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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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9話

 

 ここに足を踏み入れるのは、三日ぶりだ。

 近衛隊詰所から程近い場所にある訓練場。安易に立ち入ることは出来ないので、入り口にいる管理官へ許可を申し出なければならない。通常、近衛隊以外が立ち入ることはないので、見学者等が来るときのために管理官が存在していた。

 いつものことだがぼんやりと座っているだけの管理官は、近づいてきているアルヴィスらには気が付いていない。


「失礼」

「ん?」


 半分ほど目を閉じた状態で、管理官がラクウェルへと視線を移した。ラクウェルだと認識すると、目を大きく見開く。


「なっ!? えっ? はっ?」

「中に入りたいが構わないか?」

「うぇ、は、はい、どうぞ!?」


 明らかに挙動不審な状態で、思わず頷いただけという風だが、ラクウェルは構わず中に入っていく。本来、名を記入する必要等もあるのだが、知っていながらも素通りするつもりのようだ。顔パスできるのは、事前に申請をしていた場合のみ。公爵であっても、変わらない。この場合、間違いなく咎を受けるのは管理官だ。


「父上、お待ち下さいっ」

「構わん。あれはただの怠慢だ」

「それは、そうかもしれませんが――――っ」

「ふむ、着いたか。私も来るのは久しぶりだな」


 程なくして目的地へと到着してしまった。

 広い空間には、近衛隊服を纏った者たちが剣を交わしている。相手はルーク。一人で何人もを相手しているようだ。隊長であるルークが行っている日常的な稽古の一つだった。

 ここに来なくなってまだ数日。それでも、目の前にある光景に焦がれている自分がいた。

 ラクウェルとアルヴィスの二人を見つけ、稽古を付けようと剣を上げたところで停止する。他の皆を制止させると、ルークは急いで駆け寄ってきた。


「ベルフィアス公爵閣下、それに……アルヴィス殿下も」

「邪魔をしてすまないな、ルーク。稽古中だったようだが?」

「はい。まだまだ皆精進せねばならないので」

「そうか……一つ頼みがあるのだが、聞いてくれるか?」

「閣下のご要望とあれば、何なりと」


 平民出身とは思えないほど、宮廷作法に馴染んでいるルーク。国王の信頼が厚いのだから、王弟からも信頼されているらしい。この二人のやり取りは初めて見るアルヴィスは、やり取りを聞きながらも久しぶりに訪れる訓練場へと視線を向けていた。

 そこへ、ポンと肩を叩かれる。


「ルーク、アルヴィスに稽古を付けてくれないか?」

「……父上」

「少しでも構わん。模擬剣はあるだろう?」

「ありますが……ですが、殿下は明日の」

「問題ない」


 ルークが言いたいのは明日に立太子の儀式を控えていることだ。その前に、万が一怪我でも負わせれば、責任を取ることは出来ない。しかし、ラクウェルは構わないと話す。


「アルヴィス……少しだけ遊んでくればいい」

「遊び、ですか……」

「お前にとっては、だ。傷などつけるなよ。私が兄上に怒られるからな」

「……わかりました。ルーク隊長、お願いします」

「はぁ……全く、仕方ありません。私的な場所ならともかく、公的な場所ではその口調はやめてくださいよ、で・ん・か」


 ルークから丁寧な口調で話されると、どこかむず痒い。それが当然のこと。了解したと、アルヴィスは頷いた。

 模擬剣を受け取り、中央でルークと相対する。実力はルークの方が上だ。手加減など必要ない。思いっきり振ったところで、怪我などしないだろう。

 剣を構えて、アルヴィスは息を吸って深く吐き出す。いつもの剣ではないのが残念だが、それ以上に剣を握れることに高揚感を得ていた。


「行きますっ」

「来い、アルヴィスっ」


 対峙すれば、ルークは軽い殺気を飛ばしてくる。集中し殺気をはね除けると、アルヴィスはルークの懐へと斬り込んだ。力を殺すように払い除けられたが、それも予想の範囲内。更に振りかぶって剣を降ろす。

 斬り結ぶこと数回、何度目かのつばぜり合いでルークは笑っていた。


「ちぃ、やっぱお前は強いな」


 認めるような発言にアルヴィスも口許が綻ぶのがわかった。

 そうして数十分に及ぶ稽古が終わると、ルークとの戦いを見ていた他の皆とも剣を交わすことになる。制止がないのをいいことに、アルヴィスは続けて剣を振り続けるのだった。



 様子を直ぐ側の観覧席から見ていたラクウェルの元へ、ルークがやってくる。多少の汗はあるものの、やはりルークの方が余裕があったようだ。


「閣下」

「ルーク、無理を言ってすまない」

「いえ……何となく、理由はわかりましたんで」

「そうか……あの子は、昔から素直じゃなくてね。常に引く立場だったのもあるんだろう。いざ、表に引っ張られると気の抜き方を忘れてしまったようだ」


 温かい視線を向けている先は、アルヴィスだ。ルークも合わせるように、中央で剣を交わしている様子を見守る。


「相当我慢をしていたんだろう。いや、我慢をしているつもりはないのかもしれない。こう在らねばならないというものに縛られているといった方がいいか」

「公務などが苦手ではないタイプだと思いますが……」

「そういうことじゃないんだ。我が子ながら、あの子は優秀だ。王としても申し分ない資質はある。だが、それはあの子が望んだものじゃない。だからこそ、こうして気を紛らわせることが必要なんだ」

「なるほど……まぁアルヴィスから、来させて欲しいとは言わないでしょうね」

「律儀だからね。公子ではなく王子となってしまった自分に、気を回して欲しくなかったんだろう」

「……では、閣下はこれからも機会を設けろと?」

「兄上にはわたしから伝える。私があの子にしてやれるのは、このくらいしかない」


 ルークは了承したと、騎士の礼をラクウェルに向け頭を下げた。






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