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イキモノツキモノ  作者: 源 蛍
第一章『虎と猿と犬と猪』
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12話『通り魔』

 カタカタカタカタ、カチカチカチカチ、パソコンを弄る音だけが耳に入る空間で、俺と鷹場は生気を失っていた。お互いが顔を見てそう言ったから間違いない。


「ダメだ、あの男の情報なんぞ全く出て来やしない。そもそも出て来たのか分かんねーけど」


 背もたれに思い切り寄りかかった。腰が痛いから一旦休憩しよう。

 俺の様子をチラリと見た鷹場も、お手上げとでも言うように椅子を引いた。


「あんたって実はバカなんじゃないの? 顔だけ知っていても、名前や実績が分からなきゃ調べようがないじゃない。強いかどうかも怪しいのに」


「ま、お前は何一つ知らないもんな。ただ、強いのは間違いない筈だ。神様はそういう奴に憑依しているから」


「蛾堂家明日流を見てから言いなさいよ」


 全く、と鷹場はまたパソコンに向き直った。思い切り先輩である蛾堂家を「弱い」と言って。

 でもアレだな、一理というよりは三理くらいはあるかも知れない。蛾堂家は一般人よりは確かに強いだろうけど、俺や鷹場の足元にも及ばなかったんだし。

 そも、あいつは大会にも出ていない。だとしたら、神様は肩書きだけで選んでるって可能性もなくはないな。

 大会入賞者を徹底的に調べるんじゃなくて、武術道場の関係者を見てみる方が早いかもな。


「……え? まだやるの?」


 俺が再びパソコンを立ち上げてたら、鷹場の不思議そうな声が聞こえた。頭がおかしい奴に向けるような声だ。


「おう、少し別の方法で探してみようかと思ってな。お前は疲れたろ? 休んでていいし、いっそ甘い物でも食べて来いよ」


「嫌よ。私もやるから教えなさい」


「何で嫌なんだよ! 疲れてる奴にやらせたかねーんだよどっか行け!」


「私は全然疲れてないわ。それより……」


「面倒くせぇ! お前面倒くせぇ!」


「聞きなさいよ! 私も今気づいたけど──」


 キーンコーンカーンコーン。

 ……と、休み時間終了の知らせを告げるチャイムが鳴って、俺と鷹場は静かに時計を見上げた。


「だから、聞けって言ったじゃない。もう時間ないって言おうとしたのよ」


「……悪かったよ」


 溜め息を溢す。何でだろうな、佐竹や鷹場はめちゃめちゃ出て来んのに、くるわとかあの男らしき人物が映った写真は一つも出て来ない。

 くるわは世界チャンピオンなんだろ? 鷹場から聞いた感じだと、過去最強クラスの女子中学生だった筈なのに。

 辞めたからって、そう簡単に抹消されないだろ。


「おお、浅川か。いいところに来てくれたな、少し頼みたいことがある」


 担任の渡辺が、宝箱でも発見したのかってくらい眼を輝かせて駆けて来た。結構汗かいてんなこの人。


「先生、荷物を持つことに関しては、先生と俺が一対三になるようにして運ぶという条件付きで。呑めないならお断りします」


「違う違うそうじゃない。私は今、急遽呼び出されてしまってな、これからホームルームだったんだが……。一応、メモしておいてあるから、これ読んで進めておいてくれ」


 渡辺から、テスト用紙を手渡された。何も書いていない裏面に、今日のホームルームについてが数行で記されていた。おい、分かるかアホ。

 もう少し詳しく説明してもらおうと思ってプリントから顔を上げたら、渡辺はいなくなっていた。


「頼んだぞ浅川! 今回は本当に緊急事態なんだ! 帰って来たら膝枕してあげるから、よろしく!」


「おい素直に要らねーぞ最後の! あんたの用事もホームルームについても全く分かんねーんだが⁉︎ それでも担任かおい!」


 俺の声が聞こえてないわけがない距離だったが、渡辺は少しも立ち止まらず振り返らずで去ってしまった。

 言っておくぞ、やたら胸に自信を持っている渡辺先生よ。

 俺は、クラスメイトの殆どから無視されてるような影の薄い生徒だぞ! 誰か話聞くと思ってんのか! エルくらいだわ聞くの!

