2話 グリーン・キャタピラー
あれから半日ぐらいたったのだろうか。
とりあえず、飛び方の基礎は完全に習得したけど、ここは地下っぽいし、外に出ないとこれ以上の技術向上はできないと思う。
自分の姿を水溜りで確認してみて、一つ言えることがある。
【暗視】のLvが上がったのもそうだが、もっと衝撃的なことに気づいた。外見の事だ。
俺、めっちゃ可愛い。
自惚れではなく、割とまじの話だ。
元の世界の蝙蝠と違って、この世界の蝙蝠は比べ物にならないぐらいキュートだと思った。
つぶらな瞳、少し斜めに傾いている耳、小さなお口。うん、可愛い。
成長するうちに、その可愛さがなくならないかが心配だけど。
まぁ、可愛いがかっこいいに変わるのが一番の憧れだが。
あと、スキルについてなんだけど、【超音波Lv1】が気になったから、使ってみたけど、何にも起こらない。
強いて言うと、視力が少しだけ良くなった気がする。
うーん、このスキルはよくわからん。
俺の今は亡き母親のように相手をひるませる、いや、ぶっ飛ばすことができるって思ってたんだけどな……
というか、正直そんな話、今はどうでもいいと思えるぐらい、空腹感に襲われている。
やばい、そろそろ何か食べないと……
とりあえず、地下迷宮みたいなここを飛び回って、俺の初めてのご飯を探そう。
☆★☆
何時間か飛び続け、広けていて、植物もそこそこ生えている、そんなよくわからない場所に出てしまったが、どうやら色んなモンスターが生息する所までたどり着けたらしい。
疲れたー。ここまで来るのに結構かかってしまった。
いや、まじで迷宮かよ……別れ道が十以上あったところもあったし。
願わくば、また同じような状況にならないことだ。
さて、上からいろいろ物色していこう。
背びれが滅茶苦茶大きいトカゲに、岩のような固そうな皮を持った兎、角が様々な色で煌めいている鹿などなど……
結構小さなモンスターもいるからどれにするかが迷う。
そして、いろいろ物色していると、丁度いい獲物を見つけた。
緑色の芋虫みたいなのでサイズは小さめ。
全身に黒い波紋の模様がついていて、目は小さく、黒色で五個付いていた。
気持ち悪い見た目である。
外見はそうだが肝心な中身は……?
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種族名:グリーン・キャタピラー
状態:正常
Lv:3/20
HP:12/12
MP:8/8
攻撃力:1
防御力:5
魔法力:3
素早さ:2
ランク:F
〖固有スキル〗
【軟体Lv--】
〖耐性スキル〗
【空腹耐性Lv1】
〖通常スキル〗
【方向感覚Lv2】 【白糸Lv2】
〖称号スキル〗
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中身も見た目通り、弱いな。
俺よりはLvが高いが、これといった戦闘能力はないし、動きも鈍い。
よし、こいつに決定だな。
ここはまず、死角から奇襲を仕掛けて、一気に終わらせる戦法でいこう。
俺は音を立てないように、静かに高度を下げながら、緑の芋虫の背後に回る。
そして、一気にスピードを出し、緑の芋虫に噛みつく。
しかし、緑の芋虫は苦しい無ぶりも見せずに体を左右に激しく振り、俺を振り落とす。
噛んでみて、妙に柔らかいと思ったが、スキルのせいか……
緑の芋虫は【軟体Lv--】というスキルを持っていた。
恐らく、名前の通り、体がかなり柔らかいんだろうな。それに、俺の牙はそこまで鋭くない(生まれたばかりだからか、元々こういう種族なのかはわからないが)。よってこんなことになったのだろう。
厄介なスキルだな……それに、俺には攻撃系のスキルがない。分が悪いな。
だが、俺は諦めない。一度決めたことはやりきる派だからな。
緑の芋虫と正面で向き合う。
さて、どうするか……
相手は耐久性に優れるが、攻撃に関しては俺の方が上だ。
ここは仕掛けるタイミングを見極めて……
そう思った時だった。
芋虫の口から、白色の糸が吹き出し、俺の顔にまとわりつく。
くそっ、やられた。
丁度視界が塞がれて、ほぼ周りが見えない。
このままじゃやられる。どうする!?
あ、そうか、【超音波Lv1】があった。
もしかしたら……
俺は【超音波Lv1】を使った。
すると、視界を奪っていた糸が消えたように、元の視界が戻った。
やはりな。
蝙蝠って、元々目が悪く、超音波を出して、音の反響で周りを把握していたはずだ。
それは、この世界でも変わらなかったようだ。
そして、そのまま突進してきた緑の芋虫の頭部を噛み砕いた。
体は軟体でも、粘膜はそうもいかないみたいだな。
俺の勝ちだ。
<経験値を獲得しました。>
<称号スキル【奪略者Lv--】の効果で更に経験値を獲得しました。>
<【レッサーブラックバット】のLvが1から5に上がりました。>
<Lvが上限に達しました。>
<進化条件を満たしました。>
<固有スキル【超音波Lv1】が【超音波Lv2】へLvが上がりました。>
<称号スキル【奪略者Lv--】の効果で、【方向感覚Lv1】を獲得しました。>
うっ、苦っ!
急いで口の中にある緑の芋虫の頭部の肉などを吐き出す。
いや、ちょっと待て、こんなに不味いなんて思ってなかった、おえ。
いくら不味いと言っても身はうまいかもしれない。それにさっきので食欲が失せたわけではない。
心の準備を整えて、いざ!
緑の芋虫の中央の部分を噛み千切り、肉を食す。
なんだろ、この味は……
不味くはないけど、うまくもないような。
微妙に苦みが柔らかい肉の旨みとぶつかり合い、相殺している。
しかし、俺の食欲が満たされても、何か胸に穴でも開いてるような感じがする。
前世での食生活がいかに贅沢で幸せだったかがわかった気がする。
ヨーグルトが恋しい……
酸味と甘みが絶妙に混ざり合い、あの見事なハーモニーをもう一度、味わいたい!
まぁ、叶わない夢だとわかっているのだが。