第4話 頼りにならない先生が現れた
久々の投稿です!
AD2513 4月10日AM10:00 クミライ学園中等部 1年24組
「やっと終わったー!」
タカオはミサイルの件が解決して、やっと教室に入ることができた。この教室にいる大半の生徒は、精神的に疲れているため、バテて机に寝そべったりしている。この状態で平常心を保っているのはタカトモだけだ。他の男子生徒はそんなタカトモのことが不思議で仕方ないようだ。
「そこの君。何でそんなに疲れてないんだ~?正直、色々とありすぎて頭が追いつかないぞ」
「そうか?僕はてっきり入学式には例の兵士死ね死ね隊が来ると思ったけど、来たのはたかがミサイルごとき。しかも、君も見たと思うけどこの学園にはジンタクさんがいるんだよ」
「ミサイルをごときで済ませるのか……」
「だってさ、ミサイルを自衛隊が迎撃するのは別に問題無いだろ。国民の命が狙われてんだから。それに比べて、例の団体はあれでも日本人、しかも、厄介な後ろ盾もいる。ある意味あんな感じの団体は、そこらのミサイルよりも面倒な存在だろ。それに……」
「それに?」
タカオはタカトモが何を言おうとしてるのか、だいたい察しがついた。タカトモは、鞄から一つの本を取り出した。
「軍なんて、UMAや宇宙人に比べれば全然弱いよ!特に、2回も現れたのに未だに謎の多いヤマタノオロチは、そこらの軍には敵う相手じゃないさ!」
「あっ、はい」
オカルト関係の話しをする時のタカトモは、誰にも止められない。
入学式の時に知り合ったケイタが、タカオに話しかける。
「なあタカオ。あいつ、いつもあんな感じなんか?」
「そーだね。ああなると誰も止められないよ……」
「止められないのか……」
「止められないねぇ。不可能だねぇ」
一方そのころタカオ達をよそに、トモスケは大量の女子に囲まれていた。
女子に囲まれる。それは、モテない男共からすれば羨ましい限りだが、女性恐怖症と自称するトモスケからしてみれば処刑にも等しい行為である。
「ねえねえ、あなた、名前は?」
「どこから来たの?」
「今夜、あなたの家に行っていいかな?」
「アババババ……」
その様子を、同じクラスの男子生徒が何人か見ていた。だが、嫉妬ではなく哀れみの目を向けている。
「あいつ、可哀想やな」
「蟹みたいに泡出してるな(笑)」
「てかあの女子、全員他のクラスのやつだよな」
「このクラスの女子は興味ないんだな」
これまで、トモスケが女子と絡んでいる所を見た男子は殆ど嫉妬していたのに、このクラスの男子は嫉妬の影も形もない。タカオは妙な違和感を感じた。
「何と言うか。優しい世界だね」
「タカオ。このクラスには俺が知ってるだけでも結構変わり者がいるから、あんな事では嫉妬しないだろう。まあ、面白い中学生活になりそうだな」
ケイタが横でそんな事を話している。確かに見渡しただけで、教科書で隠しながらBL本を読む女子や、男子生徒の制服を着ている可愛い子、そして……。
「このクラス面白スギィ!!まじワクワクするってはっきりわかんだね」
「相変わらずお前はうるさいな。何だよその語録は……」
「『性なる夜の夢』っていう同性愛をテーマにしたアニメの語録だゾ」
「アニメなのか……」
タカオの近くでヤケに性夜語録を使う男子生徒がいた。その語録に他の生徒が突っ込むが、ほぼ無意味なようだ。
(まさかこんな所でも性夜語録を聞くはめになるとはな……)
タカオの家では、エンジがいつも使っている語録なので、タカオはうんざりしていた。正直、性夜語録のゲシュタルト崩壊を引き起こすレベルである。
とりあえずタカオは話を変える。
「ところで、あそこで寝ている人ってだれだろうね」
「解らん。だが、中学生ではなさそうだな」
この教室の教卓の上で、ずっと1人の女性が眠っている。少なくとも、タカオ達が入るより前からである。
「ムニャムニャ、パフェがこんなに……。もう食べられないよぉ~」
やたらとベタな寝言を言いながら、寝袋の中でスヤスヤと眠っている。
「あひゃひゃ、(ピー)が(ピー)で(ピー)になってるよ……」
「寝言で放送禁止用語を連発する人なんて初めて見たよ」
こんな所で寝ているという事は、この学園の関係者なのだろう。
「こんな所さん!?」
「うるせえ!」
横で性夜語録を使う男子生徒が殴られているが、タカオはそれを無視して話を続ける。
「てか、もしかしてこの人、学園の教員なんじゃないのかな?」
「さあな」
