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アニメ:真男急襲伝 masao99 第**話『ラブレター』

【OPテーマ:無頼漢ぶらいかん 作詞/Yusha Edozou 作曲/セルフサービス】


《Aメロ:歌詞頭の一拍は前の小節から食い込んで入る》

「無機質なjungle ビル間の風浴びて 歩いてる

 浮き沈むWhole world 見せかけのはりぼて」


《Bメロ:R指定が歌う(ダメなら俺が歌う:※1)》

「蔓延る camping creeps 僕はそう 必要ない ってフリをする(※2)

 看板掲げたホームレス ヤツが言うには Hurry up, Gank me plz!ィェー

 セルロイドその向こう空の天井 届かない空想という脳の幻聴

 所詮この場所ならField of Justice, いやFalse islandどうせ恥と成す


 check it out, check it out, no no no!

 check me, no! let it go, let it goooooooooooooooo」


《Cメロ:あのいきなり静かな感じになる部分で、インスト→歌で1:1の比率となる》

「ナルシシズムの夜に 踏み潰した白雪の黒きに

 ナルシシズムの夜か 懈怠のうちに死を夢む

 今バッと通ったトラック(※3)の陽炎 ごと貫き破る閃光が見えた

 ような 気がした

 僕が もしも 無頼漢ならなあ―――――」

(ジャーンジャーンジャーン!ババッタカダカドゥルルルルルドゥルルルルタドッタッドドッ[*:ドラムin])


《間奏》


《Dメロ:といっていいのか分からないけど、サビの前に一瞬だけ入るイレギュラーみたいな部分》


「群れの中 隔絶に眼を 閉じてたのは

 彼には ずっと昔のこと 

(チャラララララ[*:ピアノの指を流すやつ]) キミは、」


《サビ》

「無頼漢 その右手に壊れた子猫を抱いて

 Dying-hard 左手で少女の心臓を潰した

 無頼漢 アフリカで子どもが死んでるとしても

 I never mind どうせ何もかもずっと今更の事

[*食い気味(多重録音)]明日には明日 イデオロギーを殺す

[*食い気味]血溜まりに立つキミ つまり

 無頼漢ぁ~~ん」


(ツアッ!ツァッ!ツァッ![※クラッシュシンバル叩いて即ミュートするアレ×3]

 タラドッタッドッタカドコタカドッ ベ ベーーーーーーーーン……)


※1:他は全部女性ボーカルが歌う。

※2:junglerが無頼漢ならば、彼にこそクリープは必要がないので、貰っても大丈夫。

※3:もちろんtruckと(この)trackを、同時に抜かりなく射程におさめている。

 電車が強くゆれ、吊り革も握れなかったわたしは足元に力を入れられず転びそうになる。だけど転ばない。身を任せる壁はいくらでもある。通勤するサラリーマン。通学中の学生。邪魔を省みず新聞を/文庫本を広げる人たち。ソーシャルゲームホリック。音漏れするデスメタルとヒップホップ。潰された誰かのごく短い悲鳴。たぶん心を病んでいて、独り言をいう人。舌打ちをする誰か。次は春日部です。東武スカイツリーラインをご利用のお客様はお乗換えになります。その乱雑さにまぎれて、はじめはスカートの上から軽く叩くように、それから太ももを手の甲でかすめるように、そして手のひらで僅かに撫でるように。その場所はゆっくり上がっているようだ。わたしはいま痴漢されている。

 学校のことを考えていた。わたしのクラスにはいじめがある。あるいは、いじめのようなものがある。わたしは当事者ではない。左前の席に座っている内梨くんは気が弱く頭の悪い子で、授業中にその頭に消しゴムを投げられている。休憩時間になれば不良たちに絡まれて殴られたり、お弁当を捨てられたりしていた。女の子の何人かは、わたしの嫌いな人たちだけど、それを見て笑っている。嫌な顔をしている子もいる。わたしもその一人だ。でもわたしに出来ることは無い。わたしはクラスの中心人物でバスケ部の副部長の神田くんの彼女ではなく、学級委員長でもなかったし、自分がクラスで孤立するリスクを負うには、わたしは友だちを多く作りすぎてしまった。それに上手く行ったとして、内梨くんに勘違いされて付き纏われることになるのも嫌だった(彼はそのような行動をし得る人間だとわたしには思えた)。

 痴漢の鼻息が首にかかる。その手はわたしのお尻の上で止まり、僅かに震えている。わたしはいま痴漢されている。それは不愉快なことだ。しかし耐えられないほどでもない。何をいまさら、この程度で?声をあげて他人に助けを求めることは何となく嫌だったが、自身で彼の手を掴んでやめさせるくらいは出来るつもりでいる。ただ彼はリスクを背負ってわたしに痴漢をしている。そのことを考えてしまう。わたしがこの手を掴むことで彼の人生は壊れるだろう。もしかすると妻子もいるのかもしれない――いない気がするけど、可能性としては。あるいは何が彼にそのリスクを背負わせるのか?女子高生の尻に触れることは彼にとって必然的な欲求なんだろう。彼の軌跡と環境が彼のその欲求を作り上げたことについて彼に責任はないように思える。誰かの曖昧な独り言が聞こえた。たぶんそれに対して、舌打ちをする別の誰か。わたしのこのわずかな不快感は彼の飢えに勝てるか?

