おじさんが焦る
また久々に投稿しました
もし、読んでくださっている方がいたら遅くて申し訳ありません
別に走らなくても問題は無いのだが
沙都美の視線が有る気がして足早に地下鉄の入口の方に向かう
『良い匂いがする』と沙都美に言われたがアラフォーの自分としてはやはり気になる
駅構内のドラッグストアに寄り、汗拭きシートとスプレーを買って地下鉄に乗り込んだ
比較的空いていたが漫喫で寝て疲れが取れてない割には、興奮状態からか眠気は来ず
落ち着きなくドアの近くにもたれ掛かりながら立っていた
大学生かと思われる女子2人の会話が聞こえて来る
「この前の合コンの男達、顔はそこそこだったけどヤル事しか考えて無かったよね」
「でも、智くんカッコよかったよ」
「顔は良いんだけどさぁ、遊んでそうじゃない」
「そうかなぁ、実は智くんとあの夜から連絡取ってるんだ」
「えっ⁉︎智、、、くん、、私にしか連絡して無いって言ってたよ」
「えっ⁇ミクにも連絡してるの?」
そこから2人はやや険悪な空気になりながら会話が続いている
『亜紗美くんも去年まではあんな感じだったんだろうなあ』
そう亜紗美の事を勝手に解釈しながら乗り換えの駅で降りる
昨夜の計算ぽい感じと
お酒を飲んだ後、勢いで行動していると自分が思い込んでいるだけなのだが
彼女が純粋に自分を好きだとは全く思えないのだ
目的の駅に着き時計を見る
『少し早いな』
目の前にファミレスが有るが気分も財布もそこには向かない
少し先にある小さな商業施設で15分くらい時間を潰す事にした
大きな階段を登りお店に入るでも無く
外から洋服や家具を眺める
同級生のほとんどは結婚して家族がいる
離婚を経験した友人や再婚を経験した友人もいる
自分はまだ結婚どころかここ10年弱は恋愛という物から逃げてきた節がある
『いや、恋愛に縁が無かったんだ』
お局様や新人の視線は例え好意的であっても
自信の無い彼には感じ取る事は出来ないし
そもそも彼は恋愛する気すら無かったのだろう
若い時に何が有ったのかは誰にも話していない
時間が近くなり取引先の会社に向かう
小さなビルだが自社ビルで5階まで有る
玄関を開けて、正面に有る電話で社長に会う約束がある旨を告げる
中から50代と思われるガタイの良いお姉さまが出て来て社長室へと案内される
「いい香りですね」
お姉様からいい香りがして自分が身体を拭いていない事を思い出し、思わず口に出てしまった
「そう?お気に入りの香水なの。久しぶりに付けたんだけどアナタが初めて感想を言ってくれたわ。有難う。」
思わず口から出た言葉が相手に好意的に受け取って貰えて安心する
「アナタもいい匂いがするわよ」
えっ?自分は昨夜はシャワーすら浴びずシャツも同じモノを着ているのだが、、、。
後で解る事なのだが、勇輝の髪の毛に付けているWaxが自然な香りで周りは良い匂いと感じでいるらしい。美容院で買う少し高めのWaxに感謝だ
社長室の前に着き中に入るように促される
そして何故か先程の女性も一緒に室内に入り奥のソファーに座った
社長に深々と挨拶をして様子を伺うがあまりこちらを見ず、落ち着かない雰囲気だ
女性に座るように促されるが、社長が座っていないのに座れるわけも無く、、、変な空気が流れる
「早く触りなさい」
自分が言われたのかと思い
ビクッとなったが
どうやら社長に言っている感じで
何故か社長とここで初めて視線が合う
「いや、よく来てくれたね」
何故か社長は狼狽えている
「アナタにはここ数ヶ月迷惑を掛けたわね、全く話が進まなかったでしょ」
「はい。僕の提案が社長のご期待に添えず」
「違うのよ、、、提案の問題じゃ無いのよ」
「えっ?」
「この人は別の会社から銀座で接待して貰える約束をしていたらしく、アナタの提案が他社より良くて困っていたのよ」
「えっ?」
「何とか断りたいけど、理由が見つからずに冷たくしていたのよ。。。ほんと情けないったら」
勇輝は何も喋る事が出来ずただ立ったまま固まっている
「兎に角座りなさい」
「「はい」」
社長と同時に返事をしながらソファーに対面に座る
「アナタの資料は見させて貰ったわ。内容はアレで結構です。あと、次回の仕事も今回のお詫びとしてお願いさせて貰うわ」
「金額や詳細の件なのですが、、、」
新しい資料を出そうとすると
「1番初めの金額でいいわ。詳細は読ませて貰った内容でほぼ大丈夫」
「本当に宜しいのでしょうか?」
社長にも話しかけてみるが、目は泳いでいて女性の機嫌を伺っている
「私が良いって言ってるんだから良いわよね」
「はい。ごめんなさい」
社長は身体を固めながら返事をしている
ここで少し冷静になった勇輝はやっと女性が奥様なのかもと考え出す
「アナタ、気配りが出来そうね。今後も宜しくね」
そう言って今までと空気は変わり早く帰れとばかりの様子になる
「君、お詫びにお昼をご馳走しようか?」
社長が一緒に外に出たいとばかりに話しかけて来る
これまでの社長と自分の事を考えると一緒にご飯を食べる仲では全く無いのだが
「何を言ってるの、まだ別の女の話も有るのよ。この食事代の領収書は誰と行ったのかしら?」
「し、、失礼します」
慌てて部屋を駆け出て扉を閉める
廊下で数人の若い従業員がこちらを見てビックリした後に笑っている
そのうちの2人が
「いつもの事ですよ」
「ウチは奥様の力でやっていけている会社ですから」
可愛い笑顔を浮かべながら従業員達に見送られ外に出る
『契約が進みそうなのはいいが、、、次のアポはどうしたらいいんだ?』
あまりに早く終わってしまった外出
金欠でどこにも寄れないが、このまま帰るのも癪に触るのでコンビニのイートインスペースでパンを齧りながらコーヒー牛乳を飲む
「なんか、、、天気がいいなぁ」
あまりの衝撃に
昨夜の事などすっかり忘れて
出掛けの事など何も無かったかのように
会社に戻って行く
しかし、ビルの入口で
ふと
ちゃんと
確実に
思い出してしまう
『はぁ、沙都美くんの事、そして亜紗美くんの事、、、どうしよう』
無情にもエレベータはスグに来てフロアへと確実に着実に運んでくれる
恐る恐る部屋に入ると
真っ先に自分を見つけた上司が
「おい!先方から連絡が有ったぞ」
全く違う事を考えていたのだが
「お前と仕事がしたいって、今回の仕事は来週には契約に話を進めたいらしい」「他にも依頼したい仕事が有るそうだぞ」「やったな!」
矢継ぎ早に喋る上司
周りも自分もただただ話を聞いていた、誰かが何か言おうとしたが
「おい、専務のところに行くぞ」
と、戻ってデスクにも付いてない自分を一つ上のフロアの専務の部屋へと引っ張って行く
『ああ、恒例の《自分の部下が》《自分の管理の元》仕事を取ってきましたアピールに巻き込まれるんだな』
しかしまあ、上司だけの手柄にしないところがまだマシなところだと思っている
そう思いながら部屋から出れた事を感謝していた