ゆーたんとシャボン玉
またまた遅くて申し訳ない!
タロにーちゃん、のんびり子育て中ー。
学校へ行く二人を見送ったら、おうちに中は急に静かになってしまった。
段々と寂しくなって教えてもらった時計をなんども台所や茶の間から玄関に駆けて行ってみるのだが、時計の針がジーくんの言った『3』の位置までくるのは、まだまだ先のようだ。
そんなゆーたんの姿をタロ兄ちゃんは咎める事もなく、見守っている。
ゆーたんが、がっかりして台所に戻ると、タロにーたんがぎゅうって抱っこをして、ゆらゆらと宥めるようにあやしてくれる。
「ゆーたんが、この後遊んでーお昼を食べてーお昼寝から起きた頃には、健斗が帰ってきますよ」
そう言って笑うタロにーたんに、ゆーたんはくっついてまわることにした。
朝食の片づけをして、食器を流しに運ぶお手伝いもしてみた。
お皿を一枚ずつ持っていくだけなんだけど、タロにーたんが喜んでくれるのが嬉しくって、何回も往復。
あんまり頑張ったんで汗をかいてしまい、タロにーたんは苦笑い。
そんなに頑張らなくってもいいんですよ?と。
☆彡 ☆彡 ☆彡
さて、朝がゆっくりなとーちゃんはもそもそと起きてきて茶の間にどっかりと座り、新聞を読みながら、タロ兄ちゃんの作った朝ごはんを美味しくいただいている。
ゆーたんは、その姿をまじまじと見つめる。
胡坐をかいてどっしりと座り、新聞を読みながらごはんを食べて、タロ兄ちゃんに怒られるその姿は、ゆーたんが今まで見て来たオトナの姿とはまるで違うのだ。(いいか悪いかは別として)
そして、ゆーたんは、そんなとーちゃんの姿を、ちょっとしたあこがれを持って見つめていたのをタロ兄ちゃんは知らない。知っていたら、全力で阻止したことであろう。
朝食が終わると、今度はとーちゃんは台所に立つ。
コーヒー好きのとーちゃんは、コーヒーだけは自分で淹れて飲むのだ。
ゆーたんは、コーヒーのいい香りにつられて台所についていき、その姿をじっと見ている。
「まったく、何にでも興味を持つ年頃だよなぁ~」
兄ちゃんたちは大きくなってしまい、後追いをしなくなって久しい。
久々にやってきたちっちゃい子に、昔を思い出して思わず顔がほころぶ。
足元で真剣になってコーヒーをドリップしている姿を見上げている我が家の四番目の頭をなでてやると、くすぐったそうにして笑う。
ああ、ウチの子、可愛いわあ~。・・・完全に親ばか炸裂である。
そんな自由きままなとーちゃんと、それを見つめるゆーたんの姿に苦笑いをしながらも、「父さんがいる間に家事を片付けよう」と洗濯、掃除にいそしむタロ兄ちゃんは、年齢に似合わない家事上手だった。
家事に力を入れているのには、兄ちゃんにも言い分があるのだ。
育ち盛りの男子三人が居る家で、少しでも家事を止めるとあっという間に仕事が山になってしまう。後に残るのは、カオスだ。
毎日、少しでもいいから掃除洗濯、買い物といった家事をしないと家庭崩壊の危機がやってくる。主に山となる洗濯物の方から・・・。
そんなわけで、今日もせっせとお洗濯に励むタロ兄ちゃんの横に、ちんまりとゆーたんがお座りをしている。
コーヒーを飲んで満足したとーたんが寝てしまったので暇になったらしい。
「少し待っていてくださいね、これを干したら、一緒にあそびましょう」
そういって、ぱんぱんと音をたてて皺を伸ばしタオルを干していく。
タロにーたんがする事は、みんな魔法みたいだとゆーたんは思う。
冷蔵庫から出した冷たい牛乳はあったかくってあまーくなるし、汚れたタオルは、キレーになってお外にふわふわと干されている。
いつもにっこりと笑いかけてくれるタロにーたんの手からはイロイロと素敵なものが生まれてくるのだ。
「たしか、ここに・・・ああ、ありました。」
納戸の中から小さな針金で作った輪っかを取り出してくると、台所にあるキッチン用の洗剤を出してきてプラスチックのプリンカップに入れる。
桑月家には茶の間の横に縁側があり、そこから庭に出る事ができる。
タロ兄ちゃんと、ゆーたんは縁側に並んですわり、ゆーたんは興味深々でタロ兄ちゃんの手元を見つめる。
「シャボン玉って、したことありますか?」
「・・・?」
聞いたこともないので、ゆーたんはしらない、と首を横にふる。
「じゃあ、やってみましょうか」
先ほど持ってきた小さい針金の輪っかを洗剤の入ったプリンカップに浸して、そうっと持ち上げ、ふぅっと息を吹きかける。
すると、小さなシャボン玉がいくつもできてきて、ふわりふわりと宙と漂う。
「・・・・わぁ」
冬の柔らかい日差しの中、今日は風もないので、ゆるゆると漂うシャボン玉は、小さい子でも追いかけることができる。
そおっと手を伸ばしたら、ぱちんと消えてしまい、びっくりするゆーたんに、タロにーたんが笑いかける。
「シャボン玉はね、簡単に消えてしまいますけど、簡単に作ることもできるんですよ。ほら」
そういって、またシャボン玉を作ってくれる。
今度は息をふきかけるのではなく、軽く腕を回して空に一文字を書くように針金の輪っかを動かす。
その軌跡を追いかけるように、シャボン玉が連なって出現する。
出て来たシャボン玉をゆーたんは夢中になって追いかける。
ふわふわと漂うシャボン玉をじっとみつめ、そうっと手を伸ばしては、パチンと壊れてがっかり・・・その繰り返し。
シャボン玉に触れることができなくって、涙目になりながらタロ兄ちゃんのところへ駆け戻るゆーたん。
「ああ、泣かなくってもいいんですよ。シャボン玉に触りたいなら、後でお風呂の時にたくさん作ってあげましょうね。
お外だとすぐに壊れますけど、湿気の多いところだと、結構丈夫なんです」
涙目のゆーたんを抱っこしてお膝に座らせる。
夜になったらお風呂でシャボン玉と、泡だらけのお風呂にいれてあげましょう。その時の面倒は研司に見て貰おうと、タロ兄ちゃんは笑顔で計画を立てている。
だって、珍しく早く帰ってくると約束したんですから、帰ってきたら目いっぱい働いてもらわないと。
その後も、石鹸で手を洗いながら細かい泡で遊んでもらったりと、ゆーたんは嬉しくってずっと笑顔だ。
今日は朝からずっと嬉しくて、楽しくって、ワクワクする。優しくて抱っこしてもらうといい匂いのするタロ兄ちゃんをゆーたんは大好きになった。
生まれたての雛のようにずっとタロ兄ちゃんの後をついて回るゆーたんに、兄ちゃんは笑顔が止まらないのでした。
「ああ、ウチの末っ子が可愛すぎるっ!」
・・・にーちゃん、しっかりっ!
【ゆーたん観察日記】
ゆーたんは、時間が空くと思い出したように玄関に駆けて行って大時計をのぞき込む。
まだまだ『3』のところに針がくるのは先みたいだ。がっかり・・・。
はっと気付いて慌ててタロ兄ちゃんのところへ駆け戻る。
にーたん、いなくなっちゃわないかなっ!
お部屋ににーたんが居る事を確認して、ほっとする。
を何度も繰り返していたゆーたんでした。
・・・仔犬属性(笑