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Mousse chocolat framboise 〜 おじさんのお話 〜  作者: カフェと吟遊詩人
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金曜の夜

家を出ると沙都美はすぐに手を繋いで来た


おじさんはその手を強くて握り返し、駅へゆっくりと歩く


改札を通りホームに向かう


「じゃあ、先に電車に乗りますね」


そう言って


電車に乗り込もうとする沙都美の手を引き


「もう少し一緒に居たいから、一緒に次の電車に乗ろう」


おじさんは手を握ったままそう告げた


驚いた顔を沙都美はしたが


すぐに笑顔になり


「一緒に居たいんですか、嬉しい」


と、腕を絡めて身を寄せた


周りは少し邪魔そうな顔をして通り過ぎて行くが


実際にはそんなに気にしている人はいない





2人で電車に乗り込み会社は向かう


会社に近づくにつれ


混んでいった


たわいの無い話をしながら電車に揺られている


しかし、おじさんは1人の人間の会話を避けていた


駅に着き


2人は並んで会社に向かって歩き出す


さすがに手はつないで居ないが


距離はいつもより近い感じがした





「おはようございます」


会社に着くと亜紗美が既にいた


2人が一緒に出社している姿を見て少し表情が固くなったが努めて冷静に話しかけて来た


「体調は回復しましたか?」


「ああ、心配してくれて有難う。帰ってからすぐに寝たから、、、たぶん10時間以上寝たんじゃ無いかなぁ。お陰様で大分元気になったよ」


「よかったです!」


「私がご飯を作ったから」



突然に沙都美が亜紗美だけに聞こえるように言った


おじさんはビックリした顔で沙都美を見る


亜紗美の表情からは何も読み取れない


女性同士の何か駆け引きなのだろうか


「そうですか、それは良かったですね勇輝さん」


「あ、ああ、、、」


それ以上は独特の空気の中で何も言えなかった


正直、沙都美が何を考えているのかすら解らなかった


それぞれ机に向かい仕事の準備を始める


沙都美は凄く仕事が多いらしく


すぐに仕事をはじめていた


おじさんはメールを開き確認をしていく


仕事で仕方ないとはいえ


柳沢からのメールも来ている


《先日の件は内緒でお願いします。それで例の資料の事なんですが、社長からのオッケーが出たので進めて頂きたいと思います、、、、》


そっとメールを閉じ他の仕事を始めた


今回の仕事、そして次の仕事を上手くこなすと


多分おじさんは年齢的に昇進するだろう


と、いうか今までそんなに真面目に仕事をしてこなかったせいで未だに主任だ


当人は出世など望んでおらず


今まで通りのらりくらりとやって行くつもりだったが


そんな仕事に対する姿勢も


環境の変化か今回の取引先の対応の影響か


仕事自体が少し楽しく感じている


会社も今回の仕事でな利益もまあまあ大きく


おじさんに全面的に任せると先方が言って来ているので


完全におじさんの仕事の成果と評価されている


友人の紹介で入社して以来


大した成果も上げず


それでいて大きなミスもなく


仕事をこなし


誰の迷惑にもならず


誰の妬みも受けない


そんな存在としてやって来たが


最近の周りのおじさんに対する評価は変わって来ている


今まで、定年まで主任止まりと言われていたおじさんだが


今年中に係長にはなるだろうと言われている


このまま先方と太いパイプを作り


もう一山上げれば課長も見えてくる


今の周りの評価はそんな感じだ




数日後、、、、の金曜日





仕事がひと段落してお昼が近づくと


沙都美にメールをした


《昨日は有難う、お陰様で元気になったよ。お礼に今夜ご飯はどう?》


すぐに返信は無さそうなのでパソコンを見ながら考え事をした






今日も貴則と外周りだ


1番疲れるのはお昼の時間だ


今日は可愛いイタリアンのお店らしい


本当に行く先々でオシャレで安いお店を見つけるのが上手だと思う