 彼の手がふたたび動きはじめ、それは大胆さを増していく。わたしが怯えていると勘違いしているのだろうか?そう考えるとまた違った腹立たしさがある。それでもわたしにとっては依然として僅かな波だ。何をいまさら?だけど怯えているのは正しいのかもしれない。お前にではない。もちろん。取るに足らない塵のような悔しさはわたしの中に行き場を失くして積もり続ける。でもそれもいまさら改めて確認することでもない。わたしと彼の間だけではなく、わたしの軌跡において繰り返されてきたことだ。何をいまさら?

「(だから、そうだ。それだけではなかった)」わたしはいま痴漢されている。痴漢をする/されるの関係はわたしにとって彼が特別というわけではなく、彼にとってわたしが特別というわけでもない。わたし以外にもたぶん彼に痴漢をされた女の子たちがいただろうし、今後もまた増えるだろう。そしてたぶん、その子たちはわたしとは違う。

 横目で彼の姿を確認する。小柄で安そうなスーツを着た中年男性はどことなく内梨くんに似ていた。わたしは審判を下した。たぶん彼はまだ足りていないし、足ることもないとは思う。でもそんなの皆そうでしょ?次の駅に着いたら、それで終わりにしよう。それまでは、わたしのこの僅かな不快感を彼に捧げてあげるから。そうわたしが決心したタイミング、隣の車両との連結扉が開き、隣の車両から移ってくる者がいた。その男はブリーフのほかは全裸。鍛えあげられた肉体、その右腕に握られるのは巨大な《牛刀》である。

「まずは貴様からだ!!」虎の如きタイガースタンス!満員電車の人混みをモノともせず、男は牛刀を自在に操り、振り下ろしてプログレッシブ・デスメタルを音漏れさせているダサいバンTを着ている若者の頭部を粉砕複雑破壊した。

「血まつりにあげてやるぜ!!!!」飼い慣らされた羊の群れの如く都会の人々は無関心にして無抵抗だ。これが現代社会の病理。心を病んだ者は独り言を発しながら絶命し、舌打ちした男の頸部が真っ二つになる色がそれに続く。

「I HAVE NO MERCY!!(※和訳:私は慈悲を持っていません)」泣く赤ん坊も男は許さなかった!もちろん妊婦もだ!原罪を贖え。生は死に値する罪!モリはより多くの人間にメメントされるべきだ!

「KILLING YOU ALL!」ソーシャルゲームに夢中なオタクのコンボを途絶えさせる猛獣の如き一撃!タイガースタンス!血を重ねるごとにその牛刀は切れ味を増していく。牛刀男のフルコンボはもはや達成確実だ。

 無双乱舞は止まることはない。これは東武アーバンパークラインの悪夢。車掌も死んだ。新聞を読んでいるおじさんも死んだ。ヒップホップ音漏れ野郎も死んだ。痴漢男も死んだ。その指は死後硬直により女子高生のパンツの中に入ったままだったが、牛刀男はそれも気に入らなかったので引き剥がして殺した。

 もはや生き残りは一人だけだった。車両内の空気は血生臭く湿っていた。牛刀男と女子高生の眼が合った。

「……ところは、あるか」

「はい?」女子高生は男がなにを言ったのかわからず聞き返した。話をするつもりはなかったし、準備ができていなかった。

「どこか、行きたいところはあるか」

「……学校」

「本当に?」

「…………空――いや、海?」

 おう、と牛刀男が応えた瞬間、再び連結扉が開き、複数人の制服の男が血の車両に足を踏み入れてきた。

「警察だ!抵抗せずおとなしく射殺されろ!」警察だった。この国の警察は有能で、しかも銃を持っていた。しかし男は冷静に牛刀を投げて銃弾を弾き返す。日本は銃社会ではないから、男にはそれが出来た。弾き返した銃弾によって二名を無力化すると、女子高生を抱き上げて窓へと突進、ガラスを割って外へ飛び出した。線路の上に華麗に着地!

