1話 蝙蝠としての目覚め
ん?
眠っていた俺の意識は突然、眠りから覚める。
ここはどこだ?
何か、暖かくて、ぬめぬめした物に包まれているような気がする。
その時だった。周りにある何かがが急に蠢き、よいしょ、よいしょと、俺を移動させているような……
すると、上の方から急に冷たい空気が俺の頭に当たる。
うわ、冷た! なにこれ?
やがて、俺の全身が、冷たい空気に包まれた。
目をゆっくり開くと、黒いハムスターに大きな耳が生えた顔が、大きく映し出される。
えっ!? 蝙蝠!? は?
あまりのインパクトに混乱したその時だった。
「シャーッ!」
蛇の鳴き声みたいな声が聞こえる。
それも、目の前の蝙蝠の後ろ側から。
ぬゆりと、緑色の蛇は姿を現す。
蝙蝠もそれに気づいたようで、後ろを振り返り、蛇と対峙する。
だが、蛇の視線は目の前の蝙蝠ではなく、俺を見定めていた。
いまいち状況がわからないが、これ、完全に俺を狙ってるよな……
蛇は俺に飛び掛かろうとするが、蝙蝠はとても聞いてられない、圧力がかかった声を上げ、蛇を後方に飛ばした。
蝙蝠の超音波って、こんなに威力あったっけ? というか、こういう使い方だっけ?
蛇の隙を逃さず、蝙蝠は蛇に噛みつく。
苦しそうにしながらも、蛇は蝙蝠に巻き付き、締め付ける。
蝙蝠はあまりの痛みに耐えられなかってのかと、蛇に噛みついた口を離した。
おい、蝙蝠やばいんじゃ……
蝙蝠の体はメキメキと、痛々しい音を立てるが、最後の力を振り絞るように、蛇の首を嚙み千切った。
断面から鮮血が吹き上がり、蝙蝠を縛っていた体は一気に力が抜け、解放された蝙蝠もぐったりとしていた。
☆★☆
蝙蝠と蛇の死闘からしばらくして、俺はあの場所が危険だと感じ、這いつくばいながら必死に移動し、あの場から離れた。
よし、状況を整理しよう。
俺は屋上から落下死したはずだ。
それが、なんでこんな地下迷宮みたいな場所にいるんだ?
それに、あのいきなり現れた蝙蝠は、蛇から俺のことを命懸けで守ってくれた。
それも気になる。
俺はあんな蝙蝠は知らないぞ……?
ということは……
俺は自分の体を見る。
それはまさに、蝙蝠のそれだった。
ま じ か。
認めざる負えない事実に、俺の思考回路はショート寸前である。
俺は、蝙蝠になった。
だとすると、さっき俺を守ってくれた蝙蝠は、俺の母親だと思う。
……母さん、短い間だったけど、俺を守ってくれてありがとう。
さて、気を取り直して、これからどうやって生きよう。
つーか、蝙蝠って一応哺乳類だし、母親がいない俺は、どうやってご飯たべればいいんだ?
普通に狩りをして、食べるしかないと思うが……
その前に、蝙蝠なんだし、飛べるようにしないとだな。
両手は翼になってるわけだし、まずは飛べるようにしよう。
天井は地面からかなり離れているし、ここで試してみても大丈夫だな。
バサバサ、と音を立てながら両腕を上下に振る。
お?少し体が浮いたぞ。
もっと大きく、速く振ってみる。
すると、足が完全に地面から離れ、体がどんどん上昇する。
やったぞ!ついに飛べ――
体がどんどん上昇していったせいで、頭が天井にぶつかり、その衝撃で、翼の動きが乱れ、落ちてしまった。
いてっ!
冷たい地面の感触が、体越しに伝わる。
その時、突然頭の中に無機質な声が響いた。
<耐性スキル【落下耐性Lv1】を獲得しました。>
誰だ?
周りを見渡しても、誰もいない。
そんな中、再び無機質な声が脳内に響く。
<当スキル【天の声】でございます。>
スキル?何のことを言ってるんだ?
<スキルとは、その者の技能、特技、異能、技などを指します。スキルの一覧を見るにはステータスを開いてください。>
すると、俺の脳内にゲームのような画面が映し出される。
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種族名:レッサーブラックバット
状態:正常
Lv:1/5
HP:5/5
MP:3/3
攻撃力:2
防御力:2
魔法力:1
素早さ:7
ランク:F
〖固有スキル〗
【暗視Lv1】 【超音波Lv1】
【天の声Lv1】
〖耐性スキル〗
【落下耐性Lv1】
〖通常スキル〗
【ステータス閲覧Lv1】
〖称号スキル〗
【奪略者Lv--】 【始祖の血を継ぐ者Lv--】
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えーと、RPGは結構やってるからステータスぐらいわかるんだけど、【天の声】さん? 説明お願いしてもよろしいでしょうか?
<承りました。それでは当スキルから説明させていただきます。当スキルは主にスキル、種族、アイテム等などを説明するスキルです。また、ステータスの変化などをお知らせすることもあります。>
なるほど、鑑定系のスキルか……
せっかくだから、俺の種族についても聞いてみよう。
【天の声】さん、お願いします。
<承りました。>
<【レッサーブラックバット】 ランクF>
<一般的な弱い蝙蝠モンスター。>
<【ブラックバット】の劣化種。>
<その弱さから、独自の変化を遂げており、産まれ建ての幼体も普通に牙が生えており、母乳を摂取せずとも生きていける。>
おい!弱い弱い連呼されてんじゃねぇか、俺の種族!
しかも劣化種って、めっちゃ傷ついたわ!
よし、決めた。
絶対強くなってこんな説明覆してやるからな!
ふぅ、落ち着いたところで……
ゲーム感半端ない世界に転生しちゃったよ、俺。