貴則は今日も自分がいかに仕事が出来て、カッコよくくいい男であるかを亜紗美に熱く語っている


そして、喋りながらでもそつなく綺麗に食べている


その食べるスピードに必死について行きながら


話も聞くという作業を毎日頑張ってこなしている


「亜紗美、お前今夜は空いてるだろ」


「あのですね。菊池さんが可哀想じゃ無いですか」


「アイツには今夜はお前と出掛けると伝えている」


「頭おかしいんですか?」


「は?なんでた。お前先輩になんて事言うんだ」


「先輩でもこれは言わせて貰います。彼女に女の人と出掛けるって言うのは変だと思いませんか?」


「別れていいともう言っている。アイツがまだ別れたく無いと言っているだけだ」


「それってまだ別れて無いですよね。それで私を口説いているって失礼じゃ無いですか?」


「じゃあ、今別れるってメールするよ」


「そう言う事を言っているんじゃ無くて、、、はぁーデリカシーの無い人ですね」


「おい、お前失礼だそ」


「女性に対する貴則さんの行動の方が失礼です」


「まあいいや、取り敢えず今夜は空けとけ。いい店が有るんだ」


「まあ良くありません。いいお店?菊池さんと行って下さい。。。もしかして既に菊池さんと行った事があるお店に誘ってますか?デリカシー無いですもんね。私は行きません」


「じゃあ、また来週な。しょうがない今日はアイツと行くか」


「はあ、、、本当にデリカシー無いですね」






お昼休み公園で2人でお弁当を食べる


沙都美はよく喋っている


それをおじさんは黙って聞いている


いつもよりよく話すのは


最近の2人の距離が近付いているからかも知れない


弁当を食べ終わり


2人で会社に戻ろうと歩きだした


「、、、あの、、、今夜誘って頂いたんですけど。高校のお友達と約束が有って、、、、食事は無理なんですけど、、、、終わってから家に行って良いですか?」


心の中に何かを感じながら


「、、、、そうなの。無理して来なくても大丈夫だよ。友達と遊んでて早く帰らなきゃと考えながら遊ぶのは楽しく無いでしょ」


「有難うございます。でも、会いたいので家に行かせて貰います」


そう言って今にも腕を組みそうな沙都美の笑顔は眩しかった


それに対し、おじさんの笑顔はぎこちないもので有った






就業時間になり


沙都美は約束が有るからと早めに会社を出て行った


努めて気にしない様にしていたが


柳沢にメールをしてしまった


《ディナーの約束はして貰えましたか?》


しばらくして返信が有った


《今から行ってきます。張り切ってまあまあ高い店を選びました。さすがにホテルのレストランだと警戒されちゃいますからそれは止めておきました》


《頑張って下さい》


それだけ送っておじさんは力尽きた


画面を見ているが


手は動いておらず


全く仕事は進まなくなった


周りの人達が帰る挨拶をしていたが、何となく返事をしていたが


周りから見たら感じが悪かっただろう


気付けば20時前になっていた


前の席に亜紗美が座っていた


こちらが気付くと話しかけて来た


「大丈夫ですか?まだ体調が悪いみたいですね」


「いや、そんな事は無いよ。考え事をしてしまって」


「軽く食事して帰りませんか?」


さすがに沙都美がダメだから亜紗美とと言うわけにも行かず


「今日は家で大人しくしておくよ」


と、応えた


「、、、、私、勇輝さんのそういう所も好きですよ」


「え?」


「沙都美さんが居ない時に私と2人は避けようとする所です。彼女だとそれは嬉しいですよね」


「そうかな?そうなのかな。。。そういう訳でも無いんだけどね」


「そうですよ」


そんな事を話しながら帰る準備を始めた






家に着くと


出来る限り違う事を考えようと


YouTubeやSNSを見て眠くなるのを待っていた


『今夜、必ず来るとも限らない。連絡すらなかったら、その時は諦めよう』


そんな覚悟を心に持ちながら


何も見ていない


何かが動いている画面を見つめていた

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