心の痛み
《今日、仕事が終わったらちょっといいかな?》
おじさんから突然来たメールは嬉しいお誘いだった
しかし違和感を感じる
こちらから連絡もしてないのに
おじさんからメールが来る事は初めてだった
『何か話が有るって事よね』
心の中の何かを固く結んで
貴則との仕事に向かい合う
心の半分は
今夜の事を考えてしまうのだが、、、。
亜紗美にメールを送り終わったおじさんは
涼しいはずの部屋でやや汗をかいていた
『どう話し出せばいいのかな。まだ何もきまってないのに。でも、ちゃんとしていかなきゃ前に進めないしな』
仕事をしながら亜紗美の居ない亜紗美の席の方を見ないように今夜の事を考えていた
沙都美が隣にやって来て資料を差し出す
「勇輝さん、大丈夫ですか?なんか顔が強張ってますよ。。。心配です」
「そう?大丈夫だよ。ちょっと考え事をしていただけだから」
おじさんは実は昔から「心配です」や「大丈夫ですか」と言われる事が嫌いだ
おじさんの性格に問題が有るだけなんだろうが
「心配です」という言葉が「私は心配してるんですよ。良い子でしょ」と言っているように解釈してしまう
「大丈夫?」と聞かれると「大丈夫かと思っているなら言葉でなくそっと手を差し伸べて欲しい」と思ってしまう
要するに
人に期待し過ぎなのだろう
その人達が発するその言葉達にそこまでの意味は無いのに
余計な事を考えてしまう
「心配です」と言った子には「有難う」と言っておけばそれだけでコミニケーションの一つとして成り立ってしまうのに
おじさんは
心配な人がいた時は
そっと飲み物を用意してあげたり
何が困っているか必死になって様子をみる
大丈夫かな?と思った時は
黙って手伝ったり
周りの子がその子が困っている事を気付くように動く
心を閉ざし、言葉を上手く使えなくなってしまったおじさんは言葉を発するよりも
何かをしたいと思ってしまう
しかし、実際は
話を聞いてくれるだけで大抵の人は満たされるのだ
おじさんの行為は時として面倒臭さがられる事も有った
沙都美としばらく話して方針を決めると
沙都美は席に戻り
おじさんは上司に報告に向かった
沙都美は亜紗美とおじさんの朝からの雰囲気に違和感を感じていた
『2人で何か有ったのかな?もしかして私以上に距離が近くなってるのかな?』
不安で仕方なくおじさんの席に向かい質問と報告をした
何か雰囲気が違うので「心配」と伝えた
しかし、おじさんからは何も伝えられなかった
『聞きたい、何を考えているのか。聞きたい、今後私とどうしたいのか』
しかし、大好きな人には良い子で居たいと思ってしまう
困らせる質問をする事さえ
嫌われるかもと怖い
沙都美は不安で堪らなくなった
気になって気になって仕方がない
その気持ちを振り切る為に仕事をフル回転で頑張った
柳沢から
《もう一つの案件の資料がまとまって来ました。お二人にお送りさせて頂きます》
ファイルが添付されたメールがおじさんと私に届いていた
『もう一つの案件?そんなものも有るんだ』
とくに聞かさせていなかった内容をファイルを開いて確認をする
今やっている仕事と同規模位の案件だ
『これ、いつまでなんだろう。2人でこなせる量なのかな?』
おじさんの方をチラりと見てみたが
まだメールを見てもいないだろう
取り敢えず、柳沢宛に
確認した旨の返信をしておいた
定時が過ぎ、おじさんは慌てて仕事を終わらせようとしている
「勇輝さん、何か手伝いますか?」
「いや、大丈夫。あとは1人で出来るから」
沙都美は不安かさらに増した
「手伝いますよ。一緒に帰りましょ」
「いやいやいやいや、大丈夫だから。」
「なんか、、、あやしいです」
沙都美は我慢出来ずに言ってしまった
『だめだ、重い女と思われてしまう』
「あやしい、、、そうか。。。じゃあ、明日一緒に帰ろう。一緒にどこか寄っても良いし」
「本当ですか?勇輝さんから誘って貰えるのは本当に嬉しいです!逃しませんからね」
「逃げないよ」
苦笑いしながら仕事に戻る
『早く終わらせないと亜紗美君を待たせてしまう』
沙都美はそんな姿のおじさんを感情の無い目で一瞬見て
「お先に失礼します」
と、笑顔と明るい声でその背中に言った
実際に女の人の勘は凄い物がある
沙都美の中の疑念は何一つ消えた訳では無い
ただ、明日の約束で納得して帰るだけだ
本当はおじさんが終わるのを待っていたいが
明日の約束を持ち出したという事は
今日は帰って欲しいと言う事だろう
沙都美はゆっくりとした足取りで駅に向かって歩き出した
外周りから戻り
報告書を慌てて作成して
おじさんの方を見る
まだもう少しかかりそうだ
『明日の資料も出来るところまでやっておこう』
そうするとおじさんからメールが来た
《こっちはいつでも切り上げるから
亜紗美君の都合のいいタイミングでお願いします》
何か嫌な感じのするメールだ
外に出て駅と反対方向に有るカフェに向かった
既におじさんは席に座っている
飲み物を注文して受け取りカウンターで暖かい飲み物を受け取った
席に向かって歩き
「お待たせしました」
そう声を掛けて
こちらを見たおじさんの顔は
いままで見た中で
初めて見る
苦しそうな顔をしていた
亜紗美の鼓動は周りに聞こえるかと思うほど激しく脈打つ
「ごめん、話が有るんだ」
そう言ったおじさんは
既に胸の辺りを服の上から軽く握り
言葉を振り絞って声を出していた




