霊なんて、要らないっ!
一気に書いてみた、短編。それも断片ですねぇ
夏向けか?と思って出しちゃいました。読んでいただけるとうれしいです。
とある日、フツーの休日で、フツーによくある話、一部では。(多分)
「ただいまー!」
初夏の日曜日の夕方に、大学のサークルで登山にでかけていた従兄の泰樹が帰ってきた。
「疲れた~!」と言いながら、玄関先にどっかりと置いた登山用のでかいリュックは埃っぽくて、更に焚き火をしたらしく、すえた匂いがする。
「ぎゃー、来ないでっ!ついでに荷物、家の中に入れないでねっ! 埃っぽい上に臭いんだからっ!!」
迎えに出た玄関先で、思わず叫ぶ。こんなのが家の中にあったら、泣くわっ!!
「晴花、お前、本気で冷たいよ。。。」
ぶつぶつ言いながらも、泰樹はすぐに家の外へ荷物を移してくれた。
「ふぅ、よかった。 おかえりなさい! 思ったより遅かったね。昨日のうちに帰って来るかと思ったのに」
臭い荷物から開放されて、ようやく安心して泰樹を出迎えた。
相模泰樹は従兄の大学生だ。今は親元を離れて近くに下宿している。男子にしては結構マメな方だが、家事全般をこなすには至らず、親類の我が家によくご飯を食べに来るのだ。今日も山帰りで自宅でご飯を作るのが面倒というので、我が家に呼んだのだ。
私、従妹で、高校生の藤原 晴花は、伯父さん達に頼まれて泰樹が最低限の文化的生活ができるようにお手伝いしている。伯父さんから送られてくる自家製野菜に釣られている訳ではない、多分。まあ、お野菜も高いですしねー、うふふふ。
冷蔵庫から冷たい麦茶を出して、大きめのコップでたっぷり入れて差し出すと、泰樹は、のどを鳴らしておいしそうに飲み干した。
「あー、生き返るわあ。 本当は、もっと早く帰って来ようと思っていたんだけどなー、
警察とか出て来て、色々と…」
不穏当な発言に思わず眉が寄る。コイツ、何をやってきたんだ?
泰樹は、私の3つ上だけれど、小さい頃からの付き合いで遠慮のない関係だ。ちなみに、恋愛感情は、まるでナイ。ダメなところを散々見てきたし、面食いで悪女好きのコイツが失恋してきているのも、散々見てきた。どんだけイケメンでも、惚れるとかないわー。
泰樹は、短く刈った髪に、小麦色に焼けた肌。スラリと伸びた長身は185cmあるらしい。アウトドアが趣味だけあって均整の取れた体つきをして、腕につけたゴツイ腕時計がよく似合う。高校生のときからよくモテていた。そして、私たち従妹は色々と被害を受けた。
私たちは、ラブレターや、プレゼントの配達人じゃないっ! …うん、忘れよう。最近はヤツが大学に行ったおかげで減ったんだし。
でも、泰樹が、トラブルメーカーであることに、変わりはない。
「警察?…犯罪に手を染めたなら、今すぐに家からたたき出す!」
「晴花、お前、俺をなんだと…」
「もちろん、従兄弟連中イチのトラブルメーカー!」
きっぱり言い切って、じろりと睨んでやると、泰樹は目をそらした。泰樹、あんたマジでなにをやったっ!!
「晴花が考えているようなことじゃないよ、俺がしたのは人助けですっ!」
泰樹があわてて言い訳をする。そう、言い訳にしか聞こえない。うーん、嫌な予感がする。
「下山途中で、以前に遭難した人の遺体をみつけちゃってね。それで警察署に届けたり、下山の手伝いしたりして、大変だったんだよー。」
「ふぅーん」
どうも、イマイチ納得いかないのは、泰樹だからかもしれない。
実際、山では遭難した人のご遺体にめぐり合う事がある。下山しようと道に迷って沢に落ちたり、森の中で倒れていることもあるのだ。とはいえ、そういう時は捜索隊もでるので、その捜索隊が見つけられなかった人を見つける。それはそれで、低確率だよね?
