表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

尖閣奪還作戦

作者: 藤居英明

おれは港に近づいた。昨日の未明に潜水で味方は橋頭堡を確保、夜明けとともに艦砲射撃を開始、戦車の揚陸を強行した。

味方は十式という最新式戦車だ。敵は九十八式という戦車で、同じく大漢最強と言われていた。中身はロシアのT―72のコピーというお粗末なものらしい。けれどこの小さな島に百台近くの戦車を揚陸したと俺は聞いた。

「艦砲射撃は南から北へ移れ!支援機も上陸部隊に誤爆するな!」

井上艦隊司令が指示する。

俺は港を駆け上がった。周辺をすでに制圧し、ここは安全だ。しかし、周りは音が聞こえないほどの爆発音だ。この狭い島に敵は一個大隊の戦車部隊がいるそうだ。

「すげぇ音だ!鼓膜が破けちまう!」

「俺なんてこれよ!」

といって陣内は耳栓を見せた。

義勇軍でも一緒だった男だ。田島大輔という大男も一緒だ。それに女性隊員の嶋美幸も。俺の分隊にあてがったのだ。

それにしても嶋が何故、従軍し続けるのか。不思議だったが、彼女も一切語ろうとしなかった。


魚釣島は無人島で欝蒼と木々が生えている未開の小島だ。大漢軍は人海戦術で急ごしらえの要塞にした。道とヘリポートを作っていた。道はおそらく地雷で封鎖しているだろう。道なき道を行かなければならない。上空は友軍に制圧されているが、地上の進軍は遅々として進まない。無数の獣道を作りさかんにゲリラ戦を挑んでくる。

「こんな小島で大軍、ありかよ・・・」

陣内が愚痴る。時折装甲車や戦車の残骸を見た。大漢のものだ。

「ここを再占領しないと、いつ大漢が再び襲って来るかわからねぇ。」

「私はもう、悲劇はたくさんだわ。侵略者は追い出すわ!」

無口な女性の嶋が言う。彼女は小隊であって以来、身の上を聞いたことがない。大きな不幸を背負ったと容易に想像できる。こんなところの戦争など、女性の彼女にはあまりに酷な状況のはずだ。

(俺も戦いに生きる意味を探しているんだ・・・)

ようやく目標の味方陣地に到着した。陣地といっても戦車が一両で守っている百メーター四方の広場だ。島のところどころにある。

到着初日は平穏に過ぎた。



しかしその夜、敵の大号令とともに、方々から照明弾が上がった。野戦壕で仮眠中の俺たちは飛び起きた。台風で大雨になっていた。風はまだそれほどではないが、目も開けられない。

