第5話 珍事件
よろしくお願いいたします。
日間ランキンキング30位に入れました! 皆様には、心から感謝申し上げます!
「次は、どこだ? えっとーー2階の廊下の清掃だな。よし行くか」
本日もいつも通りに、使用人として働いている。ここに来て1ヶ月が過ぎ、この環境にも慣れてきたとこだ。
そういえば1週間前に、屋根の上で捕らえた刺客はどうなったのだろう? まぁーーよくて終身刑ってとこかな。大貴族の令嬢を狙ったんだ、普通なら即日死刑だからな。
そんなことを思いながら、2階に着き、雑巾で窓の縁を拭く。
その時、俺の後ろをある男が通り過ぎ、挨拶をしてきた。
「お疲れ様っす」
「お疲れさま・・・ん? ちょっと、待って」
「はい?」
俺は持っていた雑巾を落としてしまった。
なぜなら、その挨拶してきた男は、先ほど考えていた、刺客の男だったからだ。
◆◇◆◇
あたしは、クラリス・サーデント! シャムール侯爵邸に仕えるメイドにして、屋敷を守護する『蒼空騎士団』の主席騎士だよ!
いきなりだけど、この度あたしは、とある人の弟子になったんだ。
川辺で倒れていた変な奴が、ソフィーお嬢様に気に入られ、護衛を任されたらしい。
お嬢様の護衛は強い者にしかさせないのがここのルールだから、そいつの実力を知るために、騎士団長に命じられて手合わせをさせられたんだ。
自分で言うのもなんだけど、あたしって結構強いんだ! 半年前の騎士大会個人戦では第2位に輝く実力者。つまり、この帝国に数ある騎士団の中で、2番目に強いってことだね。
そんな私が、手合わせするに値しない相手だとは、正直思ったけど、命令だったら仕方ない。
だから、手合わせを受けることにしたんだ!
さっさと終わらせて、訓練に戻ればいいと思ったからさ!
・・・でも。
結果は、私の負け。いや、完敗だった。
どの角度からの攻撃も、簡単に防がれてしまった。
赤子の手をひねる様に、あたしは彼にコテンパンにされた。
というよりも、多分遊ばれていたんだと思う。
あたしはそれと同じ様な経験をしたことがあった。2年前、あたしがまだ田舎から出てきて間もない頃。帝都である男と戦ったんだ。
誰かって?
そう、あの最強の暗殺者として名高い、マスターリーパーだよ。
帝都の裏路地で、偶然にもあたしの前に降りてきたあいつに、あたしはいきなり切りかかった。
地元では負け知らずだった自分の腕を、この国で最強の人に通用するか知りたかったんだ。
でも、その時も適当にかわされ、腹にパンチをくらって失神してしまった。よく考えれば、あたしはあの時、死んでいてもおかしくはなかったね。バカだな〜、あたし。
その体験と、今回の手合わせはなんか似ている気がする。あたしは、彼がマスターリーパーに匹敵する強者だと、魂で理解した。
だから、弟子入りさしてもらったんだ。
彼といれば、もっと強くなれる気がする。あたしは、そう信じて疑わない。
いつか、あのマスターリーパーに雪辱を果たすために、あたしは強くなりたいんだ。
とまぁーー説明は長くなっちゃったけど、とにかくそういうこと!
それで、あたしは今2階の廊下に向かっている。
なぜかというと、今師匠が掃除をしているはずなので、早く終わる様に手伝って、稽古をつけてもらおうと思うんだ!
あたしは、階段を登り2階に着いた。すると、廊下の方から怒鳴り声が聞こえてくる。
あたしは、走ってその場所に行くと、なんかよくわからないことになっていた。
「なんで、てめぇがここで働いてんだよ! あれか? 脱走か? いい度胸だな、なら処刑人に変わって、俺が殺ってやる!」
「ひぃぃぃぃ! 違うんです! 僕はここで働くことを許されたんです! やめて下さい! 剣を近づけないでください!! 誰か助けてーー!!」
「なにが"僕"だ? てめぇ、一人称"俺様"だっただろうが! キャラが崩壊してんぞ、くそ野郎!」
師匠が男の胸倉を掴み、喉に黒い短剣を喉に突き立てている。それより、なんであの刺客の男、ここにいるの?
まぁいいやーーとりあえず、止めなきゃ!
