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第二十一話 不死

ヘイゲンのお陰で、どうにかゴーレムを倒し、ドライアドを退ける事ができた。

「ヘイゲン。助かったわ。ありがとう」

私はヘイゲンに礼を言った。

「間に合って、何よりでした。ケンタウロス国は秀光殿とドワーフの方々に救われましたので、ご恩をお返し出来ました」

そう言いながら、ヘイゲンは辺りを見回す。

「秀光殿は、やはり行方不明のままですか……」

「ええ。でも、おじさんの事だから、何処かで楽しくやっていると思うわ」

「きっと、そうですね。そうだと思います」

ヘイゲンは軽く微笑んだ。

「それよりデンシンの方はどう。ケンタウロス国は大丈夫なの?」

私は尋ねた。

「デンシンは両眼を失い、もう戦う事はできません。おそらく、代替わりをするでしょう」

「代替わり……。心臓を食べるっていう あれ?」

ドラゴンは国王が死んだり、戦闘不能になったりすると、他のドラゴンが国王に群がり、最初に心臓を食べた者が、次の国王になる。

「そうです。おそらく次の国王が大きくなるまで半年ぐらいはかかるでしょう」

 半年。それが秀光が私達に作ってくれた猶予だ。


 私達がドライアドに勝ち、ヘイゲンがデンシンを退けた事は、リショウとギリュウに衝撃を与えた。

「リショウ様。乃菜は、いずれ大天使国に攻め込んで参りますぞ」

ギリュウが訴える。

「乃菜の討伐令を出すよう進言したのはギリュウ、そなたではないか。直ぐに乃菜の元に出向き謝って参れ」

「リショウ様。乃菜はそんなに甘い女子(おなご)ではございません」

「許してくれぬというのか」

「御意」

「では、アンデッド国に援軍を頼むか?」

ギリュウはリショウの言葉に首を振って答える。

「この大天使国は守るに難しい地でございます。ひとまず、アンデッド国にお身を移され、時を待つのが上策かと考えまする」

「この大天使国を捨てよ。と申すか」

「いずれデンシンの代替わりが起こり、誰かが国王に就きましょう。それまでの辛抱でございます」

「嫌じゃ。私は嫌じゃぞ。やっと大天使になったばかりでないか」

「聞き分けられませ!」

怒るリショウにギリュウも声を荒げる。

「嫌じゃ―!」

リショウはまるで駄々っ子の様だ。

「それではリショウ様はここに残られませ。私はアンデッド国に向かいます」

そう言うと、ギリュウは部屋を出ていった。

 大天使国の兵力はギリュウを慕って付いて来たドーワフの僅かな兵が主力である。以前は強力な攻撃力を持っていた天使達は、長い年月の間に貴族化してしまい。とても戦力にならない。

「待て。ギリュウ。私も行く」

慌てて、リショウもギリュウの後を追った。

 私達はリショウとギリュウが居なくなった大天使国に入り、労せずして、大天使国は私達が治める国となった。


 ドライアド国のエイキュウは、降伏した後は、思いの外 協力的で、ゴーレムの動かし方なども包み隠さず教えてくれた。

「ゴーレムを動かすには、頭の上に こうような呪文を血で書きます」

 驚くベき事に、それはゴブリンの魔導書に載っているものと全く同じだった。

「これってリンツウのと一緒よね」

私はリンツウの顔を見る。

「はい。その様です」

リンツウは緊張した面差しで私の顔を見返す。

「やってごらんなさいよ」

私の命令に、リンツウは明らかに嫌そうな顔をする。

「乃菜様。私には無理です」

「そんなの やってみないと分からないでしょ」

そう言って、無理やりリンツウに試させてみたが、ゴーレムは動かなかった。

「すみません」

リンツウは下を向いてしまった。

「ゴーレムを動かすのは、元々 女性が向いています。お気を落とさずに……」

ショウキュウがリンツウを慰めている。その言葉に私は引っ掛かった。

「ゴーレムを動かすのは、女の方が向いているの?」

「はい。男性でゴーレムを動かせた者は数える程しか居りません」

ショウキュウが答える。

 それならば……。

「キノフジ。貴女が挑戦しなさい」

私はキノフジに命令した。

「ええっ。リンツウ様で駄目なのに……」

キノフジが尻込みする。

「やりなさい」

私が再び言うと、キノフジは渋々 動き出した。ゴーレムの頭の上に血で呪文を書き、リンツウに教えてもらった呪文を唱える。

 そうするとゴーレムが動き始めたのだ。動かしているキノフジ本人も含めて その場の全員が驚いている。

「キノフジ。ゴーレムを立ち上がらせて」

「はい」

キノフジが念じるとゴーレムは立ち上がった。

「キノフジ。ゴーレムを前に」

「後ろ」

私の言葉の通り、キノフジはゴーレムを動かした。

「キノフジ。凄いじゃない」

「えへへ」

私の言葉にキノフジは照れている。

「私も引退時かもしれないなあ」

リンツウはすっかり自信を無くし、それをカツエが慰めていた。

 その後、他ののゴブリン達にも挑戦させたが、ゴーレムを動かせたのはキノフジただ一人だった。

 とにかく、私達は一体のゴーレムを手に入れた。これは強力な武器になる。

 

 あと半年の内にアンデッド国を攻略しなけれならない。しかし、死ぬ事のない戦士が治める国をどう攻めればよいのか? よい考えが浮かばなかった。

「私達にも回復薬がありますから、そう簡単には死にませんよね。不死対不死の戦いです」

キノフジは例によって楽観的だ。

 考えていても埒が明かないので、軍議の結果、アンデッド国の最前線の砦を攻める事となった。前線の砦には、できるだけ回復薬を集めた。不死には不死で対抗しなければならない。

 アンデッドの前線の砦は三千の兵で守られている。リショウに同情的なドライアドを前線に連れて行くのは不安があるため、コブリン、ドワーフ、ケンタロスの三国の兵で砦を攻める。

 私達が砦の前に陣を敷くと、アンデッド達は砦を守らず、私達の陣に攻め込んで来た。手には剣、防具は全く着けていない。私達の陣に向かって駆け込んでくる。

 密集して突入して来るアンデッドに対して、鉄砲隊が射撃した。銃弾は先頭のアンデッドに全弾命中し、アンデッドは仰向けに倒れるが、しばらくすると再び立ち上がり向かってくる。

 続けて、アンデッドに対して火矢を射かけた。弓矢はアンデッドに刺さり、メラメラと炎を上げているが、平気な顔でそれを引き抜き、また走り出す。

 弓隊は後ろに引き、キノフジが動かすゴーレムが前に出る。ゴーレムはその大きな足で踏み付けるが、何度踏みつけられても再び起き上がってきた。

 それを見て、ゴブリン槍隊、ドワーフ歩兵隊、ケンタロス隊がアンデッドの群れに突っ込んでいく。 

 ゴブリンがアンデッドの心臓を突き、ドワーフがアンデッドの腕を切り落とし、ケンタロスがアンデッドの首を刎ねても、アンデッドは死なない。

 切り落とされた腕や首を拾い、元あった場所に戻すと傷口はあっという間に繋がった。

 いくら倒しても起き上がってくるアンデッドに兵士達の疲れが見えてきている。私は仕方なく撤退命令を出した。

 アンデッドは砦の近くまでは、追撃して来たが、それ以上は不思議と攻めて来なかった。


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