とはいえ、ウチは、寺社に親族が多く、それなりの能力を持つ人間も多い。泰樹の実家はお寺さんだ。
将来、こんなのがお坊さんになるなんて、不安でしかないよ。
「泰樹、お前、xx山へ修験に行ったんじゃなかったのか?」
おや、この低音で不機嫌は声は…
「あれ、楓太兄ちゃん、お帰り~。早かったね」
「げ、楓太従兄…」
我が家の長男、頼りになる楓太お兄様です。親族一同の中でも期待の星っていうのかな、頭はいいし、統率力もある。ついでに、ちょっとした能力もお持ちです。イケメンで能力者、チートって言うのかしらね、こういうの。
「なにをしてきた、御山で、泰樹!」
ん? 御山って、霊山のことだよね? でも、泰樹は確か…
「楓太兄ちゃん、泰樹は大学のサークルで、登山だって言ってたよ。だから、炊飯セット一式渡したし」
「晴花! シーっ!!」
うぇぇ、楓太兄ちゃんの機嫌が、ぐんぐん悪くなっている。ナゼだ…
「泰樹、お前は、夏に入山して修行する代わりに、霊山で修験をしてくると言っていたハズだな?」
「はぁ!?」
…修験って、簡単に言うと山伏さん達の荒行だよね。確か、五穀を絶って、水とかの制限もすごい厳しいヤツ。 大学のサークルでする登山とは、雲泥の差なんだけど。
「いやー、最初はそのつもりだったけどねー、折角気候もいいしさぁ、山頂に行って作ったトン汁が旨くって。その後に、沢で渓流釣りをしようと…」
ヘラヘラと泰樹は言い訳をしている。それって、ムダというか無茶というか。
あ、ダメだ。暗雲垂れ込めてきた、こんな時は多分、きっと特大の…
「炊飯セット一式もって、山頂でメシを食い、渓流釣りまでする周到さで、修行とかあるわけがないだろうがっ! この大馬鹿者がっ!!」
ガラガラ ピシャーン と落ちました、特大の雷です。
私は当然、耳ふさいでます。ええ、慣れていますから。楓太兄ちゃんの拳骨で机にめりこんでいる泰樹を見ながら、ああ、本当にコイツはトラブルしか持ってこない、とため息。
「泰樹、すぐにシャワーを浴びて来い! それと、外においてあるリュックは塩で清めた後に洗っておけ! お前、御山で一体何をしてきたっ。遊んできただけじゃないだろう!」
不機嫌に眉を寄せたまま楓太兄ちゃんが腕組みをして泰樹を見据える。うーん、迫力。。。何かって言えば。
「あ、泰樹は、帰りに沢で遭難者のご遺体を見つけたって、ねぇ?」
「あー、うん、そうなんだよねぇー…」
泰樹は、下を向いたまま楓太の顔を見ないように、私の言葉にあいまいにうなずいた。
「…泰樹、お前、連れて帰ってきたな?」
「いやいや、下山させてその後は警察に引き取ってもらったよ?」
「正直に言え」
楓太兄ちゃん、声が怖いよ。
「うー、山小屋に泊まったら、夜に山小屋の周りをずーっとうろうろする足音が聞こえてさ。
これは『迷った登山者』の足音だ、ってわかったんだけどね。入ってくる気配もないし、
しょうがないんで『明日、N沢の方を通って帰ろうっかな、よかったら一緒に帰る?』って
言ってみたんだよ。
そしたら、翌日の朝、N沢を降りて歩いていたら、ご遺体があった、と。
あの人きっと、帰り道わかんなかったんだね。」
うん、泰樹は優しいから、多分、一緒に帰ってくれると思ったんだよね。
迷ってた人もちゃんと下山できてよかったよ。きっと家族が迎えに来て、おうちにも帰れるよね。
「あれ? 楓太兄ちゃん、遭難者さんは無事に下山したんだよね? それなのに、連れて来た??」
よくわからない。楓太兄ちゃん、眉間の縦皺が深くなっているよ、消えなくなるよ?
「晴花、ヘンゼルとグレーテルって知っているか?」
楓太兄ちゃんが、ため息をつきながら説明してくれる。
「知ってるよ、童話でしょ。 パンくず撒きながらおうちに帰るけど、何回目かでそのパンくずが鳥に食べられて帰れなくなっちゃうの…」
未だに、わかりません、お兄様っ! もっと簡単に!!
「ここに、お山からウチまで、パンくずを撒きながら帰ってきたバカがいる」
「はぁ!?」 なんですと!?
「うぇ、やべっ!」
泰樹は、バタバタと風呂場へ走り去った。即行でシャワーを浴びる気らしい。
「修行する予定で御山に入った人間が、遊びやら人助けで無駄に霊力を高めて帰ってきた。中途半端なものだから、点々とその霊力の痕跡を残して帰ってきたんだよ、あのバカは。」
聞きたくはないんですが、一応、お聞きします、お兄様…
「霊力の痕跡があると、どうなるの?」
楓太兄ちゃんが、深いため息とともに教えてくれた。
「御山から、いろいろなモノが、ここを目指してやってくるな」
はあぁぁ!? 要りませんが、そんなものっ!!
「嘆いていても、仕方がない。晴花、玄関を丁寧に掃除しろ。俺は家の外を掃除してから、清めておく。
泰樹! お前は禊をして道場へ行けっ! その無駄な霊力を下げて来いっ!!」
楓太兄ちゃんは、さっさと立ち上がり、テキパキと指示を出していく。なんだか、慣れていて怖いんですけどお兄様…。
多分、今までに何度かやったことあるんだね、この手の事を。ウチの誰かが。
「楓太従兄~、ムダとかって、酷いよ~」
あああ、このバカどうしてくれよう。気づいたのは今頃か、泰樹! 楓太兄ちゃんに言われなかったら、そのままかよっ!!
泰樹は、当分の間、精進料理に決定! 楓太兄ちゃんは、夏の間中、総本山に叩き込んでやるっ!といっていました。
後始末は、泰樹にやらせました。 一晩中ご祈祷です。 ほんとにもうっ!!
実際にあった話を混ぜてみました。折角なんでね~。
これは、ホラーになるのかしら? でも、怖くないよね?、ないよね!?
夜に読んで怖かったら、ごめんなさい。。。