とりあえず、この人が誰なのか解らないため、どう対処しようか悩んでいると、別の先生が1人入ってきた。その男性教師は寝てる先生に近付いて、教卓ごとひっくり返した。
「ななな、なに!?地震!?敵襲!?」
「津辺先生!!何で入学式に来なかったんですか!?」
「え、もう終わっているんですか!?遅刻しないように昨日からここで寝泊まりしていたのに……!」
男性教師は、ここで嫌な予感がしたらしく、津辺に尋ねる。
「一応聞くが、何時に寝たんだ?」
「深夜4時です」
「あのなあ……。君程の馬鹿は初めてだよ!」
「いやぁ~。それほどでも~」
「誉めてない!とにかくだ、君は新任だからまだ解らないかもしれないが、先生というのは、出来る限り生徒の模範と成らなければならない!分かったな!!」
「は、はい!!」
男性教師はそういうと、教室から出て行った。
「はぁ~。怖かった~。あの先生目つき悪いからハラハラしちゃって」
「そ、そうなんですか……。ところで、あなたは誰ですか?」
「私はこのクラスの担任、津辺美希よ。それよりも、いろいろと説明する事があるから、全員着席~」
津辺は生徒に座るように指示する。
「あー、皆席についた?なら始めるよ。改めて挨拶からしましょうか。本日よりこのクラスの担任をさせて貰います津辺美希です。これから宜しくね!」
津辺は、見た目的にはかなり若く、赤いショートヘアーにウサギの形をした髪留めが特徴的だ。赤い瞳は若々しさにあふれ、輝いて見える。背は160㎝ぐらいで、この世界の基準で言えば高い方である。
因みに彼女、胸元は平坦である。
「なんか今気に食わない事言われた気がしたのは気のせいよね。それよりも、私も皆さんと同じ境遇があります。去年大学を卒業したばかりなので、教師としては1年生となります。ですが、私とて大人です!困った事があれば何でも聞いてね」
「ん?今、なんでも「ちょっと黙れ」……はい」
例の語録を使う少年は気楽だが、他の人には気がかりな事がある。
さっき他の先生に叩き起こされ、寝ぼけて変な事を言ってた人のことをどうやって信頼すればいいんだ??
津辺はその雰囲気を察したのか、急にしょんぼりとしだした。
「さっきの件は、まあ、その、いろいろとあってね。仕方のない事なの」
(((急に言い訳を始めた!!)))
他の生徒はさらに脳内突っ込みをする。さらに状況が悪くなったのを察したのか、津辺は話題を変えた。
「じゃあ皆、話を始めるよ。まずはプリントを……ってあれ!?ごめんね皆、プリントを忘れちゃった。取りに行くから」
そう言って津辺は、プリントを取りに職員室に向かう。
津辺が居なくなったあと、彼女を叩き起こした男性教師が教室に入る。
「津辺先生。プリント忘れてますよ……。あれ、津辺先生は?」
「先程プリントを取りに職員室に向かいました」
「あ、今そのプリント俺が持ってるわ」
そう言うと彼は、プリントを全員に配る。
「これは今後の予定についてだ。詳しくは自分で読め。それにしても、ここから職員室なら往復2キロはあるぞ。いくら新人とはいえ、緊張し過ぎだな。お前たちもあまり緊張させないようにな」
そう言うと男性教師は、教室を出る。
その後、津辺を待つ間に、タカオ達はプリントを読む。
◆◆◆◆
●今後の予定について
・入学式の翌日(4月11日)に、兵士育成プログラムを始めるにあたって、戦場見学を行う。当日は例の日には該当しないため安全だが、現地での指示に従うこと。
・4月13日より、兵士育成プログラムを本格的に実行する。実践となる5月2日に向けて訓練を行い、武術を磨き、仲間同士の信頼を作り、ルールや基礎的な知識を教える。
・4月27日に技能テストを行う。クラス全員がこれをクリアすると、実践を行う。クリア出来ない場合は、5月のテストまで待つものとする。
・詳しい説明は、明日の午後1時、見学の直前にする。
クミライ学園長 伏見創太郎
◆◆◆◆
数分後、津辺が戻ってきた。2キロも走っただけあって、息を荒くしている。
「ま、まさか職員室にプリントが無いなんて……。て、なんで皆持ってんの!?」
「さっき別の先生から貰いましたー」
タカトモが津辺にそう言うと、津辺は倒れ込んだ。
「嗚呼、せっかく職員室まで走っていったのに……。現実はいつも残酷だね……。ははは……」
虚しそうに笑う津辺を見て、タカオ達は何も言えなかった。だが、全員がこう思った。
(入学早々面倒な事に巻き込まれた……!!)