「敵襲!」

味方がさかんにアラートを出す。

昼間、上空制圧されているので、敵は夜襲を掛けてきた。

「敵は戦車5両!野砲も」

この島には大軍が隠されていたのだ。今までの散発攻撃は参考にならない。ネオ皇軍は10式戦車が前面に出る。

「敵は縦列で接近中。前のやつからやるぞ!戦車戦は数ではない。」

戦車長が怒鳴っている。俺も実戦はほとんど初めてだ。極度の緊張感に襲われる。

銃弾が飛び交い、敵は俺たちを殺しに来た。

「第142分隊。対戦車ミサイル扱えるか?」

第142分隊は俺たちの隊だ。

「もちろんです。」

「では頼む!敵はベースを囲んでいる。」

俺はすぐに分隊に指示した。昼間掘った蛸壺(野戦陣地)に入った。ベースの反対側ではかなりの戦力らしい。爆発と銃声が響きわたっている。

「予備弾薬は持ってきたな?今夜は長い夜になるぞ!」

「響分隊長!機銃セット完了!」

「対戦車ミサイルは?」

「まだです。5分ください!」

「ダメだ、3分でやれ!敵戦車はこっちにも来てるぞ!」

前は闇でもキャタピラの音は聞こえる。人の気配もある。裏に回っているのだ。味方戦車は正面に釘付け、ここは俺たちでなんとかするしかない。

暗視装置でみると木々の間を走っている。

「まだだ!撃つな!」

極度の緊張感で撃ちそうになる隊員を制した。俺は照明弾の明かりを頼りに敵を見た。正面の敵は少なくない。木々で見えないが距離五十メートルを切っている。

「撃てっ!」

仕掛けていたクレイモアがところどころで爆発した。闇をさくような悲鳴が上がった。機銃は密林ごとなぎ倒す。

振動とともに戦車が見えた。

「対戦車ミサイル、撃て!」

「こんなもので潰せるのかよ!」

陣内は文句言いながらぶっぱなした。

「次弾、装填。」

そう言っている間に敵戦車は突っ込んできた。

「まずい!一時退避っ!」

「抜かれたか!」

「ともかく後続の歩兵を殺れっ!陣地に入れるな。」

向こうでも大きな戦いになっている。明らかにこの守備兵の数倍の敵だ。どうやら、特にここに集中しているらしい。

「それぞれの陣地を守れ!逃げ道はない!」

ベースはもはや敵に蹂躙され始めた。

「航空要請!ここに全部爆弾を落とせ!」

野戦指揮所では指揮官が怒鳴っていた。

「いいんだよ!ここだ!」

10式戦車も健闘し、今だに健在だった。サイドのスカートも吹っ飛びボロボロだが、複数の戦車と戦っている。

「ここを抜かれたら、他のベースもやばいぞっ!」

すると、ヘリの轟音がした。


俺は白兵戦となっているベースの中で、敵兵とくみあっていた。中国語を喚き散らしているが

「意味分かんねえよ」

と言い返したが、敵に押さえ込まれた。そして突然目の前が太陽のように明るくなった。

ベース中が吹き飛ばされた。


気づくと朝だった。雨は止んでいた。周りは敵味方の死体の山だった。俺は呆然とした。俺は生き残ったんだ・・・。どうやらベースは持ちこたえたらしい。味方が敵の捕虜を、ぞろぞろ銃をつきつけ連れて行く。敵の戦車数台が火を噴いていた。ヘリが夜間攻撃を加えたのだろう。

上空を見るとまだ、残党がいるらしく航空支援する艦載機の姿があった。形が大戦機だ。確か九九艦爆改といった。コイン機として多く使っている機体だそうだ。低速で、このような支援攻撃にはまんざらではないそうだ。パイロット不足のネオ皇軍には、簡易な航空システムの大戦機は、急場しのぎで採用されているらしい。ヘリ空母「大鳳」では珍しく、攻撃ヘリ部隊も積んでいた。支援も十分考えてのことだ。大鳳が積んでいたのは、今回上陸戦のための措置だった。陸軍のヘリは折りたたみが出来ないのだ。だから、そのままの形で甲板に積まれていた。これは、後の千葉上陸戦の時にも役立っていた。

本来陸軍所属の攻撃ヘリが積まれているのは、上陸作戦という特別な作戦があるからだった。ヘリといえども着陸できる場所が海では運用できない。アメリカの空母は敵機飛来を警戒し、この場にいなかった。

「あいつらは・・・」

俺ははっと気づいた。周りには部下が誰一人いない。自分のことばかりで思わず忘れていた。俺はベースをさまよった。

テントのそばで、俯いて大男の田島がうなだれている。

「田島・・・ほかのやつを知らないか?」

田島は俺の顔を一目見て、無言で指差した。そこには何か見下ろす嶋がいた。

「嶋、無事だったか。」

俺は駆け寄った。女性が戦場で死ぬのだけは見たくない。生きていたんだ。

「分隊長・・・生きてたのね・・・」

「ああ、怪我はないか?」

「ないけど・・・」

といって目を横に向けた。

「!陣内!」

遺体は損傷が激しかったが、見間違えるはずもなかった。

「陣内さんは私たちをかばって、敵の手榴弾に・・・」

俺は手が震った。戦争は殺すか殺されるかだが、目のあたりにすると憎しみが沸き立った。最後まで好きにはなれなかったが、気のいいやつだった。


敵の夜襲は数箇所で大損害をもたらせたが、俺たちは敵襲を挫くことができた。

楊は失意を感じていた。兵力の半分を使っての夜襲は大した成果を上げられなかった。結局、俺たちの空母の航空戦力に潰されてしまった。じわじわと自分のいる野戦指揮所に連合軍は近づいているのだ。戦車は連合軍の数を圧倒しているが、性能が違う。最新式と言われる九八式の元はロシアのT―72だ。輸出仕様の簡易な戦車だ。日本の10式の敵ではない。しかも、連合軍にはタンクキラーの攻撃ヘリもある。無駄に将兵の命を消耗しただけだった。

楊は思った。どうせ、本国に帰れば銃殺が待っているだけだ。いっそうのことこいつらを道連れに・・・。その“こいつら”が敵か、味方のことなのか、楊が自殺した今ではわからなかった。

それから一週間戦闘は行われ、大漢軍は降伏した。その中に楊の姿はなかった。野戦指揮所の椅子に正装して、自ら頭を打ち抜いていた。


その日の長安電視台のニュースだ。

「本日、黄尾嶼(中国名:久場島)に一千万人の美日帝国軍が来襲。我が人民軍は果敢に撃退!非情なまでに反撃し、海に追い落としてのだ。敵損害、500万人。人民軍は反撃をくわえ捕虜700万人を殺害した。」

各地で万歳三唱だった。国営放送を誰一人疑う者などいてはならない。その敗北を唱える者は、その日から消え、2度と現れることはなかった。

そもそも、これが本当なら、ジュネーブ条約で戦犯物だが、少数派の意見などどうでもいい。先週、琉球沖で敵を殲滅、太平洋から駆逐した上、今日は、1千2百万人を殺害したのだ。そもそもそんな人間何処にいるのか、という問いはしてはならない。事実であり真実なのだ。共産党は絶対だ。

誰でも知っていたが、大漢当局はこの敗北も隠し、勝利とした。沖縄沖で大勝利、尖閣で敵を非情なまでに殲滅し、司令長官楊炳徳は名誉の戦死をしたというのだ。尖閣は日本の治世にもどった。そのまま上陸部隊が駐留した。第2のキューバ危機は回避された。

「われわれの正義のため楊将軍は名誉の戦死をされた。これからも侵略者どもとの戦いを継続するものである。」

国家主席 劉徳懐は楊の国葬の中、弔辞を述べた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