第10話 彼は闇夜に舞い戻る
よろしくお願いいたします。
深夜のシャンデル中心部を歩く俺。
周りに人の姿はなく、街灯が辺りを薄っすらと照らしてるだけである。
「さぁーー始めようか」
俺は、屋根の上に登り、周囲を見渡す。
今のところ、怪しい影や殺気の気配は感じない。
屋根から屋根を渡り歩き、怪しい人物がいないか目を凝らして確認する。
30分ほどそんなことを続けていると、少し先のところから、ピーーという笛の音が聞こえた。
猛ダッシュでそこまでいく。
そこに着くと、下の方の路地で1人の黒づくめの奴が衛兵に追いかけられている。
俺は屋根の上から、そいつを追跡する。
逃げ足が速いようで、衛兵たちはそいつの姿を失っているが、俺はそいつを補足し続ける。
しばらく泳がせていると、そいつは裏路地に入る。すると、そこには同じような格好をしている8人の人影があった。
意外といたなーー殺す分には、差し支えのない人数で有難いが。
1人あたり5秒として、1分もいらないな。
「よし、いっちょ殺りますか」
俺は、屋根からダイブして、さっきまで逃げていた男の背中に飛び乗り心臓を短剣で貫く。
その他のやつらは、驚くのと同時に一斉に攻撃態勢にはいった。
「何者だ!? 名を名乗れ!」
「死んでいくものに、教える名前なんてない」
俺はそいつらに突撃していく、俺に向かって数多の斬撃が放たれるが、器用にかわし、また心臓を狙って刃を放つ。
1人また1人と、殺していき、最後の1人を押し倒す。
押し倒された男の顔には、恐怖の色が支配していた。
「あんた、本当に何もんだよ。・・・っ!? 黒い装束に仮面と2本の黒い短剣・・・まさかっ、あんた・・・」
俺は一言も喋らない。ただ無言でそいつを見据えるだけだ。
俺に下敷きにされている、男の震えが伝わってくる。
「うそだ・・・うそだぁ!! やめてくれ! やだぁ! やだぁ!! 死にたくないぃぃぃ!!!」
「お前たちが殺してきた人たちも、同じことを言ってたんじゃないか? それなのに、自分が殺されかけたら、命乞いをするのかーー滑稽だな」
「ま、ま、ま、待ってくれマスターリーパー! なんでも話すぞ! 俺たちは総勢30人の集団だ! ほら、俺を殺すより、生かして情報を引き出す方が賢いだろ? なっ?」
「そうか、聞いてもいないのに情報の開示ご苦労、それだけ聞ければこっちは満足だ。元より、お前たちを生かすつもりはないーー死ね」
「待ってくれぇぇ!!」と男は一層騒ぎ立てたが、俺が剣を振り下ろと、その叫びは止んだ。
命乞いのせいで少しばかり時間をかけてしまったが、敵を残さず絶命させた。
すると、後ろから、足元で生き絶えている男の叫び声を聞いた衛兵たちがやってきた。
「動くな! 何者か知らんが拘束させてもらうぞ!」
俺はその衛兵たちを見据えて、こう言い放つ。
「こいつらが、最近起きている暗殺事件の犯人だ。俺が殺しておいたから、感謝しろ」
とそれだけ言うと、俺は屋根の上へと消えていった。
一仕事を終えて、バレないようにまた窓から都市長宅に帰ってきた。
マントと仮面をクローゼットの中にしまい。眠りについた。
◆◇◆◇
ーー朝、部屋を勢いよく叩く音で俺は目を覚ました。
「師匠!! 師匠!! ちょっと、都市長の執務室に来て!!」
「イム先輩! いつまで寝てるんっすかぁ? 早く起きてくださいよー!」
いつもより、深く眠ってしまったみたいで、クラリスとサイモンが起こしに来てくれたみたいだ。
「少し待ってろ」
と、着替えをして扉を開ける。
「おはようーークラリス、サイモン」
「あ、おはよ! 師匠、そんなことより早く来て!」
「そうっす! 早く行きましょ! イム先輩!」
2人に連れられ、都市長の執務室に着くと、ゲーデル都市長とソフィーが机に向かい合うように座っている。
