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2話 退院から始まる物語

 今日でめでたく退院だ。

 

 夏の象徴ともいえる地獄のような暑さ、窓の外は陽炎かげろうで景色がボヤついている。そんな熱い中俺は、大きなバック2つに着替えやらタオルやらをつめていた。見てのとおり支度だ。

 退院が決定したのはつい昨日のことで、長いこと学校に行ってなっかたせいか学校に行きたくないという感情が波のようにおしよせてきた。これは間違いなくアレの感覚に似ていた……それは夏休みだ!

 

 夏休みといえば学校に通う者のり所。最も長い休暇そして、それに伴うイベント。海、祭り、アイス、スイカ、浴衣、ラノベ、アニメ。正直夏の季語は、挙げるに挙げきれないくらい世の中に蔓延はびこっている。『俺はなにしよっかなー』とつぶやく。

「………アニメ………ラノベ………か」

 と、病室の鏡に映る自分に決め顔でそう言った。

 その男の顔には一点の曇りもなかった。

「……はぁ。すげぇよ俺、季語でも何でもない単語を選別するなんて……」

 俺は思った。壁にもたれ掛かり思った。

 

 心底二次元を愛してやまないのだと―――



「ふぅ」

 と額に伝う汗を手の甲で拭き取り一息つく。

 周りを見回すと、さっきまで自分の部屋と化していて、壁にはガムテープでとめていた【魔法少女と聖光影者ホーリークローン】のポスターがドンと貼られていて、ベッドには自分仕様のアニメのシーツに、肌蹴はだけた美少女がうつる痛々しい抱き枕が家からこの病院に移住していた。

 だがどうだろう、さっきまであんな黒いオーラを放ち、担当のナースさんにまで『入りたくないわ~』などと陰で言われているこんな部屋が、リフォームしたのかと見間違えるくらいな変貌を遂げている。

 あまりのできに、ナレーション口調でビフォーアフターの比較説明を行いたいのだが、それではドアの向こうの人達に聞こえてしまうと思い、ここは……”喜びの舞”(自作)で喜びつ祝いを表現することにした。

 

 それはもう………盛大に舞った………


 夏休みのことをついさっきまで考えていたせいか気持ちが高ぶったのだろう。

 

 と、そこでまたしても偶発的な事件が起こった………

 それは、ドアの向こうにあった。俺の病室のドアは何故か開かれており、その向こうには………怪訝けげんそうな顔をして立ち尽くしている姉の姿がそこにはあった。

 俺の姉、立木綾羽たてぎあやはは実の姉ではなく義理の姉だ。才色兼備さいしょくけんびという言葉が最も似合っている人物だ。恐らく俺はこの人以上に優れた人は見た事がない。成績も常に学年1位、下手すれば県内1位かも………それに胸は少し小ぶりなものの顔立ちもよく、運動もでき、学校では生徒会長なんてやっちゃってる非の打ち所のない完璧女子高生だ。非現実的すぎんだよ。萌えるだろうが………

 

 

「早く支度を済ませてください。お母さんが車で待っています」

 姉の冷たく他人行儀な声色こわいろに対し、俺は一度 会釈えしゃくし、支度を急いだ。

 見ての通り、姉からもあまり好かれていない。

 せっかくこんな二次元要素の多い家庭で生活しているのに、うまくいかない。

 そんな事を考えながらも、大きなバックを持って、ドアの向こうにいる姉の所へ向かう。

 お俺はドアの前で立ち止まり、回れ右をし、お世話になった病室に深く一礼した。

 その行動に驚いたような顔をする姉の姿が視界に入った。

 姉に目を合わし首を傾げ疑問顔を見せる。

 その行動に目を逸らし、何事もなかったかのように病院の出口を目指し歩き始めた。

 俺もその後ろを大きな荷物を抱え歩き出す―――


 

 

 退院から2日後、俺は2週間ぶりに学校の制服に着替えて、鏡の前に立ってマジマジと自分の格好を観察していた。全くおかしな行動ではない。だってそうだろ?およそ2週間も学校に顔を出していないんだよ? 普通の男子高校生なら、クラスの友達からの視線とか気にしたりするだろ?

 と、自分に言い聞かせる。

「ゆうちゃ~ん」

「は~い」

 朝食の呼び出しがかかる。うちでは決してごはんの時に『ごはんよ~』とは言わない。名前で呼びかけるか『お~い』と呼びかける。用事がある時は部屋まで来る。これがうちのルールだ。

 ネクタイをきちっと絞め、軽く上着に付いているゴミをはたく。

「よし!」

 鏡にうつる自分にガッツポーズを決め、1階のリビングへと下りる。


「おはよー」

「おはよー! ゆうちゃん」

 と、母さんと挨拶を交わす。まあ、ごく普通の事だな。

「ん~~………」

「むぎゅ~」

 と、母さんに一方的に抱きしめられる。まあ、普通ではないな。

 なぜだか分からないが、母さんは異様に俺を可愛がる。姉や妹も可愛がっているのだが、特に俺は2人以上に可愛がられている。

 母さんは俺を開放し、両手を大きく広げ、『召し上がれ』と語尾にハートでもつきそうな勢いでウィンクしながら言う。

 ちなみに、今日のメニューは、卵焼き、白米、味噌汁、漬物、といった朝の鉄板メニューとなっている。

「う、うん。じゃあ、いただきま~す」

 苦笑しながら、母さんが作った朝食を勢いよく食べる。

「おいしい」

 2週間ぶりの母さんの料理はマジでうまくて、思わず口に出してしまった。病院で出る料理は、栄養重視の料理ばかりで、母さんの作る手早くできる朝食にも劣っていた。でも実際母さんは、週に2回ほど料理教室を開いてたりする。だから、病院の料理を味重視にしても、勝てないだろう。母さんに勝なら、三ツ星レストランのシェフを持ってくるしかないだろう。それでもいい勝負かも……三ツ星レストランのオーナーで辛うじて匹敵するくらいだろう。

