第5話 事前説明(※ほぼ説明)
A.D.2513年
4月11日 13:00
クミライ学園イベント広場B
クミライ学園第5階層にあるイベント広場に、大勢の人が集まっていた。彼らは皆この春入学したばかりの中学一年生だ。
兵士育成プログラムの一環で、戦場見学を行うための下準備と、説明を聞くために集まったのだ。
この世界で義務づけられている兵士育成プログラム。徴兵令と似たようなものなので、21世紀の人々からみれば嫌なものだろう。だが、この世界ではこれが普通なのだ。その理由は後々説明しよう。
タカオ達もこの会場に来ており、トモスケ、タカトモの3人で話をしている。
「遂に戦場見学かぁ。戦場ってどんなんだろうね」
「知らん。それよりも、早く帰りてぇ。育成プログラムだか戦争だか知らねーが、クッソ面倒なことに巻き込まれたな」
タカオは楽しそうにしているが、トモスケはダルそうにしている。彼は面倒な事を嫌うため、こういったものには極力参加したくないのだ。
「仕方ないさ。これは義務だからな。」
「でもさ、これを義務にしたのってさ、人類連合だよな。なんであんな名ばかり連合に従うんだよ」
「それ、人類連合の人に聞かれたらまずいね。まあ、日本には居ないだろうけどね。
っと、そろそろ始まるね」
タカオが話を止めると、ステージの上に誰かが上がってきた。彼は、昨日タカオのクラスに数回来た男性教師だった。
『えー、新入生の皆さん。これより兵士育成プログラムの説明を始めます。私は、クミライ学園戦闘担当の上田陽介だ。以後宜しく』
彼はメガネ越しに生徒を睨む。彼の赤く鋭い目に睨まれた生徒は怯えていた。ちなみに、睨まれた生徒は周りと話をしていた者だけである。
彼は細身な身体にこの時代としては珍しい170㎝を超える身長、灰色の髪には狼のような耳が生えている。タカオ達からは見えないが、狼のような灰色の尻尾も生えている。彼も学園長と同じ亜人なのだ。
彼は一通り睨みつけた後、話を再開する。
『一応言っておくが、我々が行くのは戦場だ。遠足気分で行くなよ。
さて、そろそろ説明しようか。兵士育成プログラムとは、9年前に起きた戦争、闇黒惑星戦争が原因で作られたものだ。この戦争は闇黒惑星にある国が引き起こし、全ての国が巻き込まれた。人類活動領域と呼ばれるこの宇宙で人が暮らす範囲、だいたい天の川銀河の50分の1の広さだな。この範囲での戦争は前代未聞。かつての世界大戦とは比べものにならない規模だった。
この中には覚えている者も居るだろうが、あの戦争により、日本を含めた各国の兵力は平均9割減少し、新たな人材確保を求められていた。そんなときに、人類連合が出したのが、人類活動領域を8つの仮想連合に分け、その中で仮想戦争をするというものだった。この当時、国家には8つの緊密な関係の国の集合体があったため、ちょうど8つに分けられたんだ。人類連合の影響力は大きいため、殆どの国はこれに従う事となった。日本でも、8年前から開始された。
人類連合側の主張は、このプログラムにより、能力のある者を育て、将来的に各国の軍隊に配置できるようにするというものだ。まあ、子ども達の成長に悪影響が出るとして、反対する者も多いのだが。
さて、まずは兵士育成プログラムの内容だが、後ろのスクリーンに映してある。っと、その前に。一つ説明することがあるな』
上田はスクリーンに接続された端末を操作する。すると、先程まで異様に長ったらしい文章が映っていたスクリーンが少ない文字と絵が描かれている画面に切り替わった。
『戦闘においての最大の重要事項である、ARDについての説明をするぞ。
自動回復装置《ARD》とは、2153年に発明されたまさに夢の装置と呼べる代物だ。魔素を動力源とする。その機能は、一定以上のダメージを受けた場合、瞬時にバリアを張り、傷口をから体中に充満したウイルスやガスを一掃し、血液まで人口的に作るもので、作られた当時は神の魔術とまで呼ばれた。月3回はメンテナンスがあり使えないが、そん時は兵士育成プログラムも休みだから安心しろ。
そして、さらに2つ紹介する物がある。一つはアメノダチと呼ばれる薬だ。これは元々医療用に作られた物で、効果は体力を3倍にしたり、痛さを数百分の1に和らげたり、トラウマや不快感を感じさせなくする。中毒性は無く、体が慣れて効果が薄れることもない。この薬、戦場ではかなり重宝されていてな、これ無しに戦争出来ない事になったんだ。
