お風呂でほっこり、ホカホカ
お風呂で寝ちゃう子って多いんですが、なんとかごはんまで起こしておきたい作者です(笑
「健斗、お風呂の準備をお願いね。あと、自分のパジャマもとっていらっしゃい」
タロ兄ちゃんに声をかけられた健斗は、うん!と嬉しそうに頷いて二階にある自分の部屋へ駆けていく。
その姿を見送ってから、研司にそっと囁く。
「研司、お風呂のとき、手伝いをしながら確認をしてあげてください」
「わかった・・・」
誰の?、なんの?、とは研司は聞かない。
こんなに急に家族から伯父が引き離してきているのだ。何があったか想像に難くない。
そして、ここへ来ても悠太は一言も口をきかない。
耳が聞こえないわけではない。ちゃんと音に反応もしているのだから。
感じるのは、警戒と緊張。
ゆっくりでいいから、その小さいからだから感じる感情を解いてやりたい。
☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡
「ゆーたん、見て!これね、とーちゃんが作ったの。スイスイカッパくん1号だよ」
「・・・!」
湯船の中で健斗が自慢のおもちゃを見せている。
俺、研司は、小学校1年生の健斗と、幼児のゆーたんの二人でお風呂というのは、流石に危ないのでシャツの腕まくりに足は裾を巻き上げて風呂場で付き添い中だ。
いっしょに入ればいいじゃないかって? 子供のお風呂っていうのは、ほとんどが遊びで構成されているんだよ。
そんな、ちみっこ達に付き合って風呂に最初から最後まで付き合っていたら、ふやけるわ!
子供のいる家庭にありがちなお風呂場のおもちゃ。ウチも御多分に洩れずビニールの黄色いアヒルのおもちゃや、親父の作ったオモチャもイロイロあるのだ。
このカッパのおもちゃもその一つだ。
ひょろ長いカッパのおもちゃは、子供向けの可愛いおもちゃではなく、妖怪の本などに出てくるリアル仕様。可愛さのかけらもない。
そのカッパは今、ぱしゃぱしゃとクロールで湯船の中で泳いでいる。・・・なんで、必要のない息継ぎをするんだ? 仕様って・・・意味ないじゃん!
不気味なカッパの姿なんでみて、ゆーたん、泣くんじゃないか?と、ヒヤヒヤしたが、流石は桑月の子。
楽しそうに風呂桶越しにカッパを見物している。
「気に入った? あとねー、これはジャンプするんだよー。フライング・エイくんっ!」
「ちょっとまて、健斗、それはっ・・・」
健斗お気に入りのエイのおもちゃなんだが親父が作るとイロイロと迷惑な機能がつく。コイツは飛びこんだ後に、バタフライをして飛び上がるのだ。
当然なんだが、そんな事をすれば、周囲に物凄い水しぶきが上がって・・・。
「あ・・・」
「!」
ザバっ!という音と共に水しぶきが上がり、俺の方にもたっぷりとお湯が飛んできた。だから、マテと・・・。
「けーんーとーっ!」
「わざとじゃないってーっ!うわっ、ジーくんっ!」
とりあえず健斗を湯船に沈めておいてから、結局脱衣所で服を脱ぎ、ちみっこ達と風呂に入る。
やれやれと、ため息が出ても仕方ないと思う。
「ほら、ゆーたん、来な」
悠太を抱っこして湯船に入れてやる。
一人で湯船に入れるほど大きくないし、健斗が助けて入れてやれるほどは小さくない。
「熱くないか?」
と声をかけるとフルフルと首をふる。まだ少し緊張はしているが、風呂の温かさに安心したのか、悠太はこちらに体を預けてきている。
脱衣所で服を脱がせながら、悠太の体を確認した。
兄貴が心配したように、悠太の背中には傷があった。もう治ってきているが、きっと伯父さんはこの傷をみて悠太を連れ出してきたのだろう。
そのほかに手に細かい傷跡があったが、こちらも治りかけだ。
こんな小さい子に、一体何をしやがるんだ!と、思わず舌打ちをしたくなるが、顔をしかめた俺を心配そうにみているので、無理に笑顔を作ってみせる。
大丈夫だ、ここは安全なんだ、と悠太に教えなくてはいけないから。
「ジーくん、ゆーたんが眠そうにしているよ?」
傷に負担をかけないように、ぬるめのお湯にしておいたせいか、悠太がもう寝てしまいそうになっている。
「おっと、やばいな。もう上がるか」
風呂場から兄貴に声をかける。
「兄貴ー、悠太があがるからー」
「はいはい」
すぐに返事が返って来た。兄貴は早々に準備をしておいて待っていたらしい。
風呂場のガラリ戸を開けて悠太を渡すと、兄貴が大きなバスタオルでふんわりと包んでくれる。
「ゆーたん、お風呂は楽しかったですか?」と兄貴に聞かれて、嬉しそうにこっくりと頷く悠太に、よかったですね、とにっこり笑いかける。
バスタオルでせっせと体を拭いてやり、下着をつけさせ、いつの間に用意したのか、子供用のパジャマを着せている。
手際いいよなー。考えてみたら、もう子育ても3人目なんだからな、ウチの兄貴は。
桑月家長男、趣味は、子育て。
父さんの貰って来たお年賀のゆーたんを一番喜んでいるのは、兄貴かもしれないと、研司はおもったのであった。
「健斗、パシっと頭洗え! ほら!」
「やだよ、ジーくん、ざばーってお湯かけるんだもん!」
「ああ? ちゃんと流さないでどうすんだよ!」
ざばー
「うわああ、ジーくん、お湯もシャンプーも目に入っちゃうよお!」
「研司、健斗、適当なところで上がりなさいよー。もう、ご飯にしますよ?」
兄は、もう慣れっこになって止めません。(笑)