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第2話 謎の少女

A.D.2513 4月1日 土曜日 PM7:00 松本宅


「フォーホホー↑↑↑今日は最高のナイトだぁーっ!皆踊れー!ほら画面の前のお前らも踊れよ!宴の始まりだー!ヒャッハー!」


(なんで出だしからこんなハイテンションなんだ!?てか、画面の前のお前らって誰だよ!?)


 何故か酔っ払ってハイテンションになっているエンジ。タカオ達はそれを見て呆れている。そして……


「お兄ちゃん……」


 タカオに寄り添うように、1人の少女が眠っていた。その少女とは血の繋がりなんてものは無いのだが、タカオの事をお兄ちゃんと呼んでいる。


 思えば、いったいどうしてこうなったんだろう……


 タカオは、夕方に起きた事を、もう一度振り返ってみることにした。


◆◆◆◆


 その日の夕方


「何だこの幼女!?」


 エンジは目の前にいる幼女に向かってこう叫んだ。まあ、突然自分の家から出てきたのだ。無理もなかろう。


「おかしいなぁ……。この家には誰もいない筈なんだけどなぁ。ねえ君、どうしてこの家にいるの?」


 カイトは彼女に優しく話しかける。やはりエンジよりカイトの方が兄として頼れると3人とも思った。


「なんか前回からタカオ達と地の文酷くない!?」


(エンジ兄さんは誰に向かって話しかけてんだ……?)


 タカオは何故か突然叫びだすエンジを横目で見たが、すぐに少女の方に目を向ける。


 少女は無垢な瞳をこちらに向け、何かを伝えたそうにしている。この感じ、やはりどこかで……。


 タカオがまたなんやかんや考えている途中で、少女は喋り始めた。


「私の名前、ハル。よろしく、お兄ちゃん」


「あ、うん……。って、お兄ちゃん!?」


 お兄ちゃんという単語に、カイトを含めその場にいる誰もが驚いた。なおカイトは驚いても無表情だった模様。


 この少女は、一通の手紙をカイトに渡した。カイトがそれを読む。


「どれどれ……。『この度は誠に身勝手ながら、私たちの娘を暫く預かってください。私たちはとある組織により命を狙われており、このままでは娘にも危害を与えかねません。そのため、数年間娘を護ってください。』だとよ」


「命を狙う組織か……。そんな組織があるんだね……」


「このご時世だ。仕方ないだろう。兄貴、どうする?」


「預かりたいのはやまやまだが、家計的な問題がなぁ~。それに、このご時世だし、ひょっとしたら君が悪い組織の人じゃないのか?」


「あ、あとこれ、お母さんから渡された」


 エンジの話を無視して、ハルと名乗る少女は紙を渡した。


「え、なにこれ?小切手か?しょーもない額だったらお前を家族にしないぞ」


(兄貴大人げなさすぎだろおい!!)


「えーと……。5000万!?…いい子だねぇ!よし、君は立派な家族だ!」


(ほんと大人げないな兄貴!!いっつも兄貴が言ってる『人間の屑』って兄貴自身じゃないのか!?)


「よしお前ら!今日はパーティーだゾ!」


「はいはい、分かりましたよ。(こんなんだから兄貴は普段から酷い扱いを受けるんだよ)」


 エンジは散々人間の屑っぷりを発揮したあと、1人で家に入った。


 タカオ達はそんなエンジを見て苦笑いをしている。先程まで緊張してカチコチだったのだが、今はその緊張も消えているようだ。


 もしかして兄貴のあの行動は……


 カイトは3人を見ながらそんな事を考えていた。カイトはタカオ達と比べてエンジといた時間は長いため、エンジの考えてそうなことを理解できた。


「兄貴も不器用な奴だな……」


「ん?どうしたの、カイト兄さん?」


「いや、兄貴の悪口を言っただけだ」


 カイトはエンジを見直したが、そんなカイトの横をエンジが通り過ぎる。


「兄貴!どこ行くんだ?」


「買い物だ!ビール!ビール!あんだけ金貰ったんだ!使いまくろうぜ!」


(やっぱ屑だこの兄貴……!)


