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暇神とヤモリ族の話。

作者: 雫石野 想人

「暇神!さっさと仕事終わらせろ!こっちは待ちくたびれてんだよ」

高級そうな椅子に座りながら少女が暇神に文句を言うと、暇神はゆっくり、ゆっくりと書類に班を押しながら、「1人でやってるんだからしょうがないじゃないか」と言って大きなあくびをした。

「ったく。だったら御付きでも雇えってんだ。」

「御付きかぁ。確かに仕事を代わりにやってくれる人がいたら楽だなぁ。のーんびりできるよ。」

「あくまで全部押し付ける気なんだな」

少女は呆れながら言うと、「西の森のヤモリ族の族長が一族で仕官先を探してるそうだ。一度訪ねてやったらどうだ?ただ、あんたに仕官するかどうかはしらないけどな。」と言いながら立ち上がり、暇神に西の森の地図を渡すと足早に「さっさと仕事終わらせろよ!」と言い残して去っていった。

暇神は手を止めてその地図を眺める。

「西の森かぁ。気分転換に行ってみるかなぁ。」

暇神はのそっと立ち上がると、部屋の外のバルコニーに出て「創造!」と言うと、目の前に雲が集まってきて、瞬く間に道が出来た。

暇神は巨体、というよりも太った体をゆっくりと浮かせて、その上を滑るように移動していく。

しばらくすると、西の森が見えてきた。

「よし、着いたぁ、そぉぉぉれ。」

暇神は雲で出来た道から飛び降り、西の森目掛けて落下していく。

木々が近くなってきたところで暇神は再びゆっくりと体を浮かせバキバキと木々の枝を降りながら着地した。

すると、無数の足音が森の中から聞こえ、空から無数の矢が飛んできた。

「ひぃぃぃぃぃぃっ!」っと暇神は叫びながら地面にしゃがみ込む。

空から飛んできた矢は全て、わざと暇神を外すようにして暇神の周りに刺さっていく。

「いまだ!槍隊、抜刀隊、弓隊かこめぇぇぇぇ!!!」

誰かが叫ぶと森の中から無数のヤモリ族が飛び出してきて、槍や刀や弓を持って暇神を取り囲んだ。

「よぉぉぉし!よくやった!」と言いながら、一際大きな刀を持ったヤモリ族の族長 ヤモが走ってきた。

「って…あれ、こいつは中央魂管理局の暇神じゃねえか…。」

ヤモは立ち止まり、目を丸くして、暇神を見つめる。

暇神はゆっくり体を起こして、「驚かせてごめんねえ。えへへ。」と笑って、その場にあぐらをかいた。

ヤモは問いかけた。

「中央魂管理局のオサボリさん…じゃなかった…えっと…暇神様がなんの御用で?ワイら規則に背いた覚えはありませんが?ちゃあんと、この森に迷い込んだ人間の魂を三途の川まで送り届ける仕事、ちゃあんとこなしておりやすが…?」

暇神は答える。

「そうじゃなくてね〜、僕の御付きになってほしいんだぁ。探してるんでしょ?仕官先〜」

ヤモは少し考えるそぶりをしてから暇神に聞き返す。

「しかし、ワイらヤモリ族の芸当は主に戦闘にごぜえます。暇神様の主な仕事である書類整理は手伝えませんぜ?」

暇神は困った顔をしながら、「そこをなんとかぁ!最近、あの世へ行く人間が急に増えて困ってるんだよぉ。あ、そうだこういうのはどう??僕の御付きになってくれたらヤモリ族を2つに分けてかわりばんこで僕の書類整理の手伝いと、地獄行きの門に向かう罪人衆の脱走者を捕まえる仕事をするっていうのは?僕、罪人衆の管理も任されてるからやってくれると助かるなぁ。」

ヤモはまたしばらく考えてから暇神に問いかけた。

「この西の森は今のままワイらヤモリ族のもので?」

暇神は「そうだよぉ。」と答えてから「あとね〜お給料はヤモリ族のみんなが大好きな蛾をいっぱいあげようと思ってるよ〜」と言った。

その瞬間、ヤモリ族達がざわめく。

「おい聞いたか!蛾だってよ!!」

「最近この森に迷い込む蛾少なくて困ってたんだよなぁ!」

「蛾食えるの!?まじで?」

その様子を見て、ヤモは決心して暇神にこう言った。

「そういうことならワイら…いや、我らヤモリ族は暇神様にお仕え致します!存分に使ってくだされ!」

この日からヤモリ族は暇神の御付きになった。


「おい、虫王殿がお前に怒鳴り込みに来てるぜ〜」

そう言いながら部屋に入って来たのはあの少女、自殺者魂管理役の神崎空だった。

暇神は「中央からの正式な命令って伝えといて〜」と答えたが、空は呆れ顔で「そんなんで虫王が納得するわけないだろ?ったく、なんで勝手に蛾をヤモリ族の餌にしてんだよお前は。ここは人間の世界と違うの!蛾は虫王の管理下にある神虫なの!」と暇神に言った。

このことにより、後に虫王は中央に謀反を起こし、攻め込むのだが、虫王討伐を天空界で一番権力を持つ世界神に命じられた暇神はヤモリ族を使い、虫王を討伐、戦場は蛾を食らうヤモリ族だらけだったという。

虫王討伐後、暇神は人間転生管理局局長に出世した。

「ヤモさん!ありがとうございます!来世は幸せになります!」

1人の人間がヤモにそう言うと、ヤモは答える。

「なぁに、いいってことよ。もう火事にあうんじゃねえぞ!」

「はい!本当にありがとうございます!では、さよなら!」

その人間は転生門をくぐっていった。

転生後、この人間は「夢でヤモリが火事から守ってくれる夢を何回も見た!」と言い、ヤモリを家の守り神とし、一族で崇めるようになったという。

これがヤモリが家守、屋守などと言われ、縁起のいい生き物と言われるようになった由来だとか、そうでないとか。


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