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イキモノツキモノ  作者: 源 蛍
第一章『虎と猿と犬と猪』
21/26

エピローグ『始まったばかり』

 ──友達が、いない。


 俺には友達がいない。ああ、そうだ。いないさ。いたことなんてないさ。分かってるよ分かってるつーの。いちいち言わなくていいんだよ。


「しかしだな浅川、友達がいないというのは少しばかりマズいかも知れん。社会に出て行く上で、コミュニケーション能力は必要不可欠となる。淫らな関係の友達だけでなく、もっと普通の……」


「なぁ渡辺先生、あんたは一体何をどう勘違いして、俺と鷹場をそんな関係だと思い込んでる?」


「え? 違うの?」


「いやだから何をどう勘違いしたらそうなるんだっつーんだよ」


 いつも通り、強引な渡辺に連れられ倉庫の整理中。本来は他の生徒がやる筈だったらしいんだが、「自分達がやる意味が分からない」と主張され、押し切られたらしい。

 だとしたら俺もそうしたいところだが、先生の絶望した顔を見て、流石に断れなかった。意外と打たれ弱いんだよなこの人。


「うーん、だがなぁ。私は鷹場純玲と付き合っているものだとばかり」


「安心しろ、この世であんたと鷹場だけは、恋愛対象になることはないからな」


「え? 私もなのか?」


「何で自分は違うと思った?」


「こんな魅力的なのに?」


「自分で言うかそれ?」


 渡辺の表情は見る見る暗くなって行き、しゅんとした様子で仕事に戻った。

 悪いが、あんたの強引さには非常に疲れてるんだ。あと、自慢をする度胸を張るのやめろ。デカいのは分かったから。


「……となると、エルの方か」


「手を止めんな。それと何がだ」


 いちいち手を止めて、こっちに振り返るな。進まねーだろ。今放課後なんだぞこのアホ。


「いや、浅川が次に仲がいいとしたら、エルかなと。鷹場と違いゴリ────優しいから、好きなんじゃ? って思ってな」


「今あんた鷹場のことなんて言おうとした?」


 言っておくがアレはゴリラなんて生易しいもんじゃないぞ。古代の霊長類、ギガントピテクスに相当する。

 身長も、一般的な女性より高いしな。百七十越えてるし。


「つーかな、エルとは確かに、鷹場の次に多く話すだろうよ。あんたを除けば。けどそれでも殆ど喋らないし、好きなんて……」


「え、じゃあ私か?」


「違ぇって言ってんだろ!?」


 アホ過ぎて素でキレた。何度も言わせんな、あんたと鷹場は御免だっつーんだよ。

 あんたに関しては、鷹場と違って友達ですらねぇんだよ!

 ……俺友達いたっぽい。鷹場がそう思って欲しいらしいから、アイツとは友達だ。怖ぇ友達。

 唯一の友達が古代生物かよ。言ったら殺されるなこれ。


「相変わらず冗談が通じない男だ。そんなんだから彼女も出来ないんだろう」


 ふぅ、と小馬鹿にした様子の渡辺。あー、面倒だなこの人本当に!