「待て!おとなしく射殺されろ!」「人質を解放して射殺されろ!」追撃の銃声を尻目に、いや尻耳にして高架橋を飛び降りる。着地地点すぐの路肩に軽トラが止められていた。ドンドンドン!とブリーフの男が窓を叩くと、喧嘩を売られたと思った金髪の男が扉を開け、ガンをつけてきた。「ナメてんのかコラ!すッぞコラ!」この世界には時に、命よりも重い誇りがある。血まみれの男に啖呵を切る金髪は勇敢だったが、徒手空拳によるみね打ちで頚椎を即時に粉砕された(これは個人的な見解ではあるが、頚椎が粉砕されてしまえば、臆病者と戦士の間にもはや差異は存在しない)。男はトラックに乗り込むと、女子高生を助手席に乗せ、エンジンをかけた。出発だ。ハードボイルドに。ブロロロロロロ……。


*


 車窓から夕焼けが覗き、朝から走り続けたトラックに返り血のにおいが充満していた。

『埼玉県の吉野市立吉野高校の爆破事件について速報が――』車内ラジオからニュース音声が流れてくる。

「……あ」女子高生がそれに不意に反応する。「わたしの学校だ」

「俺が燃やした」出発から数えて、二人にとって一回目の会話だった。「そう」そしてもう終わった。

 男は仮免許しか持っていなかった。曲がりくねった海沿いの山道を、対向車を踏み潰しながら走る。ガードレールの向こうの海、その水面に日が反射して赤く揺れている。あと岩礁。軽トラは崖の上、曲がり角の多い道を対向車を踏み潰しながら走る。目的地はすぐそこだった。「ぶち込んでやるぜ!!」アクセルを思いっきり踏み込む。軽トラは180キロでガードレールへ突撃する。デュエルスタンバイ。金属がぶつかり合い火花が飛び散る。崖の下では海中から生えた岩に波がぶつかってはじけた。0.01秒で軽トラが勝った。ガードレールの破片と共に軽トラは飛び、回転しながら落下していく。その重力に耐えながら男が尋ねた。「本当にここで良かったのか?」女子高生は頷いた。あなたの気持ちは嬉しかったけど、わたしはそれを許せるほど“悪人”じゃないと思うから――ほんとうに残念だけど。

 男はシートベルトを外し車外へ退避した。ブリーフに仕込んでいたパラシュートを起動させる。軽トラが煙をあげて落下していく。股間から煙草の箱を取り出して火を付ける。軽トラは海の岩に激突し、爆発四散した。ゴールデンバットは両切りの安タバコだ。その葉が舌に触れ、男は苦味を覚えた。

「失恋……ということだぜ」夕日だけがお前のわずかな涙を見ていた(しかしこれは個人的な見解ではあるが、夕日に自我はない)。


*

「狂気がほしい」ほの明かりの店内に他の客はなかった。必然として俺の言葉はカウンターの向こうのバーテンに向けられたものだったが、奴は無言で皿洗いを続けていた。

「柴田」俺は直接呼びかけた。「聞いてんのか?」

「……」

「柴田くん」再度の呼びかけに、奴は迷惑そうに手を払う仕草をした。

「……先輩、もう帰ってくださいよ。酒注文するわけでもないしよお」

「狂気がほしい。ウソでもいいから」

「そうですか」

「俺たちには“この為に生きる”そういうモノがどうしても必要だ。それがない人生は乗り越えられる気がしない」

「一緒にしないでください。就職して」

「働いてまで手に入れたい価値があるようなモノは何も思いつかねえよ」

「モノを見るのに価値とか利益しか判断基準がないの、鬱病患者の特徴らしいですよ。カウンセリング行ってきて」

「俺はまともだよ」

「狂気が欲しいんでしょ?薬貰えばいいんすよ。面倒くせぇな!」

「馬鹿いえお前……俺が言ってるのはそういう奴じゃなくて違うやつなんだよ。なんかこう……違うやつ」

 ……そして、あってないような会話が途切れた。

 携帯の充電は3パーセントだったが、ツイッターを開いてエゴサーチをする。どうやら誰も俺の話をしていないことがわかった。そしてリツイートで回ってきた話題だが、俺の最寄の路線の電車で、無差別殺人が起きていた事を知った。一つの車両が一人を残して牛刀で皆殺しにされたという。携帯のバッテリーが落ちた。俺もその現場に居合わせたかった。たぶん生き残れたと思うし、そしたら、なにかが見えたかもしれない。犯人の男は人質を連れて逃走中。根性のある奴だが、日本の警察は優秀だ。きっとすぐに射殺されるだろう。

「……柴田。水のお替りくれ」

「いやです」俺はコップの底の氷を口に含んだ。ゴリゴリという音と柴田が皿を洗う音だけ聞こえた。核戦争か大地震が、俺をさらっていってくれればいいのに。

一年位前にだいたい書き上げてから、OP曲を作れなかったので長引きました。作詞家はすげえや。


実在の人物や場所、組織に関係はないです。

俺の中の“masao99”は、“masao99さん”とはかけ離れた概念です。

あまりにも長いこと本物と接せれなければ、虚像は肥大化して独立してしまう。

そう、いうなれば初恋の人のように……。

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