◆◆◆◆


 そして、ビールをさんざん買いまくったエンジは、家で意味不明な発狂をしているわけだ。


「エンジ兄さんは相変わらずだなぁ」


「ほんと、兄貴にはもう少しちゃんとしてほしいな」


 まだ踊り続けているエンジを見て、カイトは頭を抱える。


「兄貴には俺の事も考えてほしいな。明日住民票とか届け出なくちゃいけないんだぞ」


「カイト兄さんも大変だね。(ダルそうな声でも無表情だ……)」


 タカオはそこまで話すと、段々眠くなっていったようだ。


「もう寝るよ~」


「おう。お休みー」


 タカオ達4人が部屋から出る。それをエンジとカイトは見送る。


 4人が出たのを確認してから、エンジはカイトに話しかける。


「今回の件はまたあれかい。国が関わってるのか?」


「何の事かな?」


「とぼけるな!お前は政府とも繋がりはあるよな?そのルートを使っているんだろ。第一、命を狙われて、俺達に保護されて5000万も渡せるなら、もっといい機関に頼ってもいいだろ!」


「兄貴。たとえ俺が国の命令でそんな事をしていたとしても、それが何の為になる?あんな少女1人に国が頼るのか?」


 カイトは、エンジの話をばかばかしいと言いながら、部屋から出る。


 部屋に1人残されたエンジは、ボソッと呟く。


「昔のカイトはあんなヤツじゃなかったのにな。アイツは1人で戦い続けてるんだろうな……」


◆◆◆◆

 家から出たカイトは、ポケットで何かが揺れている事に気付いた。誰かからスマホに着信があったようだ。カイトは電話に出る。


「もしもし、松本カイトです」


『私だ』


「相変わらず名前も言わないんですか?霜降しもふり総理」


 カイトが今電話をしている相手は、2513年の日本の総理大臣だ。何故そんな人物がカイトに電話をかけたのか。それには理由があるのだが、それはまた別の話。


 カイトは霜降からの話を聞く。


『君にも以前話したと思うが、この国は予想通りことが進んだ場合、破滅に向かう。いや、この世自体が“(ゼロ)”を向かえる。そうなる前に出来るだけの対処はしておかなければ……』


「総理は本当に世界が破滅に向かうとお思いなのですか?」


『彼の予言を信じるんだ。これまで、2100年の第三次世界大戦、2150年の国家存続戦争、2420年の日高戦争勃発等、彼の言った多くの事件は当たった。そして、“2513年5月18日、世界的組織が日本にある巨大学園を兼ね備えた都市を攻撃し、1人の少年が死ぬとき、世界は零に戻る”と言っているんだ。これに該当するのは、おそらく“倉敷未来都市開発地区”とみて、間違いは無いだろう。よって我々は、フェイズ8に移ることにした』


「そうですか。それと、もう一つ聞きたい事が……。あの少女は誰ですか?そして、何の目的で来たのですか?」


 カイトがそう尋ねると、霜降は気難そうな声をだした。


『それを聞くか……。今はその事については言えない。だが、いずれ解るだろう……』


 霜降は電話の最後に、こう言った。


『我が国の生き残る術は、創世者に頼る。それだけだ』


◆◆◆◆


 また、夢を見ていた。見覚えは無いが、教室のようだ。その中で1人、椅子に座っている。周りに人は居ない。だが、赤い何かがあるのは解った。その赤い塊は、椅子に置かれており、椅子からは絶えず赤い液体が出ている。

