全力の若者
低価格の居酒屋は週末では無いが、若者で盛り上がっていた。
亜紗美は昨夜よりも飲むペースが早い気がする。
先ほどの告白の返事はまだ求められて無いが、少し酔っている。
『さっきのは無かった事になるかな』
と、不可能な事を思いながら亜紗美の話を聞いていた。
すると突然
「沙都美さんは絶対に勇輝さんの事を好きですよ。昨夜も私、まだやる事が有るのに強引に誘われましたもん。」
「まあ、誘われた時に沙都美さん1人で行かせる訳にはいかないと思ったんですけどね」
「沙都美さん仕事中によく勇輝さんの事を見てますよ」
ちなみに疑問に思われてる方の為に、勇輝とはおじさん《自分》の事だ
女子の直感を信じない訳では無いが、自分がモテる事などもっと信じれない。
なので、軽く相槌を打ちながら聞き流していた。
亜紗美はまだ次のお酒を頼んでいた。
『明日は誘われても断ろう』
と、心と財布に決めながら携帯の時計に目を落とした。
「もうすぐ終電だよ」
少し目のすわっている亜紗美に視線を戻し帰ろうと促してみる
「まだ、返事を聞いてないので帰れません」
突然、先ほどの告白をぶり返してきた
『そうですよねぇ〜』
と、考えながら
「酔ってるしね。今度ちゃんと答えるよ」
はぐらかす様にすると
「さっき、後でと言われました。答えて下さい」
『ですね』
もう、追い詰められている。
『断られる事とか考えて無いのかな』
若い子の心理は全く理解出来ずどう断るか考えていた。
「私、断られても諦めませんからね。勇輝さんが独身なのが悪いんです。独身で彼女がいない人相手に諦められる訳ないじゃ無いですか」
『どれだけハートが強いんだ』
こちらの思考が読めているのか、完全に亜紗美のペースになっていく。
「私、さっきは凄い勇気を振り絞って告白したんですけど」
「やっぱり、もっと若い、、、」
「その答えはさっき聞きました。年齢云々ではなく。私が付き合いたいのは、、、」
「ちょっと声が大きいよ」
アルコールに弱くほぼ飲めない自分は周りの視線が気になる。
「私には興味が無いって事ですか?」
「そういう訳では無くて、僕に魅力が無いんだよ」
「私は魅力を感じています」
周りに視線を移すと視線こそ無いが、耳がこちらを向いている気がする。そして、さっきまでよりお店が静かに感じる。
どうして良いかわからず、言葉に詰まっていると
「沙都美さんの方が好みなんですか?」
「えっ⁇」
「沙都美さんの事が好きなんですか?」
「えッ?違う違う。なんで沙都美くんの話が?誰がどうとか関係無いよ。」
もう完全に翻弄されている。
「他に好きな人いるんですか?」
「いないいない。ただの寂しい中年だよ。」
40前ですがね。
「寂しいんですか?」
「まあ、毎日暗い部屋に帰ってるからね。君も一人暮らしじゃなかった?部屋暗いと、、、ねえ」
「じゃあ、私がその寂しさを癒します。取り敢えず付き合って下さい。その先は後で考えましょう。」
「ちょっと待って。そんな、、、」
「待ちません。次のお休みは取り敢えずデートです。映画に行きましょう。予定有りますか?」
「無いです。。。。でもね、ちょっと待って、、、」
「待ちません。このままじゃ今日は帰しませんよ」
「いや、明日は取引先に行かなきゃで寝不足はちょっと」
「では、諦めて下さい」
もう、何も言い返す事も出来ずに黙って居ると。
「あっ!私の終電終わってる。私が帰れませんね。どうしたら良いかなぁ〜。」
視線はおじさんの目に向けられた。