「悪いな、俺は冗談が通じないことで有名なんだ。因みに俺は、もう整理終わったぞ。帰っていいか?」


「鷹場は危険人物として。エルは海外から来たということで。浅川はつまらない男として、か」


「話をきーけーや」


「まぁ、()()()はお前達だけではないが」


「誰が問題児だ。何もしてないだろ」


「友達がいないのは問題だ」


「酷ぇこと言いやがる」


 世の中にどれだけ友達がいない奴がいると思ってんだ。舐めてんのかこの女。

 あと、俺は一応鷹場っていう友人がいる。一応いる。

 ……多分だが、くるわだって友達になれた筈だ。


「浅川、お前には色々と苦労をかけて済まないな。これからも頼む」


「おい、急に謝ったかと思えば、これからも苦労かける宣言だったのかよ」


「あと十ヶ月くらいか」


「卒業まで苦労かけるつもりかこのヤロウ」


「……まぁ、そうなるだろうな」


 苦笑する渡辺に違和感を覚え、軽く睨んでみる。


「何でだよ」


「お前は何かと、面倒事に巻き込まれる体質のようだからな。そこは、ちゃんと心配しているんだぞ?」


「けっ、面倒事増やしてるくせによくいうよ」


「それはそれ。これはこれだ」


「本当にろくでもないなあんた」


「まぁ、改めて。これからもよろしくな浅川。まだまだ、()()()()()()()だぞ」


 おい、三年目なのにまだスタート地点だっただと? この教師どうにかしてくれよ本当に。

 鷹場と合わせて、苦労すること間違いなしなんだが。


 ♣


 ──で、教室にくればコレだもんなぁ。


「今日寄り道して行かね? ドーナツ食おうぜドーナツ」「えー、ピラニアがいい」「私綺麗?」「あ、左三十五度に毛虫」

 ……相変わらず、ごちゃごちゃうるせぇクラスだ。何で静かにしていられないんだろうか。


「浅川くん。おつかれさま」


 背後から、少々カタコトな声が聞こえた。当然、エルだ。

 まぁ、このクラスで俺に声をかけるのは、コイツくらいだからな。悲しいことに。


「ありがとうエル。ちょっと聞いていいか? 放課後なのに何で殆ど全員残ってる?」


「わかんない」


「だよな、悪い」


 まぁ、どうせコイツら皆、ダラダラしてるだけだろう。たまにあるんだよな、先生達に怒られるまでは帰らないって事象が。

 それにしても、エルが段々慣れて来ているみたいでよかった。日本語で話しかけてくれるようになったしな。

 ──あれ?


「なぁ、鷹場来なかったか? ほら、前に銅像の前で会った時に一緒にいた後輩なんだが」


 今日は鷹場と待ち合わせしていた。俺が渡辺との用事を伝えたら、俺のクラスで待ってるって言ってた筈なんだけどな。

 エルは少し考え込むと、首を傾げて俺を見上げた。少しだけ、目が曇った感じなのが気になるところだ。


「そのこが、どうかしたの?」


「面倒なことに、一緒に帰りたがっててな。まぁアイツも唯一の友人が俺だろうし。見たか?」


「……うん、きたよ」


「……まさかビビって帰ってった?」


「──そうだね。()()()、もどってったかも」


 おいおいマジかよ。アイツそこまで臆病なのか。

 いやでもまぁ、先輩のクラスに居座るのも怖いよな。エル一人に逃げ出すような奴だし、仕方ないといえば仕方ないか。

 えーっと、メールはどうやって送るんだったか。


「ね、ねぇ」


 不安気な声に、振り向く。今のはエルとは反対側から聞こえた。

 俺の一つ、後ろの席。


「あの……」


 いつも人形と会話を続ける、俺にとって恐怖の対象である牛込まくらだった。

 初めて、マトモに喋ろうとしているのを見たかも知れない。つーか、三年間同じクラスなのに、声をかけられてのも初めてだ。


「えっと、牛込? なな、何だ?」


 俺も俺で、初めて会話するのだから緊張する。ましてコイツは……怖いから。

 牛込は、人形を手でニギニギしながら、あわあわと慌てている。話しかけておいて、ビビりまくるなよ。

 ──ていうかお前、何処見てる?


「あの、鷹場純玲ちゃん……だよね」


 俺ではなく、どっちかといえばエルのことを見ているような牛込は、不安を紛らわせるためか、人形を手で握り締める。潰れてんぞおい。

 そんなことより、鷹場のことで何か教えてくれるみたいだ。集中しろ俺。


「あの、子……は、多分、昇降口で待ってると思う……」


「本当か?」


「…………」


 俺が確認のため聞き返すと、牛込は何故か黙り、瞳を閉じた。

 そして数秒後に目を開き、小さく頷く。視線はやはり、エルに向いているようだが。


「うん、()()