 その状況は理解できた。だが、動く事は出来ない。叫ぶ事も出来ない。まるで、この目の前に広がる光景は劇の舞台で、僕はそれに関わる事の出来ない傍観者のようだ。

 僕は内心その状況に焦っていると、どこからともなく影が近付いてきた。そして、その影は話しかけてくる。


「夢の中に失礼するよ。松本タカオ君」


 夢の中で影が話しかけてくる事は前にもあったが、今回の影は前とは違う影のようだ。前の影は高貴な感じで優しく話しかけていたが、この影にはどこか殺気を感じた。だが、それが僕に向けられているわけではないのは口調的には間違いない。誰に向けた殺気なのだろうか。


「おやおや、殺気が出ていましたか?すみませんねぇ。この殺気は決してあなたに向けている訳ではありません。安心してください」


 この影は僕を落ち着かせるように話しかける。

 それにしても、この影は何をしにここに来たのだろうか。このリアリティからして、ただの暇つぶしとは思えない。


「それでは、本題に入ります。松本タカオ君、君は今のままでは確実に、ただの傍観者になるだけだ。この夢のようにね」


 この影は何が言いたいんだ?


「今から君に力を与えよう。このペンダントを君の机に置いておくから、肌身離さず持ち歩くようにね。あと、5月18日、この日は君が入る部活の部長のもとに向かいなさい。今言えることはこれだけですね」


 影はそう告げると、ゆっくりと僕から離れていく。

 最後に影は後ろを向きながら、こう話しかけてきた。


運命さだめを自らの力で変えてみなさい。松本タカオ君」






 その後、目が覚めた時には朝の6時で、僕の新しい部屋のベッドの上にいた。さっきまで赤い物と影しか写してなかった瞳は既に朝日と部屋のアニメ関係のポスターを写すものとなっていた。

 僕の隣では、昨日義妹となったばかりのハルがぐっすりと寝ていた。というかなんで僕のベッドに入ってるんだろう。

 机に目をやると、そこには赤く輝くペンダントが置いてあった。そのペンダントを首にかけ、ハルを起こした僕はリビングに向かった。


 その後、僕は見た夢の内容を殆ど忘れていた。覚えているのは、ペンダントを肌身離さず持ち歩くことと、5月18日に何かが起こるということだけだ。


◆◆◆◆


4月10日 月曜日 AM7:00


「おーい、お前たち準備はえーな。入学式は9時からだろ」


 エンジはもう既に制服を着ているタカオ達を見て呆れている。カイトは「いつも会社に遅刻するどこかの誰かよりはマシなんじゃないか?」と言っている。


「余計なお世話だ。それよりも、お前ら緊張しすぎじゃないか?」


「さっきから手が震えてカメラを5回も落としてるどこかの誰かよりはマシなんじゃないか?」


「うるさいなカイト。人間の屑は二度刺す」


「あ゛!?」


 朝からこの2人はうるさいようだ。2人が喧嘩している間に、タカオ達は残っていた準備を終えた。


「兄貴、俺はこれから仕事に行ってくる。タカオ達をちゃんとカメラに収めろよ」


「はいはい。んじゃ、行ってらー」


 カイトは先に仕事があるらしく、1人先に家を出る。


 タカオは今、そわそわしている。遂に待ちに待った学園生活が始まるのだ。


「学園生活かぁ~。いったいどんな生活を送れるかなぁ」


 タカオは今後を待ち遠しく思っている。新しい地で新しい生活。期待と不安が入り混じる。ワクワク、ドキドキする。


 唯一気がかりなのが兵士育成プログラム、俗に言う徴兵令だが、それも今は気にしなくて良いだろう。タカオ達はそう考えていた。


 だが、戦争の影は確実に、近付いていた。














『こちら、防衛省。8時50分現在、ロシア王国より、シベリア上空を南北に横切る物体をレーダーにて捉えたとの情報が届いた。このまま進んで行けば、30分後には東瀬戸内エリア岡山県上空に着くだろう。この飛行物体をあの組織の物だと断定。これにより、自衛隊及び岡山県特殊防衛軍に対し出動を要請する』

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