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 朝はいつでも戦場なのです!(平常運転)

遅くなりましたーっ!

桑月家、朝の風景です。

腕や胸のあたりがあったかい。

この感触は、久しぶりだ。健斗の添い寝が必要無くなって以来、かな。


小さい子の体温を感じながら寝るのはこの時期だけのの楽しみでもあるので、ちょっと顔が緩んでしまう。


だってねぇ、あっという間に「おっきいから、もう一緒に寝ないっ!」って言いだすんですよ。

ほんの少し前まで、「一緒に寝る~!」って言っていたというのに・・・。

お兄ちゃんは、哀しいですよ。


ゆーたんは、いつまでお兄ちゃんと一緒に寝てくれるかなぁ。


そんな事を考えながら、傍らで丸くなっている悠太を起こさないように、そっと起き上がったつもりなのに、人の動く気配に目を覚まし起き上がってしまった。


「おはようございます、ゆーたん。まだ、ねんねしてていいんですよ?」

眠そうな顔をそっと撫でてあげると、気持ちよさそうに手にほっぺをすりすりしている。・・・ふふ、寝ぼけているのかな。


日ごろのクセで起きてしまったが、今はまだ朝の五時半。

これから家族の朝食の準備や朝の支度をするとその位の時間に起きる必要があるのだ。習慣って怖い。


そっと毛布を引き寄せて寝かせようとするが、悠太はいやいやと首を振ってしがみ付いてくる。


なるほど、一人で寝ているのが嫌なんですね。


「それじゃあ、一緒におっきしましょう。このままだと寒いですから、着替えましょうね」

手早く悠太をパジャマから着替えさせ、抱っこして部屋を出ると朝の冷気で冷たくなった廊下を歩き、茶の間にある大きなクッションを二つ持ってくる。


一つは、階段の踊り場に配置して、もう一つは、台所のラグの上に置き毛布で包んだ悠太を座らせておく。


「寒くないですか? 今ストーブを着けますからね。」

よしよしと頭を撫でながら、可愛いくまさん柄の毛布を引き寄せる。


古い作りの台所は、板の間で冬は足元からしんしんと冷えてくる。

ラグや、キッチンマットを敷いているが、それでも朝はどうしても寒い。手早くストーブを着けて薬缶を上に置いておく。


「さて、今朝はパンにしましょうかね。研司も健斗もお弁当じゃないし・・・」

残りものの野菜をコンソメで煮たスープに、ふんわりオムレツとカリッと仕上げたチーズトーストかな。ソーセージは、タコさんにしておきましょうね。


冷蔵庫の中を見ながら、今日の献立を考える。


「ん、 ゆーたん?」

右足にふんわりと暖かいものを感じて視線を落とすと、悠太が足にくっついて一生懸命に伸びをして手をひらひらとさせている。


「お手伝いしてくれるんですか?」

そう聞いてみると、悠太が真剣な顔でこっくりと頷く。


確かに座っているだけでは退屈だろうと、冷蔵庫から出したトマト1個を渡し、テーブルに運んでもらう。

悠太は両手で大切そうに受け取るとパタパタと駆けていき、トマトをテーブルの上に置くと、慌てて帰ってくる。


・・・これは、どこかで観た事がある光景だ。


ああ、仔犬にボールを投げて、取ってこーいをした時と一緒ですね。

そして、健斗の小さい頃も、こんな感じで・・・。


健斗といい、悠太といい。うちの弟たちは仔犬属性なんだろうか。お手伝いをしたくて目をきらきらさせながら見上げてくる姿は、思わず微笑んでしまうほど似ているのだ。

その後も、ご期待に応えて冷蔵庫から出したウィンナーの袋だったり、チーズの袋だったりを渡して運んでもらった。

ありがとう、というと、満足そうに悠太が笑う。こちらまで嬉しくなって笑顔で頭撫でてあげるのだった。



「さて、と。未だ台所は寒いですからね、おなかの中からあったかくしましょう」

そう言いながら、小鍋に冷蔵庫から出した牛乳を注ぎ、砂糖を入れてゆっくりと温める。その間に冷蔵庫にある残り野菜を細かく刻んでコンソメスープで、こちらもコトコトと煮ていく。


悠太は興味深々で、料理をしている姿をみているので、少しくすぐったい。

そんなに凄い事をしているわけではないんですがねえ。キラキラした目で見られると手抜きもしづらい。


小鍋から頂き物の子供用マグに、ホットミルクを入れてスプーンでくるりと膜をとる。


「はい、熱いですよ。ふーふーしてから飲んでくださいね」


甘い香りのするホットミルクを両手で受け取り、嬉しそうにこっくりと頷く。



クッションの上にお座りをして、マグカップを両手でもって湯気を楽しんでいるのか、たまに顔を近づけては、嬉しそうに笑う。


ああ、なんだかこう、癒されますねぇ・・・。

こんな静かで穏やかな朝は久しぶりで・・・なんて思ったのはフラグだったんでしょうか。


「・・・うわ、どわああああああああっ!!」

ガタン! ゴン、バタバタ・・・ドンっ!!


