はじめまして、お兄ちゃんです!
毎度おなじみの見切り発車です。
のんびりと、更新していきます。兄ちゃんたちと一緒に、ゆーたんの成長を愛でていただけると嬉しいです。
「それで、父さんは正月の挨拶に出かけて、一体何を貰って来たというのですか?」
「ん、お前らの弟だ!
悠太。ゆーたん、2歳だ。よろしくなっ!!」
この説明でだけこの状況を納得しろというのは、いくらなんでも無理というものでしょう?
☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡
我が家があるのは、東京の中でも下町と言われている地域で、賑やかな商店の立ち並ぶところから少し入った昔からの寺街の風情を残す静かな場所。
なので、住民の多くは昔からこの地域に代々住んでいて、下手すると話は明治維新どころか江戸時代まで遡っちゃう位の年季の入った住人さんがいる。
そんな古くからの住民の中でもおそらく最古参であろうお寺さんの裏手が。我が家、桑月家だ。
昔、分家となった当時の桑月本家の次男坊がお寺の参道だったものが区画整理で一部が下げ渡されたのが、我が家のご先祖様だったのだ。
ということで、古い鎮守の森の囲まれて時代から取りこされたように佇む由緒正しく広いのだけが取柄の古い木造建築の一軒家。
その佇まいと同じく、住民も地味ーに、穏便に暮らすのが信条であるはずなのに・・・。
ウチの当代(父)がそれを台無しにしている気がする。
息子たちに残念なものを見る眼差しを送られていることに気付かず、酒の入った父は傍らの男の子に上機嫌で話しかけている。
「いーか、ゆーたん。ここにいるのがお前のにーちゃんたちだ。
お前のにーちゃんは強いぞー。何があってもお前の事を守ってくれる最強のお守りだ。
だから、何があっても、にーちゃんの側から離れるんじゃないぞ~!」
数年ぶりに伯父から連絡があり、父は松の内の過ぎ、少し遅きであるが伯父もとへ寒中見舞いの挨拶を兼ねて出かけて行った。
そして伯父たちと向こうで楽しくお酒を酌み交わし、いい気分で帰って来た。・・・ちっさい子供を土産に。
父の横にちんまりと座っている小さな男の子は、悠太というらしい。
酔っぱらいに説明を求めても無駄な事はよく解っているのだが、それでも言わなくてはいけない事ってあると思うんですよねぇ。
「・・・研司、ゆーたんを抱っこして聞こえないようにして。健斗、耳を塞いでいなさい」
「はいよ」
「はーい」
兄が珍しく低い声で自分たちに命令をしてきた。そういう時は絶対に逆らってはいけない。
弟たちは長年の付き合いで、その事をよくわかっているので素直に言う事を聞く。
賢太郎は、父の横から、ひょいっと悠太を抱き上げ、研司に渡す。
受け取った研司が「軽いっ!?」と慌てながらもしっかりと抱き込んで、いきなりの事に固まっている悠太をよしよしとあやしてくれている。
健斗も言われたとおりに、素直にお耳に蓋をしている。
弟たちからの返事と、行動を見たところで、桑月家の長男は父をガッツリと締め上げる事にした。
ゆらりと父の前に腕組みをして仁王立ちしている長男に、父ちゃん、ビクっとなる。
どっちが、親なんだかわからないゾ、父ちゃん!と健斗は心のなかだけで呟く。
雉も鳴かずば撃たれまい・・・金言である。
「父さん、大人としてちゃんと言わなくちゃいけない事ってあると思うんですよ。
はっきりさせましょう。悠太は、父さんの種じゃないんですね? 」
「え、ちょっと、マテ、にーちゃん、怖いゾ・・・」
じりじりと後ろへ逃げていく父を、兄ちゃんががっちりと肩を掴んで逃がさない。
「父さんが怯えて見せても可愛くもなんともありませんから、キリキリと白状してください!」
「落ち着こう、にーちゃん! 少し落ち着こう! 父ちゃんが信じられないのかー?」
父よ、貴方が落ち着けと言われんばかりの、慌てようだ。
どう見ても後ろ暗いことがありそうにしか見えないところが悲しい。弟たちは、そっと目を逸らす。
「どこをどうしたら、信じられるというんですか?
