血の味
人が増えていく。武器を携えた者たちも農民のように見える者たちも若君の館を十重二十重に囲むように。
若君に従っている者たちが恐怖の悲鳴を上げた。先ほど切り捨てられた老いた侍を見てその場に泣き崩れる者もいた。
若君は無言で相手を見ていた。
このままむざむざ殺されるのは業腹だ。
たとえ殺されるにしてもせめて一矢報いることを、それを思って若君は決してその相手から目をそらしたりしない。
すらりと大太刀を引き抜かれるのをただ見ていた。
その大太刀を正眼に構えるのをただ見ていた。
そして一歩若君に向かって足を踏み出したのをただ見ていた。
そして次の一歩を踏み出す前に若君の足は動いていた。
逃げるほうではなく向かって言った。
急激に近づいた若君に太刀の長さがかえって邪魔をした。そのまま懐に飛び込む。
もし若君が短刀を持っていたならばそのまま勝つこともできたかもしれない。だが若君は寸鉄も帯びていなかった。
持っていたのは我が身の身体のみ。その中で武器となるのはたった一つ。
懐に入り思いっきり太刀を持つ手にかみついた。
若君の歯では致命傷など与えられない。だがせめて相手を無傷で済まさない。それだけの気持ちだった。
苦い血の味がにじむ。しかしあっけなく若君の身体は引き離され地面にたたきつけられた。
顔を思いっきりぶつけて新たな地の味がした。
「猪口才な」
忌々しそうにそう言って上段に太刀を振りかぶる。
そのまま斬り伏せられると初めて目を伏せた。
だがいつまでたっても太刀が振り下ろされることはなかった。
一人の老人が男を押さえていた。
老いているその男は軽く押さえているようにしか見えないのに。男は全く動けないでいた。
「親父、何をする」
老人は冷たい目で男を見ていた。
「無様だな」
そしてその場で腕をひねり男を突き倒した。