「師匠! ダメでだって! せっかく掃除したのに、また血で汚れちゃうよ!」
「大丈夫だ、クラリス。少量の血で済むように、心臓を一刺しして、そのまま抜かなければ、大丈夫だ! 俺に任せろ」
「やめてくれ!!やだー! 助けてお嬢様!!」
「なにがお嬢様だ? てめぇ、1週間前にそのお嬢様を暗殺しようとしてただろうが! 今すぐ、ご先祖様に合わせてやるから、目をつぶれ!」
なんだか、収拾がつかなくなっちゃった。今にも師匠は、刺客の男を殺っちゃいそうだし、あたしじゃ、どうすることもできないし。
ーー誰かー!助けてー!
と、心の中で叫んだその時。
「待って下さい、イムさん! 私の話を聞いてください!」
「イスマイール君! 早まってはいけない! その気持ちは分かるが、とりあえず落ち着きたまえ!」
あたしの願いが通じたのか、廊下の向こうから、ソフィーお嬢様とデニス騎士団長がやってきた。
お嬢様を見た、今にも殺られそうな男は、大声を上げ助けを求める。
「お嬢様! 助けてください!! 頭のおかしい奴に殺されかけてます!!」
「オッケー、オッケー。お前は、心臓一刺しの刑から、四肢切断の刑に変更だ! よし、ここだと汚れるから、外に来い!」
「助けてぇぇぇ!! 殺されるーー!! お嬢様ぁぁぁ!!」
「うるっせ! さっと来るんだよ!!」
この場に到着したお嬢様と騎士団長は、師匠を諌め始める。
「イムさん!! 違うんです! この人の言ってることは、本当です!」
「そうだ! イスマイール君、この男は当屋敷で働くことになったんだ! だから、剣を収めてくれ!!」
「てめぇ! お嬢様と騎士団長を誑かしやがったな!! 腹割きの刑も追加だ!」
なんか、師匠の方がキャラ崩壊している気がしてきた。師匠って、あんなに喋るっけ?
その後、お嬢様と騎士団長、そしてなんか分かんないけど、あたしも混ざって師匠を落ち着かせる。
しばらく、深呼吸して落ち着きを取り戻した師匠は、その男を睨みつけている。
「それでーー説明してくれますか? お嬢様」
「えっとですねーーなんかこの方の尋問に参加したところ、頭を地面に擦り付けて、命乞いをしてきたので・・・」
「それで?」
「持っている裏組織の情報と引き換えに、当屋敷で雇うことになりまして・・・とまぁ、そんなとこです」
お人好しだよね、お嬢様って。あたしも、つくづく思ってたんだけど、雇う人ぐらいちゃんと選別したほうがいい気がする。
「そうですかーーなら先輩として、みっちり指導してやらなければですねーーふふふ」
師匠が不敵な笑みを浮かべる。
てか、師匠もここ来て1ヶ月しか経ってないよね?
そんなこんなで、この混乱は治った。
なんか、このことでまた一波乱おきる気が、しないでもないけど・・・。
◆◇◆◇
なに考えてんだか・・・。
折角、未然に暗殺を防いだのに、これでは全く意味がないじゃないか。
俺は、昼間に起きた珍事件に、向っ腹を立てながら、与えられた部屋のベットで横になる。
外は既に真っ暗で、虫たちの声が聞こえてくる。このシャムール侯爵邸は、ソフィーたちが住む本館と、使用人やメイドたちが住む別館に分かれている。
俺はソフィーの護衛という立場から、本館のほうに、1人部屋を用意してもらった。
使用人の部屋にしては豪華すぎると思ったが、シャムール侯爵家の力を考えると、このぐらいは当たり前なのだ、と理解した。
俺はベットから起き上がり、窓の方へと足を運ぶ。
月が綺麗だ。
血なまぐさい話ではあるが、月が出る時、それは暗殺に最も適した時間帯だ。
闇に紛れ対象を殺し、血を月が照らす。そんな日々を過ごしてきた、俺にとって、普通に月を見るのはなかなかに新鮮だ。
綺麗な月に、心が和むが、やはり昼間のことを思い出してしまう。
「本当に、お人好しだよなーーソフィーって」
悪口ではないが、それに近いものが、口から出てしまう。
自ら、危機を招いていると言っても過言ではない。でも、それをしてしまう彼女は、根っからの優しい人物なんだろう。
かく言う俺も、その人柄や志に魅せられ、暗殺を断念した1人だしな。
「あれ?・・・俺もその殺そうとしていた1人じゃん」
急激に、変な罪悪感に襲われる。
・・・ま、まぁあれだ・・・寝よ。
明日にでも、少し謝っておくか・・・。
不本意な謝罪をする事を決めた俺は、ゆっくりと夢の中に落ちていった。
ありがとうございました。