「分かった、ありがとうな牛込。帰ってないことが知れてよかった。それじゃあ、二人ともまた明日な。早めに帰れよ」


「うん…………ごめんなさい」


 エルは頷き、牛込は返事をしてくれた──が、何故か間を空けて謝られた。いや、責めることなんて何もなかったんだが? やっぱりよく分からない奴だ。

 ただ、案外いい奴だったのも確かだな。普段があんなに狂気染みてるのにも、何か理由があったりするのかも知れない。


「……よ、遅くなって悪かったな。うちの担任、簡単にいえば『アホ』なもんで」


「知ってる。私も今朝、変なこと言われたから」


「変なこと?」


「うん。昼雅の何処が好きなのかって」


「……何て答えたお前」


「強いとこって」


「そこは『好きじゃない』って答えとけよ……」


 否定しなかったら、そういう関係だって思うじゃねーかあの変人教師は。鷹場じゃそこまで頭が回らないだろうし、仕方ないとは思うけど。


 なんか、すっかり定着してしまったな。鷹場を家に送るの。コイツが一緒に帰りたがらなければ、絶対にやらないのに。

 ……でも今日は、少し話したいこともあるしいいか。


「──名護くるわ、自首したみたいね」


 俺が話すつもりでいた話題を、鷹場が先に出した。


「……ああ、らしいな。今朝、くるわの担任から連絡が来たよ」


「私も。勇気あるわね、あの子」


「だな」


 くるわは猪の神の力を借りて、両親を亡き者にした。それはどうやったって覆らない事実だ。

 本人はそれを受け入れ、自ら、やってしまったこと全てを、打ち明けたらしい。中学生にしては、鷹場も言ったように勇気があると思う。


「いつまでかは分からないらしいけど、名護くるわとはもう会えないかも知れないわね」


「仕方ないだろ。くるわはそれくらいのことをして、自分で理解した上で自首したんだ。俺達も受け入れるしかない」


「あの子の猫耳エプロン姿、見れないの残念ね」


「……別に見たいわけじゃねーわ」


「へぇ、意外。ロリコンのくせに」


「ロリコンじゃねぇって言ってんだろこのバカ女! いい加減しつこいんだよ! 脳みそ入ってんのかテメェ!」


 誰も通っていないからと言って、過剰に怒鳴った。そして過ちに気づく。

 鷹場の目が、ギラりと光った。いや何で楽しそうなんだよ。


「そう言えば、忘れてたわね」


「永遠に忘れていてくれ」


「一括払い、まだだったの」


「無料で先延ばしにすることが可能です」


「私は、嫌だから」


「俺も嫌だ」


 無邪気な子供のように、真空を切り裂く鷹場の拳。弾丸のようなその正拳突きは、触れたら病院送りとなるだろう。

 因みに俺は三日間、くるわから受けた傷で入院した。


「──っと、やめろ鷹場。人が来た」


 角を曲がって来た三人の女子高生。真ん中でヘラヘラしている奴は、鷹場と近いくらいの身長だ。百七十あるかも知れない。

 ビクッとした鷹場は、必要以上に縮こまった。本当に臆病だなコイツ。


「マジでヒヤヒヤしたよー。謹慎解けたし、もう気をつけるけどさー」

「ヒヤヒヤしたのはこっちだって! もうやんないでね? 銅像割るなんて」

「やりたくてやったんじゃないってー」


 騒がしい三人組を目で追って、過ぎた時にようやく気がついた。


「あれ、うちの学校の生徒か」


「制服見て気づきなさいよ。アレ、私の同級生」


「銅像割ったって言ってたな」


「うん。あの真ん中の女子が、前に言った人」


「お前より強いかも知れないって女か」


 鷹場はコクンと頷いて、さっきのことが嘘だったみたいに大人しくなった。

 確かに、雰囲気はアレだが強そうなのは伝わった。ただ、鷹場ほどではなさそうだけどな。

 知らない奴だったけど。


「ま、今日はもう遅いしさっさと帰るぞ。鷹場」


「……うん、そうね。そうしよう」


「何か不安そうだな」


「ううん、全然」


 鷹場は俺の顔をチラッと見ると、何故か嬉しそうに、フッと笑みを浮かべた。


「昼雅がいるなら、全然不安じゃないわ」

1章完結です!

ありがとうございました!!

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