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エピローグ

 

 自らの請願を叶え、神々の島から無事生還したイシュルはその後、幾ばくかの紆余曲折を経て故郷のベルシュ村に帰還し、同じ一つ所に死没するまで住み続けた。

 村に帰ってからしばらく、辺境伯家から正式に離籍し、押しかけてきたリフィアと同居することになり、内縁関係となって二人の子どもを儲けた。途中ポーロから村長役を引き受け、農牧を生業なりわいにしたとされるが、リフィアと家庭を持ってからしばらく、ミラ・ディエラードの横槍を受け、また聖王国も暗躍し彼女と正式に結婚することとなった。イシュルはこのミラとの間にも三人の子を儲けた。したがってイシュルは当時、自家とディエラード家との間を行き来する二重生活をしていたことになる。両家は相当距離が離れていたが、そのことを除けば、当時の貴族も庶民も、正妻と内縁の妻、側室や愛人を持つことがめずらしいことではなく、イシュルもまたそのひとりに過ぎなかった。こうした例は男だけでなく、身分の高い女性についても同様で、夫のほかに複数の愛人を持つ者もいた。

 イシュルはその後、幾つかの大小の戦役や、陰謀などの事件に巻き込まれ、多くの冒険をしたとされるが、意外にも六十前にベルシュ村で病没している。当時、彼は風の魔法具に加え、前代未聞の月神の精霊と契約し、絶対不敗、無敵の存在であった。さらにヘレスの恩寵を受けており、永遠の生命を持ち、不死であるとも言われていた。

 それより不思議な、とても偶然ではすまされないことが生じたのは彼の死後、だいぶ時代が進んだ後の世ことだった。彼の子どもたち、その孫や曾孫ら子孫に、大きく名を遺す偉人が多数、輩出したのである。

 まず、リフィアとの間の長子は、生涯結婚しなかったラディス王国女王ペトラの養子になり、後にラディス王家を継ぎ、王都に庶民も入学できる王立学校を創立、ついで貴族院を開設し、近代国家の基礎を築いた。ミラとの間の子ども、その子孫には多くの学者を輩出し、医学や理学、魔法学に革命的な発展をもたらした。なかには中海諸国に移住し、史上はじめて船舶用蒸気機関を発明した者も現れた。

 これらのことは後の時代にも至っても、五つの魔法具を得たイシュルが当時、神に請願したことが叶えられたからだと、広く一般に信じられていた。

 イシュル・ベルシュが異世界からの転生者であり、“名も無き神”の種族であったということは秘密にされたか、信じる者がいなかったか、後世には伝わらず、同様に彼がヘレスに告げた、「おまえたちにいずれ、遠い未来に第二の“統括者”を生み出してやる」との言もおおやけになることはなかった。

 彼がそうまで言いながら、なぜ月の精霊の力を使い自らのやまいを克服し、それらの革新を推し進めることをしなかったのか、何もせず従容と死を受け入れたのか、その理由はわかっていない。

 だがいずれにしろ、イシュルの登場から、このつくられた人類は遥かに遠い進化の果て、神への道を歩みはじめたのだった。

 

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 壮大な物語でした。久しぶりに感動しました。暫くは余韻に浸って他の小説を読む気になれません。ありがとう。
[良い点] 長期間の連載、本当にお疲れ様でした!!大変楽しく読ませていただきました。ありがとうございます!
[一言] 完結おめでとうございます。 また長期にわたる執筆お疲れ様でした。 いつも楽しく読ませてもらっていたので完結は寂しいですが、次回作の準備を進めていることなので楽しみにまっています!
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