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第三話 戦備

私の首には首輪が付いている。契約の首輪と言われるらしい。リンツウによると私とゴブリンの契約の証だそうだ。契約の内容は「天下を静謐にする事」、契約が履行されれば首輪は自然と消えるという。逆に逃げようとすると首輪が締まる。私はゴブリンから逃げられなくなった。

「これじゃ、私はゴブリンのポチじゃない」

キノフジに文句を言う。

「ポチってなんですか?」

キノフジには通じない。真面目に説明するのもバカらしくなった。

「いい事が全くないって事」

「いい事ならありますよ。その首輪のおかげで、乃菜様の運は凄く良くなっているですよ」

「運が良くなっている……」

この世界に召喚されてしまう程、運が悪いのに、多少、運が良くなっても焼け石に水のように思える。

「ええ、そういう言伝えです」

「言伝え……」

どうやら不確かな話らしい。

「はい。言伝えです」

キノフジは明るく微笑んだ。


 とにかく、この国を戦争に強くしないと、私の命が危ない。私は、主だった者を集め、まずリザードマンやケンタウロスの事について聞いた。

「リザードマンはトカゲの顔を持っていてカツエと同じぐらいの大きさです」

リンツウが言う。

「武器は持ちませんが、固く、鋭い爪を持っていて、敵を引き裂いてしまいます」

カツエがリンツウの言葉の後を引き継いだ。

「ケンタウロスは?」

私は尋ねる。

「ケンタウロスは上半身が人で、下半身が馬でございます。カツエよりひとまわり大きく、私たちと同じく石斧を使ます」

カツエが答えた。

「人と馬のキメラね。数はどれくらい?」

「ケンタウロスは、おそらく三千の兵を動員できます。リザードマンの事は詳しくはわかりませんが、おそらくその数倍は動員できるでしょう」

 戦闘型ゴブリンの数は五百ほど。戦力になるとは思えない小さなゴブリン全部を合わせても五千ほどしかいない。まともに戦ってとても勝てる相手ではない。

「とても勝てる気がしないですけど……」

私は正直に感想をもらす。

「リザードマンは、周りにあるドラゴン国や鬼人国とも勢力争いをしておりますので、まだ、すぐには攻め込んでは来ないでしょう。どうか、その間に乃菜様のお力で、打開策を考えて頂きたく……」

リンツウとカツエが頭を下げる。

「そのドラゴン国や鬼人国と同盟を結んで戦うのはどう?」

と、私は提案したが、

「私達のような弱小国は相手にしてもらえません」

リンツウは頭を振った。

 絶望的な状況だが、援軍を頼めないのなら、地の利を利用するしかない。

 リザードマンが攻めてくれば、おそらく黒曜石を取ったケンタウロス国境にある川が戦場になるだろう。その場所の視察も行った。

 次に、槍を沢山作った。斧より間合いが長く、敵を遠くから攻撃できる。さらに、集団で戦うには、薙刀より槍が便利だ。それに、薙刀を使うのは、私だけにしておいた方が、特別感があっていい。