誰との子ですか? 不倫なら不倫とはっきりおっしゃいっ!」
兄ちゃん、不倫でも認めちゃおうという度量の広さ。でもそれは既に何かを諦めているかららしい。
諦めているもの、それは、父ちゃんの良識への信頼って奴か。
「にーちゃん、酷いっ! 父ちゃんは結婚してからかーちゃん一途で、天使の羽のように真っ白よ、潔白ですよ!?」
「酷いのは、どっちですかっ!とりあえず、天使に謝っておきなさい。相手にご迷惑です!」
父には、幾度となく揉め事、騒動を持ち込まれてえらい目のあっている。
その経験から学んだ事は、『初動が大事!』だ。
揉め事も小さいうちなら、処理もしやすい。後になってからでは手もつけられない事があるのだ。
「ゆーたんは、本家から頼まれた桑月の末の子だよ~。
いいじゃん、俺の種じゃないけど、ゆーたんいい子なんだよ。うちの子にしてよ~、弟にしてよ~、にーちゃん!」
「・・・ワンコを拾ってきた子供みたいな事を云うんじゃありません。
とはいえ、預かってきてしまったものは仕方がありませんね。桑月の末に連なる子なら、当然ウチの子ですしね。」
ギリギリと締め上げていた手を少し緩めると、父はほっとしたように息をついています。
ようやく話してくれたとはいえ、色々と隠している事も多いようです。それは後からこっそりと聞きだしましょう。
「さて、騒がしくてごめんね、悠太。研司、抱っこしてくれててありがとうね。健斗、お耳をふさぐのももういいですよ」
にっこりと笑顔で弟たちの方へ振り返ったにーちゃんは、先ほどまでとーちゃんを締め上げていたことなどなかったかのように優しい微笑みで悠太を抱っこしてお膝にのせている。
「では、改めまして、長男の桑月賢太郎です。 こちらが、次男の研司で、あちらが、三男の健斗です。
みんな、ゆーたんのおにーちゃんです。よろしくお願いしますね」
「・・・」
抱っこをされた状態で大きな目をまんまるにして凝視してくる姿は、仔犬のように見えて可愛くて仕方がない。思わずこちらの顔もほころんでしまう。
現在中学3年生の桑月家長男の趣味は、「子育て」。
ライフワークと言ってもいいかもしれない。
幼少時から弟たちの面倒を見て育て、忙しい親族や、クライアントの子供たちのベビーシッターも何度か経験しているという、中学生でありながら子育て経験豊富という他では見られないスキルの持ち主である。
そんな桑月長男、賢太郎の最近の悩みが育てた子たちが大変に個性豊かに育ちすぎていること。
その筆頭が、次男の研司だ。
「はじめまして、ゆーたん。俺は、次男の研司。ジーくんって呼んでな?
それにしても、ちっさいなあ、二歳ってこんなに小さかったっけ?」
興味深々の体で、ゆーたんの頭を撫でているすらりとした肢体は、現在身長が163センチ。・・・一応、小学生で、春になったら中学生である。
そして、数年前まで美少年と言われていた容貌は、現在、艶が加わり祖母ゆずりの柔らかな栗色の髪に鼻筋のとおった白皙の顔。
こんな迫力のある美形が、まだ小学生だなんて、誰が信じるだろう・・・ちなみに、歴代彼女は、全部年上。
お相手が条例違反で捕まっちゃわないことを祈るのみだ。
育て方を間違ったのだろうか・・・。
「わあ、僕も、僕も自己紹介するっ! 僕は、三男の健斗くんだよー!よろしくねっ!!」
元気に挨拶をしている健斗は、小学生になったばかり。この春で二年生になる。
動くオモチャが大好きで、暇があれば工作室に引きこもる父に一番似ているのが、健斗だ。
そのことだけでも、兄は弟の将来が色々と心配である。
悠太は、みんなから挨拶をされて、びっくりしたまんまのお顔で小さくこっくりと頭を下げる。
腕の中にすっぽりと納まる新しくやってきた小さな弟をみやりながら、生活のすべてを統括する桑月家の長男は、言うのだった。
「さ、まずは、お風呂とご飯にしましょうね」
美味しいご飯をたくさん食べさせて、新しくできた小さい弟の痩せたほっぺをぷっくりさせないと!
兄は、今、使命感に燃えている。
そんな風にして、悠太、いや、桑月家の四番目、ゆーたんの生活がはじまったのだった。
読んでくれてありがとうございます!
続きもお付き合いいただけると、嬉しいです!