帝の血
荘園で働く農民たちの様子を見る。
田戸がいなくとも畑や田の世話を黙々としていた。
たまに若君に視線を送るがそそくさと見ないふりをする。
田戸に教えられたことと、今農民たちがやっている作業がどのような関係にあるか知ろうとしたが一向に頭に入ってこない。
そもそもの基礎知識が足りなさ過ぎた。
相手に声をかけようとしたがわずかに身じろぎしただけで悲鳴のような声が聞こえそのまま後ずさった。
若君が一歩進めば皆慌てて後ずさる。
会話を試みようとしてもそれが成立しないことを理解した。
まるで怪物を見るような態度で彼らは若君に接していた。
どれほどそこにたたずんでいたとしても周囲の若君を見る目は変わることはない。
若君は困惑を深めた。これから頼らねばならない人間に拒絶されたのだ。荘園を経営するために自分が殺した田戸の力は絶対必要だったと理解した。
だが、新しい田戸を雇う当てもない。八方ふさがりの状況だけを突き付けられる。とぼとぼと屋敷に戻る、
夕焼けが若君を照らす。
日が暮れればまた当てのない明日がやってくる。
そして、ふたたびあの男がやってきた。
「殺しに来たぞ」
男はにたりと笑う。
「何故私が殺されねばならない?」
「お前は帝の血を引いている。帝が、帝の名が京を守っている。京は我らを搾取するだけだ。帝の名がなければとうに京など滅ぼされているはずだ」
男は苦々しげにそう言った。
「ならばその権威を潰せばいい、帝の血を引くお前を無残に殺し、帝など恐れるに足らずと皆にわからせればいいのだ」
そしてすらりと刀を抜いた。
「若君」
様子を見に着た侍が男に立ちふさがろうとしてその場で斬り伏せられた。
若君にとって唯一といっていい信頼できる相手だった。
とっさに屋敷の外に出ればすでにこの男の手下であろう男たちに取り囲まれていた。
「逃げられはしない」
刀をかまえる男の白目が血走っていた。
目の周りが赤く染まり男が興奮しきっているのがわかる。
逃げることはできない、背を向ければその場で斬り伏せられる未来しか見えない。
立ち向かう?
その場でしばし考える。
無性に笑えてきた。