 俺の真正面の席に座っていた母さんは頬を赤くし満面の笑みを浮かべ、とても幸せそうだ。


「ごちそうさま」

 あっという間に机の上で催されていたパレードは幕を閉じ、ちょうど登校の時間となった。

 いつも通り鞄を……鞄を……

「あーーーーーーーーーーーーーーー! 」

 盛大に叫んだ。それは無理もないだろう。もうすっかり忘れていた…………

「どどど、どうしたの?! ゆうちゃん! 」

「い、いや! なんでもないんだ! じゃ、じゃあいってくるね」

 全く、なんでもなくない。これはとんでもないハプニングだ。妹に中二全開の技聞かれるとか、姉に喜びの舞を目撃されるとか、そんな小さな事ではなく、でも、とにかく母さんには言っちゃいけない。

 ある記憶が蘇る―――

 

 それは俺が小学6年生の春、新学期で他のクラスの仲良くなった安本君と外でゲームをして遊んでいる最中安本君が俺のゲーム機を落として壊してしまった。そのゲーム機は結構使い込んでいたせいか二つ折りにされたモニターを開く際、変な音をたてていた。それで俺も近々買い換えようと考えていたから、めちゃくちゃ謝ってくる安本君に『別にいいよ』と言って事は丸く収まった。


 だが家に帰り、いつもならゲームをしている俺が今日はゲームをしてなかったのを不思議に思い、母さんが声をかけてきた。『ゲームはどうしたの?』と、ここで俺は易々と安本君の名前を口にしてしまった。それを聞いた母さんは鬼の形相で電話の下へと向かい、ほぼ黄色で塗装された恐ろしく分厚い本をパラパラとめくりいきなり誰かに電話をかけ始めた。その後はというと…………『弁償』だ『裁判』だという単語を羅列られつした挙句『話にんりません! 』で話は終わった。


 俺と安本君の友情も終わった―――


 こんなことになる危険がある!だから母さんには言っちゃだめだ。

 とにかく学校に行って先生い話してどうにかしてもらおう。あんなの不可抗力だし、分かってくれるだろう。

 

 今日はどうにか無事に学校に着くことができた。まず一番最初に職員室に向かった。

「失礼します。富強ふきょう先生はおられますか」

「あーあー。立木君だね。退院おめでと。うんうん富強先生ー」

「は、はあ」

 愛想笑いで話を進行させ、定年まぎわの先生に一礼しておく。

 間もなく現れた完全無欠の美女(姉ほどではない)が現る。

「元気だったかー?しっかし何年ぶりだ~?」

 眼鏡を少し下にずらしながら、俺の顔のほぼゼロ距離まで近ずいてくる。

「はぁー……あのですね、何年も経ってませんから。2週間ですから!」

 先生のボケに少し怒り気味に反論する。

「あー………そうか、で、元気だったか?」

 素で忘れていたのか? と思うくらい自然的な返答だった………心配になるくらい。

「まあ、はい。元気でしたけど」

 少し心配しつつも返答する。

 こんな肩の力が抜けるような会話で完璧に中和されるように掻き消されていた本題を持ち出す。

「ところで、先生。少し踏み入った話なのですが………」

「なんだ? セ◯クスでもしたいのか?どんな体位でだ?」

 こんな突拍子もない返答に体全身が熱くなった。

「な!?なにいってるんですか!なわけないだろ!」

 ったくこのエロ教師……早く何とかしないと……欲求不満なのだろう。

「俺の鞄が盗まれたんです。教科書と鞄の注文お願いできますか?」

「そんなことか。できるよ。おっと、詳しくは放課後」

 そう言い残しそそくさとその場を去った。

 疑問に思い、時計を見た。背筋が凍った―――


 バタン! と大きな音を立てドアが勢いよく開く。

「遅れてすいません!」

 時間は2分ほど過ぎていて、朝のホームルームが始まろうとしていた。クラスの皆の視線が俺に集まる。

「……………………」

「えーっと」


 …………………………………………………………………………


俺は病院に入る前、学校でどのように過ごしていたか、病院でどのように過ごしていたかという疑問が脳裏のうりを過る。


………


 ハッ! 俺は思い出した。全てを―――


 ―――俺は病院滞在中、あまりにも暇だったので母さんに俺がまだ見ていなくて、話がすでに完結しているライトノベルを買ってきてもらった。題名は、【リア充のリア充によるリア充のための食物連鎖いきかた☆】である。最初見たときは『絶対オモシロクねぇな』と思ったさ……でも、やっぱ題名や外見だけで決めちゃだめだと思ってしまった。つまり、クッソおもしろかったです。

 否定できない。とても深い小説だった。


 どうやら、小説と現実がごちゃ混ぜになっていた。そこできずく。


 そうだった。俺には………友達がいないんだ―――


 知らぬうちに、リア充でないのにリア充だと思い込み、俺がもといた非リア充よりも格下に成り下がっていたってわけだ。


 自分で思う―――可哀そうだと―――



■ ■ ■


 立木家にて――――――

 リビングには、立木家の母である”立木さくら”と”立木 たける”の姿があった。

「そろそろ言うべきだわ………」

 さくらは不安と恐怖が入り混じった表情を浮かべ、猛にすがるように近寄り、崩れ落ちる。

「そうだな」

 冷静沈着れいせいちんちゃく。まるで動じない。

 冷たい空気が部屋を侵食していく。

 




 


  









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