 てか何話せばいいのか全然分かんねーんだが⁉︎


「あんた何やってんの?」


「お、鷹場いいところに。お前これ何をどうしたらいいと……」


 おっと、そういや鷹場はバカだった。訊いたところで時間の無駄なのはほぼ確実だな。


「何でもねー。ホームルームに遅れる前にさっさと教室戻れよ? 二年は二階だろ、何で一階に居るんだお前」


「何か訊くなら最後まで聞きなさいよ。私がここにいるのは、今から剣道部の道場に行くつもりだったから……」


「おい、堂々とサボろうとしてんじゃねーぞ」


「堂々としてないわよ、誰にも見つからずに慎重にしてたんたから」


「そういう問題じゃないんだよアホ。先輩に見つかってサボれると思うな? ほら教室行くぞ教室」


「髪の毛引っ張らないで!」


「長過ぎるから引っかかったんだよ!」


 何で膝裏までポニーテールで伸ばしてんだよ。解いたら何処まで行っちゃうんだよそれ。よく伸ばせたな。

 剣道やるには明らかに邪魔だと思うんだが。たまに絵で見かける、鷹場並みに髪が長いキャラクターは何の得があってそんなに伸ばすのか。

 髪の毛が長いのが好きな男が好き、とかか? それとも単純に伸ばしたかったとか? いずれにせよ限度ってもんがある。洗髪面倒だろうし知らない内に汚れてそうで俺は好きじゃない。

 世の長髪フェチ? だ、って方々には悪いが。


「浅川くん」


「お、エル」


「ひっ」


 背後から呼ばれて振り返ったら、綺麗な金髪が視界に入った。エルのものだった。

 鷹場、お前いくら人見知りだからって先輩見て「ひっ」はねぇだろ。流石に失礼だわ。


「そういや昨日のことで訊きたいことが有ったんだけど、後にするか。お前まで何で教室に戻っていないんだ」


「浅川くんのこと手伝えって、センセが」


「あー、偶然会った的な……」


 うんうん頷いて、納得した風を出す。でも実際、今のが答えになっていないことくらい簡単に分かる。

 俺はさ、「何で教室に戻っていないのか」を訊ねたんだ。「何でここに?」とは言ってないんだよな、エル。

 日本語はまだそんな慣れてないだろうし、仕方ないけど。


「それより、エルが手伝ってくれるなら心強いな。普段喋ってるとこ見ないしそこは不安だが。……あれ? 鷹場何処行った?」


「あのコ、走ってった」


「ほぉ」


 まさか、エルから逃げたのかあいつ。意外だな、あいつの性格考えれば逃げるは恥って意地でも残りそうなのに。それほどまでにエルが苦手か?

 俺からしたらエルはクラスで一番好印象だ。俺を無視しないし。


「わたし、まだ日本語苦手で、こわくて……間違えるの」


「お? あ、ああ。気にしなくていいと思うぞ、仕方ない仕方ない」


 一瞬何の話かと思ったが、最後まで聞いてさっき俺が言ったことに対するものだったと察した。

 外国人にいきなり日本語使えなんて言っても無理難題だ。逆に、知識のない日本人に他国の言語を用いて話せなどと指示を出しても、無理に決まっている。

 だから一ミリも気にする必要なんてない。と、俺は思ってる。


「ききたいことって」

 