「ご、ごめんね皆。ちょっと心の整理をしてくる」
◆◆◆◆
☆雑談タイム☆
ケイタ「タカオ、どうせ暇だろうし他のクラスメイトの紹介をするぞ」
タカオ「あ、うん。お願い」
ケイタ「まあ、俺の知ってる範囲だけだがな。まずは1班だな。リーダー格は庭瀬テリナだな。あのロングヘアーの女の子だ。アイツの笑顔は怖いぞ。」
テリナ「怖くて悪かったわね(ボソッ)」
ケイタ「なんか今寒気が……。それよりも、あとは知らないから2班の紹介……俺らの班か。ならあのオカルトメガネと残念なイケメンはお前の兄弟みたいだから、紹介するのは1人だけだな。トモスケの前の席は、雨霧コノハだ。背はかなり低く、顔もよく、幼い感じがするな。ところで、彼女の周りにはよくロリコンが集まるんだな。一応聞くがタカオ、お前ロリコンじゃないよな?」
タカオ「その点は安心して!僕はロリコンじゃないから。二次元の妹萌えです!まあ二次元じゃないけど、妹の夢は叶いました」
ケイタ「(それはそれで危ない気が……)まあ彼女は優しいから、何か困ったら相談に応じてくれるかもな。
後は、3班の庭瀬ハナヤ。アイツは某テニスプレイヤー並みに熱い男(物理)だから、火傷には注意だな。
それから、4班の備中ニヤマと備中ヤタカの兄弟は、あの有名な備中財閥の人間だ。仲良くなれば、将来就職に有利かもな。仲良くなるのなら、ニヤマよりヤタカの方が優しいし、しかもお前と同じオタクだから、そっちをお勧めするぞ。
それから、5班は個性豊かだな。俺の口では説明しきれないから、詳しくは本人にでも聞いときな。
6班は、名胡桃ショウキは注目だな。彼は私立探偵をやっているらしく、頭はかなりきれるぞ。あと、蓮池メグムは、アホな事ばかり言ってるいじられキャラに見えるだろうが、余り怒らせないようにな。
っと、そろそろ津辺先生も回復したかな?」
◆◆◆◆
「よし、心の傷回復!今からそのプリントの説明に入ります!」
(プリントの説明に入るだけで30分もかけるのか……)
津辺は30分経ってようやく話し始める。周りの面子は既に待ちくたびれてるようだ。
「プリントにも書いてある通り、明日は戦場見学が予定されてます。予定では、このクラスは水島南工業地帯を見ることになります。クミライ学園の西側、六口山の麓にありますね。詳しいことは明日話します。でも良かったね。水島南工業地帯で防衛する部隊の中に、あのジンタクが含まれてるらしいよ」
ジンタク。その言葉を聞いて、周りの雰囲気が変化した。タカオは何故か分からず周りを見渡すと、ケイタがそれに答えた。
「ジンタクさんは結構有名だぞ。100年に一度の人材とも言われ、たった1人で1000人を相手したこともあるらしいぞ。お前ニュースとか見ないんだな。彼は今のクミライ地区の誇りだぞ」
「へー、そうなんだね。だから皆興奮してるんだね」
周りを見ると、皆が目を輝かせながら話を聞いている。津辺はそんな様子を見て一安心したのか、笑顔になっている。
「それじゃあ皆、今日はここまでだから、明日に備えてゆっくり休んでね!」
もしかして先生は、僕達が例の敵襲で精神的に疲れているのを知って、それを紛らわせようとしたのか?
タカオはふとそう考えた。思えば先程からの津辺の態度は、皆お呆れさせるようなものばかりだ。津辺はそれをわざとしている可能性がある。まあどっちみち精神的には疲れるけど。
「じゃあ皆、さようなら!私は帰るね!」
「の前に津辺先生。ちょっといいかな?」
津辺が教室から出ようとすると、そこには津辺を叩き起こした男性教師が立っていた。彼は何やら分厚い紙を持っているようだ。それを、津辺に見せる。
「えっ……」
◆◆◆◆
「あんまりだ~~~!!」
津辺は報告書を書かされていた。隣には男性教師が鬼の形相で立っている。そのため、誰一人としてこの教室から出れない。
「どうしてこんなに報告書を書かないといけないんですか。先輩の悪魔、違法労働反対!!」
「じゃあ言うが、教師たるものが、本来の役割を放棄し、教室で昼寝、事前の準備不足、最低限のルール(時間を守る等々)を無視し、自分の都合で授業を潰す。本来ならクビどころか教育委員会に訴えられるレベルだぞ。報告書で済むんだから、ありがたく思え!」
「じゃあせめて明日にしてください!今日は数量限定のパフェを食べに行くんですぅ!」
「知るかー!!」
それをまじまじと見る生徒達。正直、早く帰りたいのである。タカオはこんな様子をみて、不安になった。
「あの先生頼りになるのかなぁ……」
「パフェが、パフェがぁ~!!」
「うるせえ!!」