「・・・ああ、短い癒しの時間でした」

ため息をつきながら立ち上がる。さっきまでのほのぼのとした雰囲気から一転、ウチの中に響きわたる騒音。


寝ぼけた健斗が、何度目かの階段落ちをしたのだ。


起き抜けの状態でパジャマを着替えながら階段を降りるなんて芸当をして、足を滑らせて見事に二階から落ちてくる。先ほど、階段の踊り場に置いた大きいクッションは、階段から落ちて来た健斗の壁への激突防止だ。


それで、何度か壁に穴を開けているので、もう準備は万全なんですよ。


ええ、一度や二度ではないんです。常習犯といっていいでしょう。


「健斗、毎回言っているでしょう。落ちるんじゃなく、ちゃんと階段は降りなさいと」

何度目かになるお小言も、すでにため息混じりのモノとなって来ています。

階段を何度も落ちているのに、本人は毎回かすり傷程度で周囲の壁や階段に損傷が出るという。一体この子はどういう体質なんでしょうねぇ。


「・・・ってぇーっ! あ、にいちゃん、おはよぉ~。クッションありがとうー!おかげで壁は無事だったぁ!」

背中をさすりながら、挨拶をしてくる健斗を見ながら、もう一度ため息。

壁も大事ですが、自分の体も少し心配しなさいね?


大きな音にびっくりして一緒に階段までついてきた悠太は、タロ兄ちゃんの後ろにぴとりとくっついていたが、健斗が倒れているのを見て俄かに心配になったのか、きゅっとタロ兄ちゃんのセーターを握りしめていた。


そして、小さな声が聞こえたのだ。


「いちゃい?」


余りの驚きに、思わずタロ兄ちゃんも健斗も、ゆーたんを凝視してしまった。


「・・・っ、ゆ、ゆーたん、喋ったぁ!? あ、うん、僕はヘーキだよ、慣れているもん、それより・・・いったーっ!」

慌てながらも立ち直って早速ゆーたんのところに行こうとした健斗の背中を、二階から降りて来た研司がスリッパで踏みつける。


「お前は、毎回毎回、どうして普通に階段位降りれないんだ。後、朝っぱらからうるせぇ! 少しは静かに・・・「そんな場合じゃないって、ジーくんっ! ゆーたんが喋ったんだって!」」


お寺さんの仁王像に踏みつけられる小鬼のようになっている健斗を、悠太が目を丸くして見ている。


今までいたお社は女性が多く男性の姿の方が少ない世界だったが、今回の桑月家は男性ばっかり紅一点は、よく行方不明になる母くらいでしょ

そんな男ばかりの兄弟というのは、まあ、こんな感じなんですね、年長者絶対。兄は世界の掟です!


朝からの大騒ぎに不機嫌になっていた研司は、ゆーたんの最初に喋ったのが、健斗を気遣う言葉だったことに更に不機嫌に。

「ちっ! よりによって健斗かよ」

「え、なんで舌打ち!? え、僕じゃダメなのー!?」


昨日の話を聞いてから、ゆーたんには、一番に自分を呼んで欲しいと思い、今日からガンガンに甘やかしてやろうと画策していた矢先に、健斗の階段落ちですべてが崩れた。

当然のように、研司はますます不機嫌に。


思わず声が出てしまった悠太の方は、縋るようにタロ兄ちゃんセーターを更にきつく握りしめる。


「ゆーたん、どうしました?」


「・・・ぼく、・・うるしゃい?」


これを聞いたタロ兄ちゃんは思わず眉間にしわが寄りそうになるが、目の前の悠太を動揺させてはいけないと、笑顔を作る。


「ゆーたんのおしゃべり位、全然うるさくありませんよ」


「でも、でも、うるしゃいのは、めって、怒らえる・・・」


こんな小さい子を相手にそんな事を云う状況というのを考えたくもない。

怒られるのが怖くて、声を出さないようにしている幼児だなんて、そんな事を強要する大人の方こそ、そんな事を言った口を縫ってしまいたいですね!


「ゆーたん、それは違いますよ。うるさいって言うのはね、朝から大きな音を立てて大声を上げて階段から落ちてみたりする位のレベルですよ」


「ごめん、それ、僕だよね・・・。」


自覚はあるみたいですね、健斗。明日はちゃんと足で階段を降りてきてくださいね。


悠太をよしよしと撫でて安心していいのだと伝えてやる。

ここでは、笑う事も話す事も咎める人はいないのだから。


研司の方をみて、にっこりとわらってみせる。


「・・・まあ、名前を呼んで貰うという野望がまだ残っていますから」


その言葉にようやく気付いたように研司の眉間から皺が消える。


勝負はまだこれからなのだ。


ジーくんの機嫌が少しなおったとこで、次へ続く!

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