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桑月さんちの四番目 裏のおうちは、お寺さん

やっと更新できました! お話の中は、まだ冬です・・・すみません(汗

茶の間にある柱時計がポーンと鳴った。


「ああ、もうこんな時間ですね。お隣にご挨拶に行かないと・・・」


この時計は、随分前からあるものだが祖母たちのモノだったので、父の魔改造は免れていた。

でなければ、今頃好き放題されて、元の形も解らないところまでいっていたことであろう・・・。

祖母が鉄拳制裁というか力づくのおかげ、なんとか生き残ったウチの中では数少ない普通の時計だ。


自爆ボタンが装備された目覚まし時計とか文字盤が飛び出て走り回る時計とか・・・イラナイ。

フツーに時間を真面目に刻んでくれる時計が欲しいんですよ、父さん!


「ちょっとお隣さんにご挨拶に行ってきますね。その後、商店街に寄って買い物してきますが、何か要りますか?」


「んー、大陸間弾道ミサイル迎撃システム用のー・・・「商店街に売っていないものは、却下です!」」


「・・・はい」


我が家にミサイル迎撃システムはいりませんから! 

作るならお外でやっていらっしゃい!と、父さんにはきっちりと言ってから健斗の小さい時の赤いチェックのポンチョをゆーたんに着せかけて抱っこします。


うちと背中合わせにあるお宅は、この地域に古くからあるお寺さんだ。

樹齢の長い樹々も多く、周囲を生垣で囲んでいる事もあり、周囲からうちをすっぽり隠してくれるようになっている。


父曰く、「秘密基地みたいで、カッコいい!」のだそうですが、自宅が秘密基地って・・・うちの父は地球征服でも企んでいるんじゃないかと心配になります。


・・・まあ、考えても仕方がないので、父の事は放置しましょう。


何かあったら、家からたたき出すまでです。


弟たちが罪に問われるような事が無いようにするのが兄としての責務ですからね。




「こんにちは、桑月です」

「あら、いらっしゃい、タロ兄ちゃん。珍しいわねぇ」


玄関先で声をかけると、奥から住職の奥さんが出て来てくれる。

そうえいば、最近こちらにおすそ分けなどでお邪魔するのは、お使いなどは健斗にお願いをしているので、自分でこちらへくるのは久しぶりです。


「ご無沙汰していて、すみません。」

「うふふ、いいのよ。来てくれて嬉しいわ。ささ、上がって頂戴。ウチの人もお務めが終わって、そろそろこちらに戻ってくる頃だから」

奥さんは、そう言って笑顔であがるように言ってくれる。


通されたのは、お寺の方ではなく家族で使うプライベートのお茶の間だ。

みんなが座れる大きな座卓は住職の趣味で、柔らかな色合いの座布団カバーは、奥様の趣味。

部屋の中はストーブが炊かれて、その部屋の住人の性格そのままの温かさがある。


「おお、裏のお兄ちゃん、いらっしゃい!」

奥さんがお茶を淹れてくれている間にバタバタと体格のいい住職がお茶の間に駆け込んでくる。

お務めが終わり、一目散に母屋に戻って来たらしい。うん、結構寒いのですよね、本堂って。


「お邪魔しています。今日は、ウチの四番目とご挨拶にきたんです」

ぴったりと横にくっついて顔を伏せている悠太を、そっと宥めるように背中や腕の撫でていく。


「おや、可愛い子だね。いらっしゃい、お寺のじーちゃんだよ。いつでもお寺に遊びにいらっしゃい」

住職が、優しい声と笑顔で話しかけてくれる。


その声を聴いて、そっと顔をあげるゆーたん。

ちょっと目を見張っているのが解る。

・・・つるつるの頭が気になるんですね? でも、見すぎるのはよくないですよ。ええ、気になるのは解るんですが。


ゆーたんが居たのは、女性の多いお社だったし、まず、男の人が珍しいらしい。

その上、剃髪している僧侶を観るのは、生まれて初めてだろう。


・・・えっと、ご住職が剃髪しているのか、毛根が出家してしまったのかについては、ノーコメントで。


「ゆーたん、ご挨拶できますか?」

そういうと、ゆーたんは、コックリと頷いて声は出せなくても、住職と奥さんへ向かって、ぺこりと丁寧に頭を下げた。


その姿をみながら、住職さんご夫婦に、補足で説明をする。


「悠太、二歳です。ゆーたんって呼んであげてください。まだこちらに来て間もないので慣れない事も多いですが、どうぞ宜しくお願いします」

丁寧にお辞儀をしたゆーたんに“よくできましたね”と頭を撫でてあげると嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうにくっついてくる。