「ヤベ、チャイム鳴ったから行こうエル。質問は後でするから。遅れたくないだろ?」


 俺は鷹場のようにサボろうとは思えない。それで内申に響いたら面倒臭い。親父が。

 下手をすれば「鍛錬が足りん!」とか意味の分からないことを言って鍛えさせてくるかも知れない。

 それは絶対に嫌だからな。不要な叱言をもらうつもりはない。


「えーっと、今からホームルームを始めたいと思うんですが……」


 教室は案の定ぐちゃぐちゃのごちゃごちゃ。クラスメイト達は好き勝手出歩いて好き放題騒いでいた。渡辺がいなきゃこんなもんか。

 そんで、俺の話を聞いてる奴なんて一人もいない。


「なぁエル、これどうする……?」


「……」


 さっきまで普通に話していたくせに、エルは首を振るジェスチャーのみを返してきた。

 空気な俺と日本語慣れしていないエルでは、この状況を打破することはほぼ不可能だ。俺がバカみたいに一発ギャグでもやって注目を浴びれば変わるんだろうが。

 正直、普段から筋トレバカだの何だの陰で言われている俺がそんなことしたら、更に居場所がなくなってしまう。

 弁当食うのも別の場所なのに、授業中存在しているだけで変な視線を向けられるとか想像しただけで足が震える。


「仕方ない……エル、渡辺先生には悪いがこのメモ教卓に置いて席に着こう」


 俺としてはサボりたい気分なのだが、ついさっきサボらないと決めてしまったので諦めよう。授業も残っているしな。


「フカフカ、ベッドデ……一緒ニ、寝ヨ?」


 席に着く前に悪寒がして、背後の席をこっそり見た。一番後ろの席、苦手な奴がいるんだよなぁ。


「ビクビク、シテ、ドウシタノ……? ワタシモ、キミモ、ミンナ、トモダチ」


「……」


 唾を飲み込んで視線を前に向ける。怖え、マジで怖え。

 因みに後ろの席のそいつは、一時も人形を手放すことがないと有名な女だ。授業中は無言になる上気配まで消えるが、普段は今のように人形に話しかけている。

 大抵最後に「ミンナ、トモダチ」って言うところが一番恐ろしい。コンクリートを素手で破壊する鷹場よりよほど。

 詳しい話は聞いたことないが何か障害でも持っているんだろうと、勝手に解釈してる。そうであってほしい。


「──ん⁉︎」


「……えっ」


 俺と、背後の……ああ、名前は『牛込まくら』だ。そいつが同時に声を出した。

 牛込は何に反応したのか知らないが、俺は今、尋常でない殺気を感じ取ったからだ。

 黒板の方。そこに立っているのは、エルだけだ。


「あれ……? 変だな」


 気配は一瞬にして消えた。周りの騒いでる連中は微塵も気に留めていない様子だが、何だったんだ今の。

 まるで、憑き者からの視線のようだった。


「……」


「ドキドキ、シタネ? ダイジョーブ、ミンナトモダチ」


 エルは無言で席に着き、次の授業の準備を始める。んで後ろの奴は、いつも通りに戻った。

 いいよ、もう。俺が何か考えたとこで訳分かんねーし。憑き者のことだけに集中しよう。

 ──あと勉強も。


 ♣︎


「急いで親御さんに連絡しろ! 一年の○○だ! まずは彼でいい! 一人じゃないんだから急げ!」


 ──校内が騒がしくなったのは、放課後を目前にした時間だった。廊下を駆ける音が聞こえる。

 簡単に授業は放棄され、担当の先生も生徒達も皆、廊下を覗き出した。

 何があったのか気になるし、俺も見てみようか。


「せんせーどうしたの? 授業中にうるさいんだけどー」


「何だお前ら……! 授業に戻れ!」


 気怠そうな生徒に向かって、渡辺が興奮気味に怒鳴った。直ぐに駆け出して、一番端の教室に入って行った。

 何だか胸騒ぎがするが、授業に戻れと言われてしまったし、後にするか。


 程なくして静かになり、俺達も放課後に突入した。渡辺は何も答えないし、ムズムズするな。


「昼雅」


「おう、鷹場。今日は面倒くさいしやる気も失せたし帰ろーぜ」


「それ、さっきの騒ぎででしょ?」


 ま、それしかないし分かるか。ついでに言えば、不思議な殺気も原因なんだが。

 萎縮したって言えば、分かりやすいのか?

 鷹場は俺の進路を塞ぐようにして仁王立ちし、顎をクイっと上げた。


「ついて来て。誰にも見つからないように、慎重に行くわよ」


「……は?」


 何も分からないまま、特に隠れようともしていない鷹場の後をついて行く。校舎から出たらようやく、キョロキョロ周りを確認して進み出した。


「校内で不審な動きをするわけにはいかないでしょ。こっち!」


「急に⁉︎ ちょっと待てお前!」


 突如走り出した鷹場を追う。あいつ足早いなおい。

 数分走って辿り着いたのは、建物の隙間から入れる路地裏だった。何だか、血の匂いを感じるんだが。


「ここで、五人の男子高校生が滅多打ちにされた。骨が折れるほどの重症だったらしいわ」


「いきなり何だ。んで、どうやって知った」


 鷹場が何の話しをしているのかは分かっている。今日の騒ぎについてだろう。

 でもこいつも授業中だった筈だ。その情報はどうして手に入れたのか。


「サボるって言ったじゃない」


「マジでサボったのかよ」


「そしたら先生達の話し声が聞こえて、大まかなことは理解したつもり」


 この場所で男子生徒が滅多打ちにされてたって話を教師達はしていたのか? だとしたら、何にだよ。暴れた跡も見られないし、瞬殺だった筈だ。

 鷹場が首を振って、犯人は不明なのだと悟った。

 男子高校生が狙われた……って、まさか?


「なぁ鷹場、中学生も小さい女にやられたって言ってたよな。今回ほど、残酷なことはされていないが」


「ええ。あの生意気な雑魚でしょ?」


「言い方考えろお前は。俺らと比べてやんなや」


「で、その時の犯人と全く同じ……って考えてるのね」


「……おう、八割そうだって確信してる」


 次々と、男子学生が被害に遭っている。これは同一犯の可能性が極めて高い。

 それと俺は────


 尋常でない程の強さを持った、憑き者の仕業だと考える。

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