そして最後に、空間圧縮装置だ。これは、その装置から最大10キロメートル以内の建物や地形を再現することができ、人はその中に入ることが出来る。入るときに小型化の魔術をかけられるらしく、人や兵器はその中だと小さくなるらしいぞ。基本的にこの装置は兵士育成プログラムと自衛隊を含めた各国の軍でしか使われないが、これにより、一般市民が戦争に巻き込まれるリスクはかなり少なくなった。
これ以外にも、魔術やら能力やら兵士運搬車両や魔法石なんかもあるが、その話は別の機会にするか。
次に、兵士育成プログラムの決まり事についてだ。これは兵士育成プログラム《SDP》協定と呼ばれ、この協定は絶対である』
上田がそう言うと、スクリーンの画面がまた切り替わる。今度は、協定について書かれていた。
『1 戦争についての情報は事前に人類連合に伝えること。伝えれば機密は遵守するが、報告なしに始めた場合は、その連合軍に属する国の機密の一部を公開する
2 兵士育成プログラムは毎週1回、3時間とする。なお、訓練はそれに含まれない
3 自動回復装置《ARD》のメンテナンス日については、訓練も含めた一切の軍事行動を認めない。従わぬ場合は、1と同様に処罰する
4 戦いの勝負の決め方は、フラッグ制とする。フラッグは一つの戦場につき最大5つまで設置可能
5 兵士育成プログラムに参加する兵士は、非常事態を除き空間圧縮装置外での戦闘を禁ずる。従わぬ場合は、その者は報酬の減、または排除も許可する。これは、各連合軍の司令官に一任する(※現在殆どの連合軍が減給でとどめている)
6 自動回復装置《ARD》の要となるチップが付いている首部分を誤って攻撃、相手を死なせてしまった場合、故意でなければ刑事責任は問わない。だが、故意と解ればその国の法で罰する。
7 敵味方関係なく、兵士育成プログラム以外での身体的、精神的攻撃を行った場合、6と同じように罰する。
8 1つの学級を1つの部隊とし、その中で3~5人で集団を作り、それを小隊とする。内訳は1小隊につき、隊長1名、運び屋1名(※兵士や武器を乗せるための車両を扱う者)、普通兵士1~3名となる。なお、1つの部隊につき1人オペレーターを各国で用意する。
9 資金、武器などは、各連合軍・国家で賄う
10 兵士が連続して休みをとる場合、5回連続までは容認する
11 兵士の対象年齢は、12歳~18歳までとする
12 原子・核エネルギーを使用しないこと
13 人類連合には従うこと。従わぬ場合は、その結果が悲劇となってもたらされよう』
「何だありゃ……。最後のは脅しか?」
トモスケは思わずそう呟いたが、無理はないだろう。上田でさえ、13の部分を説明するとき、嫌な顔をしていた。
タカオは「なんでそんなものに従ってるんだろう?」と呟いたが、タカトモがスマホの画面を見せると、タカオはさっきの件について理解した。
スマホの画面には、ニュースの見出しが多く書かれていた。
『与野党議員数名、人類連合に対する抗議集会の最中に爆発に巻き込まれて死亡!自爆テロと思われる』
『反人類連合を掲げる○○王国、一夜にして消滅!強大な魔術が使われた痕跡あり』
『有名なアイドルグループの○○氏、SNSで人類連合に反する書き込みをした後、消息不明に!』
『人類連合の了承なしに睨み合いを続けていた中華人民国と台湾の艦隊、謎の閃光の後、無人船となり見つかる!』
「…従わなくちゃいろいろマズいってことか」
「そうみたいだね。どこにそんな力があるのかは謎だけど、前話したヤマタノオロチも人類連合が創った生物兵器との都市伝説もあるぞ」
「どうりで皆嫌々従ってるわけだ」
名前だけは平和的な人類連合だが、その実態は恐怖で世界を影から支配しようとする組織であることが分かった。そして、これからはそんな組織が運営する物に参加する事になったことを知り、ここにいる多くの生徒は驚き、唖然としている。
『おい。驚きのあまり呆然としてるようだが、これも仕方ない事だ。我々にはどうすることも出来ない。だから、せっかくの時間を有効活用しようというわけだ。我々教員は仲間との友情や体力、根気が育ってくれればいいと考えている。だが、戦争にはそんな言葉は通じない。そのため、我々の威信にかけて、君たちを強くしていく!
以上、解散!後は各クラスで行動するがいい!』
上田がそう指示すると、広場のすぐそばに、空を飛ぶバスが現れた。タカオ達はこれから、戦場に向かう!
第6話と外伝はでき次第投稿します。