第15話 4年ぶりの手合わせ
よろしくお願いします。
ーー間に合って良かった。
先ほど、この場所から嫌なものを感じた。それは殺気とは、あまりにもかけ離れているものだった。
この体にまとわりつくような嫌な気配の正体は分からなかったが、とにかく常人では発することが出来ない。そんな感じのものだった。
だから、俺はこの場所に急いだ。すると、そこには1人の男から逃げようとしている見知った2人の男女がいた。そう、サイモンとクラリスの2人だ。
そして、逃げる2人の後ろに奴が居たんだ。そう、俺の元部下である『狂人のサム』ことサム・ローズヴェルトが。
今にも2人に襲いかかろうとしていたのを見た俺は、サムに向けて殺気を飛ばした。
すると、サムは俺の方を向いてきた。
おかげで、サイモンとクラリスは、無事この場を離れることが出来たみたいだ。
大変都合が良くて助かる。あのまま、俺の戦いを見てたら、ついついボロが出てしまうかもしれないからな。
というか、喋ったら1発でバレるし。
てな訳で、俺は今サムと向き合っている。
あいも変わらず、気持ちの悪い笑みと喋り方は変わっていないみたいだ。
4年ぶりくらいか? まぁーーそんなこと、どうでもいいんだがな。
「久しぶりだな、サム」
「4年ぶりっすよぉ〜、元気してましたぁ〜? 先輩〜」
「あぁーー色々あったが、元気にやってるよ。それでこの4年間、お前はどこに隠れてたんだ? お前のことだ、きっとロクでもない所にいたんだろう?」
「はっはっはーーまぁ〜、そうだねぇ。とりあえずぅ、この国からは一時退避したんだよねぇ 」
なるほどーーどうりで見つからないわけだな。流石に、国外まで出られるとこっちとしても追うことは困難だ。
おそらくだが、隣国のマーシャル王国にでもいたんだろうよ。あの国は、帝国としょっちゅう戦争してるしな。隠れるには、もってこいの場所だろうさ。
「マーシャル王国にでもいたんだろ? 違うか?」
「ご名答ぉ〜。いや〜、なかなかいい国でしたよぉ〜。組織に縛られず、自由気ままに人殺しができてねぇ」
「ほぉーーならなんで帰ってきたんだ? こっちとしては、そのまま帰ってこないで死んでくれた方が有り難かったんだけどな」
「ひどいなぁ〜、これでも元部下ですよぉ〜? その言い方は、ないんじゃないですかぁ?」
「ふん、俺はお前が大嫌いだからな。俺の部下だった頃も、好き勝手して俺に迷惑をかけ続けた、最低の部下だったよ」
「先輩辛辣ぅ〜」なんて、ふざけたことを言っているが、実際本当に大変だったんだぞ。
『しっかり、面倒を見ろ!』と、よく上層部から怒られたもんだよ。
部下の失態は上司が拭う。なんて感じのことをよく言われた。だが、こっちから言わせれば、そんなこと知ったこっちゃない。
部隊単位で与えられた任務に失敗したのであれば、隊長だった俺に責任がある。でも、性格や私生活での失態なんて知るか。
まして、暗殺者なんて一癖も二癖もある奴らなんだから、そこの責任を取れと言われても困るんだよな。
「それでーーなんで帰ってきたんだよ? 俺に殺されにきたのか?」
「まっさかぁ〜、なんか王国にも飽きてきたんで、戻ろうかなぁ〜って思ったんですよぉ」
「ほぉーーなら、その考えが誤っていたことを教えてやるよ。まぁーーあの世で後悔するんだな」
「おぉ〜、こわっ。俺もぉ、まだ死にたくないんでぇ、抵抗しちゃおうかなぁ〜。ちょうど先輩と戦いたいところだったしぃ、一石二鳥ですよぉ」
お互い、腰を低くして相手の出方を伺う。
実力的には、俺の方が上なのは確実だが、油断は大敵だ。相手が素人同然の新人兵士や暗殺者候補生とかだったら、目を瞑っても勝てる気がするが、今回の相手は気をぬくことはできない。
なにせ、元とはいえ『黒天神兵』の中でも選りすぐりの人材を集めた、特別暗殺部隊に居たやつだからな。
そんなこんなで、3分以上俺たち2人はお互いに動かない。
だが、やっぱりと言うべきかしびれを切らしたサムが俺に話しかけてきた。
「先輩〜、早く殺し合いましょうよぉ〜! 来ないなら、俺から行きますよぉ〜!」
「来るなら来いよ、真っ二つにしてやる」
「へぇーーならお言葉に甘えてっ!!」
宣言どうりに、サムは勢いよく俺に突撃してきた。そして、真下から鋭い剣尖が襲いかかる。
常人ならこの時点で戦闘終了だろうが、この程度の速度なら避けることは容易だ。
俺は、片方の短剣でその攻撃を受け止め、もう片方の短剣を横に振り反撃に出る。
「うぉっと、あっぶねぇ〜」
当たり前っちゃ、当たり前だがサムも俺の攻撃をさらりと避ける。そして、後ろにジャンプして俺との間合いをとる。
「避けるなよ、さっさと死んでくれ」
「えぇ〜、それじゃあつまらないっしょ? 先輩クラスの強者なんてぇ、そうそうお目にかかれないからぁ、じっくり殺り合いましょうよぉ〜」
「お前はやっぱり狂ってるな。普通、自分より強い奴なんかと戦おうとは思わないだろ」
「いやいやいやぁ〜、俺だってぇ頑張れば先輩に勝てるかもよぉ〜?」
「そうかーーなら、やって見せてくれよ。朝、この世にいるのはどっちになるかな? 楽しみだなっ!」
次は俺が攻撃に出る。とりあえずと言ってはなんだが、まず右の短剣でサムの首を狙う。
当然、防御されるがそれも考慮済みだ。俺は2撃目をサムの右足に向けて放つ。
得物の数は俺が2本、サムは1本だ。さぁ、どう避ける?
すると、サムはニヤリと笑い俺の腕を掴んで俺の背後へと宙返りする。
そして、俺のうなじに剣を振ってきた。
だが、俺も振り向かずに、空振りに終わった左の短剣でガードする。
俺は、サムの剣を振り払い間合いをとる。
「いい避け方だーー腕は鈍って居ないみたいだな」
「はぁい、もちろんですよぉ。先輩も相変わらず、いい動きしますねぇ〜」
「ふんーー俺は最強であることに胡座をかかずに、鍛錬を続けてるからな」
「ひゆぅ〜、先輩かっこいぃ。それでこそ殺しがいがあるってもんだぁ」
ここまでは、いわばウォーミングアップってところだ。というより、この程度で殺られるわけがないしな。それに、狂ってはいるがサムも超一流の実力者であることに変わりはない。
ここからが、真の命の奪い合いだ。
唐突ではあるが、この一連の事件のリーダー的存在、『狂人のサム』との本格的な戦闘が始まろうとしている。
この事件の犯人たちは、おそらく素人ばかりだ。なら、頭を潰しちまえば後は烏合の集と成り果てるだろう。
これ以上にない、早期解決方法だ。
そのことに、気持ちが高まる。はっきりとはしないが、多分ソフィーが喜ぶ顔が想像できるからだろう。
「さぁ、始めようかーーお前にあの世までの片道手形をプレゼントしてやる」
「おぉーーそいつぁ、心踊るねぇ。でも、その手形は先輩にお譲りしますよぉ」
そして、遂に本格的な戦闘が始まった。
ありがとうございました。




