1話 俺の憧れる異世界転生
季節は夏。とある河川敷に一人佇む男。名前は立木雄介、緩やかな風が吹き男の髪も靡く。
「遅刻だー。皆勤賞逃したーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
男は叫ぶ。途方もなく自分の過ちを深く後悔する。
俺は悪くない、俺は悪くない。わりぃのはあのクソババアだ! 人の事情もまともに知らねーくせして、ベラベラベラベラ話しやがって! それに加えてキャベツみてーな顔しやがって!てめーの居場所はここじゃねんだよ! 土に帰れよこのアマ!
おっと、皆勤賞逃したショックで理性を失いかけていた。いかんいかん、学校に行かないと。
「え」
気が付いたら黒ずくめの男に俺の持っていた鞄はお持ち帰りされていた。
「なんで男子高校生の鞄なんて盗むんだよーーー! パンツもブラも靴下も入ってねーーぞーーーー!」
黒ずくめの男に伝えたのはいいが………財布入ってるわ………
だが、安心した。その男は……鞄を捨てていた……
「な?! ぐ……持ち帰れよ……なんか…なんか…傷つくだろーーがーーーーー」
悲しいな、悲しいな。ひったくり犯に捨てられるって。
とぼとぼと鞄のもとに近寄る俺。途方に暮れる俺。
鞄の所にまた男が近ずき鞄を拾い上げる。
「あ、ありがとうございます!」
激励の言葉を交わし鞄を受け取ろうとした瞬間……走ってった……
「あんたもひったくりかーーーーーーーーーーい」
もういい…めんどくさくなってきた。学校行って警察に電話しよ。(携帯鞄の中)
はぁ、あと少しだ。今日はとことんついてない。
俺はいつも通りの道を行き、学校に行くには絶対通るコンビニ、セボーンを通過しようとした時。
「え」
ひったくり犯のつぎは強盗か?
セボーンには目だし帽を被った男がコンバットナイフを店員に向け脅している最中だった。
一度巻き込まれないように学校へ登校しようと試みたが、また戻ってきてしまった。
「あーーもう!本当についてないな。」
文句たらたらでセボーンの中へ入った。堂々と自動ドアを開けて。
「ピンポーンピンポーン♪」
「誰だーー?!」
「と、通りすがりの……英雄さ」
俺は決め顔でそう吐いた。当然犯人は唖然としている。そこで俺は脳をフル回転させる。
店には犯人1人、店員1人、客6人。といったところだろう。そして、犯人は相当焦っている…
「よし。プランAを実行する」
やべッ恥ずかしい。超はずい。自分で言ったのに……まあいい。
「おい! 強盗犯! 恥ずかしくねーのか!」
目全開に開きにして充血しているよ。やべえ、ちびる。
「頑張って働いている店員の可愛いお姉さん。コーヒー買おうとしてたサラリーマンのお兄さん。こん中の人はな!みんな頑張ってる人なんだよ!もちろんお前以外わな!」
やべえってまじで怒ってる……
「金が欲しいなら銀行強盗しろや! あーごめんごめん。そんな度胸ないな。てかなーお前がここで強盗なんざしてなかったら俺はこんなことに巻き込まれずにすんだんだよ!」
よしよし、い、今にも怒りそうだ。ここで決める!
「ほんッと~~に、だせえよ。」
よし、男の沸点に達した。
男は鬼の形相で俺に飛び掛かる。
「ガキがーーーーーーー知ったような口をーーーーーーー!」
だが俺は慌ててかわし、コンビニをダッシュで出ていくのを見て男もダッシュで追いかけてくる。
やべえ。捕まったら八つ裂きの刑だな……だが計画通り…だ。
「ハアハアハアハア」
男は無言で俺を追ってくる。怖い怖い怖い。まじで死ぬわ!
「ぱさだろくしあん!」
やばい。ずっこけちまった。しかもなんだよ!このうめき声は。
「いてッ!」
俺は足をひねっていた。というか変な方向に曲がっていた。
はぁ~~、死んだな。だがこのまま死んで異世界転生とかだったらいいな~、金髪エルフとか猫耳娘とか魔法少女とかドS王女とかハーレム生活が送れるなら本望だ……
「うぐッ!」
痛いというか苦しいな。意識が朦朧としてくる…暗いな。
「もっと……ラノベ……たかった……」
「…………………」
ここは………。窓から心地よい風が吹き、純白なカーテンがヒラヒラと動いている。ものすごく天気が良く夏だというのに熱くない温度が部屋の中を包む。
そこできずく。ここは病院だ。そして、俺は…俺は…異世界転生なんかしてないことを…
チクショー! ここは素直に喜ぶべきか、だが異世界転生してみたかった。いやいや神様ありがとうございます。僕を死なせないでくれて。
「邪悪なる力は我に纏いて猛き魔物を召還せよ《邪王炎龍術其の壱》」
「お、お兄ちゃん?」
最悪だ。なんと妹に見られていたらしい。少しだけ可能性を信じ、異世界魔法が使えるんじゃないかなと思いつい口にしてしまった。
「お、おう。琴美。元気してたか?」
「お、お兄ちゃん!」
琴美は目に涙を浮かべ抱き付いてくる。
「よしよし~心配かけたな~」
よし! さっきの出来事はもうかき消されただろう。
「で、お兄ちゃんさっき何やってたの?」
「ん~?」
ニコニコで琴美に聞き直す。
「だから~……んッ……お兄ちゃん?」
「琴美、人にはね聞いていい事と聞いちゃいけない事があるんだよ?」
俺は現在中学3年生の妹を抱きしめて言う。
「そう…なの」
「うん」
よし!今度は成功だろ!
「んな事分かってるに決まってんでしょーーー!」
終わった……
「琴美さん?」
「なに勝手に抱きしめちゃってんの?あ~キモイ!」
妹はいつもこんな感じである。家にいるときもどんなときも妹は…琴美は俺に対してこんな態度を取るのである。
結果的に異世界転生はしなかったが、異世界に行ってみて~な。