「あらあら、可愛いわねぇ。ジーくんも健斗くんも、もう大きくなって寂しかったから、お兄ちゃん嬉しいでしょう?」


「ええ!」

それは、もう!と、思わず子育ての醍醐味について語りそうになってしまいますが、そこは自重。


温かいほうじ茶を運んできてくれた奥さんは、一緒に湯気のたつ出来立ての蒸しパンも出してくれた。


「この後、習字教室の子供たちが来るから、沢山つくっておいたのよ。あったかい内にどうぞ。

 あ、健斗くんとジーくんの分は、タッパーに入れてあるから持って帰ってね」


「いつも、ありがとうございます。ゆーたん、いただきましょうか?」

ほかほかの蒸しパンからは甘い香りがして、悠太は初めて見る蒸したてで湯気のあがるお菓子に目が釘付けになっている。

黒糖をつかった蒸しパンを小さくちぎって、はい、とお口の中に入れてやる。


優しい甘さが口に広がり、蒸しパンは口のなかでふわりと解けていく。


「・・・!」

「ふふ、美味しいでしょ。蒸したてですからあったかいね」


くちの中の甘味に目をまん丸にして、嬉しそうにうんうんと頷いているゆーたん。

寒い季節のあったかいお菓子は、ごちそうですもんねぇ。


「気に入ったかしら? よかったら、ゆーたんもいっぱい食べてね。おばーちゃん、沢山作りすぎちゃったのよ~」

お寺の奥さんが笑顔で話しかけてくれる。

昔は、子供達も沢山遊びに来てくれたし、書道教室に生徒も多かったから、その時のクセでついつい沢山作ってしまうのよねぇー、と苦笑い。


そうなんですよね、ついつい沢山作ってしまうんですよ。

ええ、ウチの場合は健斗のリクエストによるものですが。


料理している横で、アレ食べたい、コレ食べたいと言われていると、ついつい作りすぎちゃうんですよ。


・・・家計に大打撃を与える健斗の食欲が、成長とともにこれ以上増えない事を祈るのみです。


その後、祈りもむなしく、健斗がお櫃単位でおかわりをするようになるまで、あと数年。



お膝にだっこをしながら、ふと思いついて内緒話をするように、耳のそばで囁いてみる。


「ゆーたん、こうやってお耳の近くでお話をすれば、うるさくないですし、他の人にも聞かれませんよ?」

聞かれなければ怒られないでしょう? と言ってみる。

気休めと言われるかもしれないが、まずは、ここでは声を出しても怒鳴られたりしないのだと認識することが第一歩だ。


びっくりして振り返る悠太の目は、まんまる。

慌ててお膝からおりて、そっと耳のそばで話してくれる。


「あにょね、うるしゃくなぁい?」


背伸びをしながら、真剣なお顔で耳にむかってこしょこしょと話してくれる悠太。


にっこり笑って、悠太の耳の話しかける。


「まったくうるさくないですよ。ゆーたんは、にーたんの声がうるさいですか?」

ちゃんと答えてから聞いてやると、悠太はふるふると首をふる。


そうか、こうやってお話すればいいんだ!と、悠太は理解したらしく、嬉しそうに笑ってよじよじと膝にのり、更に抱っこをねだって首にしがみ付いては、一生懸命にお話をしてくる。


「あにょね、おかし、あまいの」


「ぼく、しゅきなの」


「えとね、にーたん、こえね、あったかいの!」


柔らかくて小さい体をだっこしながら、悠太のナイショ話を聞いて、たまにあいづちをうつ。

そっと、悠太に向かいに座ってニコニコとその様子を見守っている住職さんと、奥さんのところにへお話してきてごらん?という。


「お菓子、おいしかったんでしょう? ありがとう、って言ってはどうでしょう?」


お話をしてテンションが上がった悠太は、大きく頷くとその勢いで座卓を回り込んで走って行き、耳元で、そっとお話をする。


「あにょね、ばーたん、ありあとぉ!」


首をこてんと傾げて、嬉しそうに言う悠太。・・・やばい、うちの子天使だったかもしれんっ!

小さい子供というのはどの子も可愛いものだが、天使発言をしてしまう程、うちの子最高!の病にかかってしまったことの自覚をタロ兄ちゃんがするまで、この後、数か月かかるのであった。


さて、そんな悠太の様子を見て、住職ご夫婦、撃沈。


「か、可愛いっ・・・!」

「ゆーたん、じーたんのとこにも、おいでー♪」


先ほどは勢いで来たものの、なけなしの勢いを振り絞っていたもので、声をかけられると、悠太はどうしていいか解らなくなり、慌ててタロ兄ちゃんの影に逃げ帰り、にーたんのセーターをきゅっと握りしめる。


「お話できて、よかったですね」

と言ってもらって、タロ兄ちゃんに頭を撫でて貰っている悠太は、くすぐったそうに笑う。


こうして桑月さんちの四番目は、抱っこしてくれる優しい腕の中で、守られる幸せを知ったのだった。








さて、次回は、商店街でお買い物です♪

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