「おはようございます、イムさん。 珍しく、遅起きですね」
「これはこれは、すみませんお嬢様。すこし、疲れてしまいまして」
「ふふふーーイムさんでも、そんなことがあるんですね」
まぁ、昔ならあの程度の戦闘で疲れるなんてことは無かったんだけどな。昔と言っても、ほんの1カ月ちょっと前だが。
後は、久しぶりの本格的な暗殺で気を張っていたってのもあるな。「俺が殺しておいた」なんて宣言したから、暗殺とは言い難い気もするけど。
「それで、どうしたんですか?」
内心、ここに集まっている理由がわかったが、あえて聞いてみる。
すると、ゲーデル都市長が答えてくれた。
「嬉しい知らせなんだか、悪い知らせなんだか、よくわからないことが起きてね。昨晩、一連の事件に関与してると思われる、9人の死体が発見された」
「ほぉ、それはいい知らせじゃないですか。でも、そいつらを殺した奴がわからないってことですね」
「そうなんだ、その人影を見た衛兵たちの証言では、かのマスターリーパーのような格好をしてたと聞く」
クラリスとサイモンは驚きの顔を浮かべる。都市長は困ったような顔をし、ソフィーは涼しげな顔してる。
一方、当の本人である俺はソフィーにならい、涼しげな顔をするように努めた。
「マスターリーパーか・・・あいつが、この都市にいるんだ」
「最強無比の暗殺者、マスターリーパー・・・。僕がいた暗殺者界隈では、神様みたいな存在っすよ」
クラリスとサイモンが、ブツブツと何かを呟いている。
ソフィーが、俺を見てすこし笑っているのが見えた。
からかうなよ、と言いたいところだがグッと堪える。
「それにしても、マスターリーパーですかーーこれまた凄い人が来ましたね」
「そうなんだよイスマイール君。内心、彼に金を払って、事件を解決してもらうって方法も頭に浮かんでね。今、そこらへんの葛藤で頭が痛いんだ」
無い髪の毛がせめてもの救いだろう。そのくらい、ゲーデル都市長は頭を抱えている。
すると、なぜかソフィーが、俺に向けてウインクしてきた。
「いえ、ほっときましょうーー彼がこの事件の犯人を裁いてくれるなら、こちらとしても万々歳です。ですから、彼のことを見かけたら、追ったりしないようにしてはどうでしょう?」
なるほど、俺が活動しやすくしてくれたみたいだ。
だが、その意見にクラリスとサイモンが声を上げる。
「ソフィーお嬢様! もしマスターリーパーが解決してくれたら、ちゃんと礼を言うべきだと思う! そうすれば、あたしは帝都でのリベンジを果たすことができる!」
「そうっすよ、お嬢様! 僕も、マスターリーパーのサイン欲しいっす! 是非とも屋敷に来てもらいましょう!」
1人は戦いたい。もう1人はサインが欲しい。
なんだろ? 頭が痛くなってきたぞ?
そんな俺を見かねた、ソフィーが救いの手を差し伸べてくれた。
「流石にそれは無理でしょうーー暗殺者を屋敷に招いたりしたら、当家の品格が疑われますし。そもそも、呼んでも来ないでしょう」
「そうっすか? お嬢様が声をかければ、喜んで飛んでくると思うっすよ?」
「・・・それは多分、私を殺しに来るんじゃないですかね? それなら、喜んでくると思いますが」
2人はしょぼくれる。何がそんなに残念なのかが、わからない。
「そっかー、無理かぁ・・・。 もう一度、戦いたかったんだけどな〜」
いや戦ってるよ? 兵練場でボコボコにしたじゃん。戦闘狂かお前は。
「そうっすね〜。サインの他にも、女性の落とし方とか聞きたかったんすけどね〜」
サインなんてやらねぇし、女の落とし方もしらねぇよ。上手な首の切り落とし方は知ってるけどな。
クラリスには呆れが、サイモンには殺意が沸く。
まぁーーそんな感じで、俺が昨晩したことは、いい感じに転がってる。
活動するのも楽になったし、このまま奴らを全滅までおいこんでやろう。
ありがとうございました。




