返すことが出来なかった。一瞬の間が空いたのだ。その一瞬の遅れにより、エリナの瞳が不安そうに揺れたのをアルヴィスはしっかりと見ていた。

 パーティーに出てもパートナーの女性を褒めるのは、貴族の嗜みとしては当たり前だ。アルヴィスとて普通にこなしてきたつもりである。少なくともこれまでは、言葉に困るようなことはなかった。しかし、目の前のエリナに対してはうまい言葉が浮かばない。

 息をゆっくりと吐いてから腰に手を当てると、アルヴィスは首を横に振る。何も言わないのは失礼だというのは理解していても、気の利いた言葉が出てこない。女性との付き合いが全くなかったわけではないにしても、経験が圧倒的に少ないのだ。それでも何かを言わなければと、心を落ち着かせてから口を開く。


「すまない……その、良く似合っている。綺麗だ……とても」

「あ、ありがとうございます」


 感想としては乏しい表現だと思うが、それ以外にアルヴィスには言い表せなかった。アルヴィスに声をかけられたエリナはそれでも、照れたように顔を赤くしながら笑ってくれている。不安が消えたなら良かったと、安堵の息を吐く。

 デザイン画として見てはいたものの、実際にこうして身に着けているのを見るとでは全く印象が違うものだ。エリナの紅い髪は白にとても映えていた。ふと、ドレスの刺繍に見覚えのある紋様を見つける。アルヴィスの手の甲に刻まれたものだ。


「この紋様……そうか、入れたのか」

「アルヴィス様はご存知なかったのですか?」

「いや、話は聞いていたが本当に入れるとは思わなかった。複雑な形だから難しいだろうと」


 実際には、きちんと刺繍がされている。これはルベリア王家への嫁入りという以上に、アルヴィスの元へという意味を持っているのだろう。そう考えると、アルヴィスの独占欲のようにも見えてしまう。ここまできて、エリナを手放すことなどあり得ないのだが、とアルヴィスは苦笑するしかなかった。


「殿下、そろそろお時間でございます」

「あぁ」


 大聖堂の女神の間。そこで国王たちを始めとする来賓たちが、アルヴィスとエリナが来るのを待っている。そっとアルヴィスがエリナへ左手を差し出せば、白い手袋をはめたエリナの右手が重なった。重なった手を腕へと触れさせれば、エリナが少しだけ力を入れてくる。


「緊張しているか?」

「はい、少しだけですが」


 アルヴィスとて緊張していないわけではない。大勢の貴族たちの前に出ること自体は問題ない。一年以上が経過しても、己が主役となる行事には未だ慣れないこともあるが、更にそれが結婚式という一大イベントだ。不思議な気分にもなるだろう。


「俺も同じだ」

「アルヴィス様も、ですか?」

「見えないか?」

「はい。いつもとお変わりないように見えました」


 エドワルド以外に悟られたことはないが、エリナにも悟られていなかったようだ。エリナも貴族令嬢として取り繕う場面は多いだろうが、アルヴィスもそれ以上に気を遣う場面には遭遇してきたと自負している。年下に見破られる様では、公爵家出身者としても夫君としても不甲斐なく映るだろう。尤も、そのようなことエリナは気にしないかもしれないが。


「ならば良かった」

「?」

「こっちの話だ。じゃあ、行こうかエリナ」

「はい、アルヴィス様」


 笑い合いながら二人は並ぶと、そのまま部屋を出て行った。




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