 それに弓も作った。戦闘型でない普通のゴブリンにも戦ってもらわなければならない。身体が小さく、力もない普通のゴブリンは、敵から離れて攻撃できる弓がいい。

 初めてキノフジに弓を渡した時、キノフジは大変喜んだ。

「これで、私達、魔導士型も戦えますね。さすが、乃菜様です」

私はキノフジの言葉に驚いた。

「魔導士型? 魔導士! 魔導士なの貴女! 貴女、魔法が使えるの?」

「えっ。使えますよ。リンツウ様が乃菜様を召喚したじゃないですか。最も、召喚魔法は、かなり修行しないと使えないんですけどね」

魔法が使えて当たり前のように言う。

「早く言ってよ。召喚以外にどんな魔法が使えるの?」

私は尋ねた。

「ヌルヌルの魔法が使えます。これは、私達、魔導士型は、みんな使えるんですよ。戦闘型は使えないんですけどね」

自慢のようだ。

「ヌルヌルの魔法? それってどんな魔法?」

「お見せしましょう」

そう言って、傍に置いてある土器を持ち上げた。土器を胸のあたりに持っていき、何か呪文を唱えている。そうしている内に、何か苦しそうな顔になってきた。

「大丈夫? 気分が悪いんじゃないの?」

私は心配して尋ねた。

「大丈夫です」

キノフジはそう言うが、どう見ても苦しそうだ。しばらくして、キノフジは、とうとう嘔吐してしまった。吐瀉物を土器で受け止めている。

「これです。ヌルヌルは」

そう言って、吐瀉物を私に見せる。

「それって、ただ、ゲロを吐き出しただけじゃないの」

「違います。呪文で口の中にヌルヌルが溢れて来るんです」

動物が出す粘液みたいなものだろうか? とても魔法とは思えない。

「で、それってどう使うの?」

「これで体を洗うんです。すごく綺麗になりますよ。髪の毛も洗えます。乃菜様もどうですか?」

「ありがとう。でも、私はいいわ」

ゲロで身体を洗う気にはとてもなれない。

「雨の日に使えないが、ちょっと不便なんですけどね」

「どうして、使えないの?」

「使うと石になってしまうらしいんです。そういう言伝えで、詳しいことは分からないんですけどね。乃菜様どうですか?」

まだ、しつこく勧めてくる。

「ありがとう。ところで、他の魔法はないの?」

これ以上、ゲロの話をしたくないので、話題を変えた。

「うーん。ありません」

弓で戦ってもらうしかないみたいだ。


 さらに、回復薬の増産にも着手した。リンツウがカツエに使った回復薬の木は一本しかなかったのだ。

「この回復の木には悲しい言伝えがあります」

リンツウが言う。

「言伝えね―」

ゴブリン国は言伝えばかり沢山ある。

「はい。昔、不死なる人がゴブリン国に流れてきました。そして、不死なる人はゴブリンの娘と出会い、愛し合ったのですが、娘は病に冒され亡くなってしまいます。それを悲しんだ不死なる人は神様に死を賜る事を願いました。神様は、その願いをお聞き届けになり、不死なる人の命を奪われました。そして、不死なる人とその愛する女性を葬った場所から回復の木が生えてきたという事です」

「ふーん」

嘘くさい話だと思った。

「ですから、回復の木は世界中でこの一本しかないのです」

リンツウが続けた。嘘くさい言伝えが元だから、本当に一本しかないのか怪しいものだ。でも、黙っておく。

「回復薬はどの様にして作るの?」

「回復の木の実を磨り潰して作ります」

「それなら、実から種を取れば増やせるわね」

「残念ながら、種はできません。回復の木は増やせないのです」

「うーん。困ったわね……」

戦いに勝つために沢山の回復薬が欲しい。

「あっ、そうだ! 挿し木で増やしましょう」

我ながらいい考えを思いついた。

「乃菜様。挿し木と何ですか」

リンツウが不安そうに問う。

「新しい枝を切って、土に挿し込むのよ」

「ええっ。回復の木の枝を切るのですか!」

リンツウは目を回した。

 それから、私は畑を作り、黒曜石のナイフで切り取った回復の木の枝を十本 畑に挿した。リンツウは心配そうにずっとその枝を眺めている。私も上手く根付いてくれるか少し心配だったが、素晴らしい生命力で、挿し木をした十本すべてが根付いてくれた。

 回復の木の畑には、食料となる植物も植えた。今までは森から野草を採取して、食料にしていたが、上手くいけば、もっと食生活が向上するはずだ。それに油を取るための油草も作付けした。

 槍隊のリーダーにカツエを、弓隊のリーダーにリンツウを任命し、訓練に励ました。畑の責任者はキノフジだ。それぞれの進捗状況を見て回るが私の日課になった。


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